今日の工房 

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2020年2月5日(水)保存製本の手法を取り入れた一事例

お客様より製本のご依頼をいただきました。
お預かりした資料は、本紙は綴じられておらず、一葉一括(一枚一折り)の本紙束が表紙に模したコの字型カバーに挟まれ、スリップケースに収納されていました。これを、元のコの字型カバーを表紙として活かし、本体を綴じて製本してほしいとのご依頼でしたが、本の形態に仕立てるには2つの問題がありました。

 

①本体の背幅とコの字型カバーの背幅が合っていない。約8㎜程度本体の背幅が薄い。

②表紙となるコの字型カバーは、本の表紙を想定して作られていないため、本体と表紙を接合した際に、ヒンジ部に過度の負荷がかかり損傷の原因になってしまう。

 

上記2点を解決するため、保存製本(コンサベーション・バインディング)の手法を取り入れ製本しました。

 

まず、①の問題を解決するために、“concertina guard”とよばれる本来は本体の括の背を保護するために用いる方法を取り入れました。蛇腹状に折り畳んだ和紙の間に括を挟み入れて、本体の背の厚みを増し、さらに綴じていく糸でも厚みが増すことで、カバーと本体の厚みの差を調整しました。

 

次に、②のヒンジ部の負荷を分散させるために、“hinged hollow”と呼ばれるヒンジ部が2段階構造になる方法を取り入れました。この製本方法は1980年代にフィンランドの製本業者が開発した“OTABIND”という方法から発展し、現在は保存製本の一つとして応用されています。今回は、本体の見開きを考慮して表紙側のみ、この方法を取り入れました。

 

元の角背の構造を活かしつつ、本の開閉時にかかるヒンジ部の負担を軽減することができ、元のスリップケースにも納まるよう仕上がりました。

 

【関連リンク】
OTABAINDについて
“hinged hollow”を利用した修理事例

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