今日の工房 2017年

週替わりの工房風景をご覧ください。毎日こんな仕事をしています。

2017年12月20日(水)小ぶりの真鍮製の重石は、さまざまな作業で使い重宝しています。

手元での修理作業に使う小さめの重石。直径50㎜、重さ約330g。真鍮の円柱を20㎜の厚さに輪切り加工してもらい、滑り止めと資料へのあたりを和らげるために、表面にポリエチレン不織布のタイベックを貼ったもの。片手でも扱いやすく、資料を抑える適度な重量がある。

 

立体的な資料を処置する時の支えや、高さの調整、糸の結び目をつぶしたり目打ちなどを叩く道具としても使う。多用途に使えるこの重石、工房には100個近くもあり、各々の作業に使用されています。

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2017年12月13日(水)強い衝撃から資料を守るポリエチレンフォームAZOTE®を組み込んだ保存箱

物理的な衝撃に弱い資料の保管には緩衝材付きの保存箱をお勧めしている。緩衝材にはポリエステル製の綿布団以外に、腐食ガスが発生しない、ポリエチレン樹脂を特殊発泡させたフォーム材AZOTE®(プラスタゾート)を採用している。

 

一般的なフォーム材の製造には化学発泡剤が使われており 、発泡体に残留したホルムアルデヒドやアンモニア系のガスが接触した資料に腐食や染みを起こす原因となることがある。AZOTE® は化学発泡剤を用いない超臨界窒素ガス発泡方式で製造された、有害ガスを放出する危険がないクリーンなフォーム材だ。また純粋なポリエチレンが原料なので対候性や耐薬品性も高く、一つ一つの気泡が均一なため物理的強度が高く耐水性も優れている。 AZOTE® はヨーロッパ諸国では何十年もの間、多くの博物館・美術館などで保存用クッション材として採用されており、精密機器や軍需品など様々な分野での輸送にも使われている。 PAT(ISO18916:2007 写真保存用包材のための写真活性度試験)もパスしており、直接資料に長期間接しても問題のないことが確認済みだ。

 

AZOTE® を使用した保存箱の事例をいくつか紹介する。

 

①ガラス乾板用のシンク付き保存箱

割れや画像の剥離が起きている乾板は縦置きでの保管ができないため、乾板サイズに合わせたシンクに平置きして箱に収納する。 AZOTE®で作る乾板用シンクはクッション性があり、たわまない強度も保持している。

 

②小物をまとめて収納するための仕切り付きの保存箱

陶器製の香合の身と蓋をそれぞれ落とし込む部屋をAZOTE® で作った。加工性が高く、資料がぴったりと収まる設計で作ることができる。

 

③複雑な形状の陶芸作品用の保存箱

立体的な造形作品などは「薄葉紙 Qlumin くるみん」で包んでから、AZOTE® を内側に貼り込んだ保存箱へ収納すると、より安全に保管ができる。

 

④額装作品用にコーナーを取り付けた保存箱

額などを四隅で固定するコーナーにAZOTE®を使用した。接触面の摩擦が少ないので、額に対してタイトに取り付けても額を傷つけない。蓋の内側の額に接触する箇所にAZOTE®を取り付けると、描画面に接触させずに額をしっかりと固定ができる。

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2017年12月7日(木) 国立女性教育会館主催の保存修復研修実技コース後のアンケートで、さまざまなご感想、ご意見をいただきました。

11月20日(月)から11月22日(水)に開催された国立女性教育会館女性アーカイブセンターが主催する平成29年度アーカイブ保存修復研修のうち、21日(火)と22日(水)の実技コースとオプション(弊社工房見学)を、昨年度に続き担当しました。

 

実習内容は昨年度と同様で、「ソフトカバー(小冊子)などの図書資料への簡易処置」、「ハードカバー(くるみ製本)などの図書資料への簡易処置」を行いました。昨年度は資料管理を業務としている参加者が多く、日常的に手を動かして処置をしているわけではないが、資料の構造や適切な処置の方法を知ることで、今後の資料の保存や管理に役立てたいと考えている方々が多かったように感じましたが、今回の参加者は、自館で修理業務に携わっている方や、修理技術を身に着けたいという目的で参加された方も多く、実習の最後に行った質疑応答では、昨年度に比べ技術的な質問を多く頂きました。

 

また、研修後に実施された「平成29年度アーカイブ保存修復研修(実技コース)アンケートの集計結果」によると、研修内容についての満足度では、参加者26名のうち、「非常に満足した」が20名、「概ね満足した」が5名、「少し物足りなかった」が1名と、大半の方に満足していただけました。

 

 

各設問に対して自由に記述するアンケートでは、以下のような回答をいただきました(抜粋して掲載)。

 

「どのような点に興味を持ち参加しましたか?」

▶︎補修の研修を受けたことがなく、職場で所蔵資料の劣化を見るにつけ、何とか自分でもできる技術を学ばせていただきたいと思いました。

▶︎プロの講師の方の指導を受けられる点、「自館でもできる処置」という実用性の高さとハードルの低さ。

▶︎日頃は委託スタッフさんにお願いしている針抜き和綴じの作業やハードカバーの簡易製本の修理など、製本担当なので、しくみとして知っていた方が修理の依頼も出しやすいので希望しました。

 

「研修の内容はいかがでしたか。」「実技コースの満足度は?」

▶︎ ていねいにわかりやすく進めてくれました。実際にやってみるので、話を聞いただけではうろ覚えになってしまうことを確認しながら身につけることができました。

▶︎ 作業のスピードも丁寧でたくさん質問をする機会もあり有意義でした。

▶︎ 通常業務にすぐ活かせる内容でとても役に立つと思います。撮影OKなのもあとで復習する際の助けになるのでたいへん有り難かったです。

▶︎ 各自の館で出来る修復の基本がわかって良かったと思います。一つ一つの作業や手順も難しいものではなく、初心者でも知っていればできるようなものなので現場で役立てられると思います。専門家に相談した方がよいのか判断するのにも参考になる内容で良かったです。

▶︎材料や道具を用意していただけるのが良いと思いました。自分で準備するとどのようなものがよいかわからないため、身近にあって使いにくいもので間に合わせてしまいがちなので何から揃えればよいのかがわかって参考になりました。

▶︎ 厚紙・伸縮包帯・市販のりなど手近にあるものでも一応の修理ができるというアイデアを教えてくださったのは、実に有意義でした。

 

「今後、どのような内容の研修を希望しますか?」

▶︎ 背の壊れたハードカバーの修理
▶︎ 水濡れ資料の処置

▶︎ 切れたり破れた頁の補修

▶︎ 無線綴じや和綴じの本の補修

▶︎ 防虫、防カビ、カビからの修復や手当など

▶︎ 資料クリーニング等の実技研修

▶︎ 打ちなど一枚モノで紙が劣化している資料の修復や手当の方法の実習

▶︎ レベル別(初級・中級・上級のような感じ)でより様々な保存修復処置。

 

ご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました。いただいたご意見、ご感想は、今後弊社で行う実習等に取り入れさせていただきます。

 

なお、実習で使用した配布資料は国立女性教育会館リポジトリからご覧になれます。

 ・ソフトカバー(小冊子)などの図書資料への簡易処置

・ハードカバー(くるみ製本)などの図書資料への簡易処置

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2017年11月29日(水)東京大学経済学部図書館資料室と慶應義塾大学のスタッフの方々を弊社にお招きし、洋式製本についての研修を行いました。

東京大学経済学部図書館資料室は経済学図書館が所蔵する貴重な一次資料を保存・管理することを主な目的としています。資料保存についてもさまざまな調査・ 研究を行い、その成果を発表しています

 

今回の研修では、同資料室と慶應義塾大学などのスタッフの方々による科学研究費助成事業(科研)の、「日本の洋式製本の技術伝播に関する歴史的研究 : 洋装本資料保存のための基盤整備」というテーマに即して、実際の書籍やモデルを使い、明治期に日本に伝わってきた洋式製本の構造の紹介と、手作業による体験講座を行いました。

 

洋式製本の構造は西洋では19世紀初めに、それまでの綴じ付け製本(sewn board binding, laced-in binding)からくるみ製本(cased binding)へと大きく転換します。前者は本文紙の綴じを行った後に、表紙の芯材(board)を、綴じた本文紙の束(本体=text block)に綴じ付け、その後に革や布で表装しますが、後者のくるみ製本は、本体の綴じとは別に、表装も含めた表紙を別工程で作り、これで本体をくるむ(casing)という方法です。本体と表紙を別々に作成できるため、商業的な大量製本向けの方法として採用され、以後、現在に至るまでハードカバーの書籍の製本方法として多く使われています。

 

日本では明治期に、当時の大蔵省印刷局がお雇い外国人を招き、洋式製本技術を教わるとともに、民間への普及に努めました。この時に、古典的な綴じ付け製本も伝わりましたが、すぐにくるみ製本に移行したようです。

 

今回の研修では、明治期に伝わった複式帳簿の製本(stationary binding )を軸として、綴じ付け製本法やくるみ製本法などを用いて、本体の構造や綴じ方、本体と表紙の接合方法の違いを比較するため、製本を解体し、通常では隠れているところをご覧いただきました。また、かがり綴じや、表紙と本体の接合などの工程を実践し、製本モデルの試作も行いました。

 

帳簿は、あらかじめ本文が印刷された「読むための本」と違い、製本されたものに記帳していく「書き込むための本」であることから、頻繁な開閉にも耐えるように、堅牢でバネ(spring)の効いた背であること、記帳しやすいようにノドの奥まで180度開くことが要求されます。これらを叶えるため、構造的な工夫がいくつも施されています。

 

書籍は、製本後は中の構造や構成物が見えなくなる立体物のため、酷い傷みによりバラバラになった本を目の当たりにしない限り、内側まで見る機会はあまりないとのことでしたので、一層のご理解をいただけたことと思います。研修中は様々な意見交換ができ、私どもにとっても大変有意義な時間でした。

 

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ステーショナリー・バインディングに対する保存修復処置

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2017年11月22日(水) 全史料協全国大会に出店しました。近日発売予定の新薄葉紙が好評でした。

11月9日から10日の2日間、神奈川県相模原市で行われた全国歴史資料保存利用期間連絡協議会第43回全国大会「公文書館法30年ー今、問われる公文書管理ー」に出展しました。この大会は全国からアーカイブズに携わる方々が多く参加され今年の来場者数は246名でした。当社のブースでは修理資料のサンプルや、アーカイバル容器、無酸素パック「Moldenybe®モルデナイベ」、「汚染ガス吸着シートGasQ®ガスキュウ」を展示しました。新しく導入を検討されている機関の方からは使い方等の質問を。現在製品をご利用いただいているお客様からは、製品に対する感想やご要望など貴重なご意見を伺うことができました。近日発売予定の「新薄葉紙Qluminくるみん」はお客様に実際手に取ってもらいとても高評価をいただきました。

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2017年11月15日(水) 修理工房で使う2種類の加湿器

修理工房内で使用する加湿器は2種類あります。乾燥しやすくなるこれからの季節、紙や革が反ったり丸まったりするのを防ぐため、室内の湿度調整用に気化式の加湿器を導入しています。これとは別に、修理作業に用いるのは超音波加湿器です。超音波振動で発生するミストによって、資料に対してゆっくり穏やかに水分を与えることが可能となります。例えば、トレーシングペーパーの様に水分に敏感な素材のフラットニング処置などで使用されています。

 

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2016年8月3日(水) 無酸素パック「モルデナイベ」は工房でも加湿や修理用の材料の保管などに活用しています。

2013年11月28日(木)修理工房の温度・湿度を管理

2012年06月21日(木)巻き癖の強い図面の水蒸気による加湿フラットニング

2012年02月16日(木)経年劣化により物理的強度が低下したトレーシング・ペーパーの修復

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2017年11月8日(水)11月7日(火)から9日(木)まで、パシフィコ横浜で行われている「第19回図書館総合展」に出展しています。

第19回図書館総合展が開催されています。期日は明日11月9日(木)まで。

 

今年は、修理部門の作業風景をブース内に再現し、処置で実際に使われている道具や材料をご覧頂けるようになっています。資料サンプルや事例を交えて修理方法、費用、期間のほかサービスや製品について具体的に解説いたしますので、ぜひお気軽にスタッフまでお声をおかけください。アーカイバル容器部門では無酸素パック「Moldenybeモルデナイベ®」汚染ガス吸着シート「GasQガスキュウ®」「ドライクリーニング・ボックス」などのラインナップに加え、現在開発中の新製品や近日発売予定の「新薄葉紙Qluminくるみん」も参考出品しております。弊社ブースへお立ち寄りのうえ、どうぞお手にとってご覧下さい。

 

ブース番号46にて皆様をお待ちしておりますので、ぜひご来場下さい。

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2017年11月1日(水) 修理に欠かせない手道具の骨ヘラを頂戴しました。

日頃の修理作業において、欠かせない手道具の骨ヘラ。この度、弊社古くから大変お世話になっている方が、大切に持っていらした骨ヘラを私どもにプレゼントしてくださいました。かつてその方がドイツで購入したものとのこと。小ぶりで小回りが利き、手に大変馴染みやすく、大切な道具の一つとなりました。このあとの年末年度末のさらなる繁忙期を乗り越えるにあたり、心強い贈り物でした。

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2017年10月25日(水) 年始あいさつ用の手拭いのデザインはどれに?

今年も残すところあと2ヶ月となりました。これから年末に向けて徐々に慌ただしくなるこの時期、新年の準備も始まっています。日ごろお世話になっている方々へ年始にお配りする手ぬぐいのデザインを選ぶのもこの時期の仕事。毎年スタッフ全員の投票形式で決めています。来年は戌年ということで、犬柄のデザイン数種類の中から決めるのですが、どれも甲乙つけがたく、スタッフ一同あれこれ迷いながら一番良いと思うデザインに一票を投じました。さて、来年お正月の手ぬぐいはどんなデザインに決まるのでしょうか。

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2017年10月18日(水)接着剤で無線綴じされた図録を折丁仕立てに作り直し、きれいに見開くように再製本する。

無線綴じされた図録。本紙の背を断裁し、それぞれのページを一枚ものにして束ね、背側の端を接着剤で固めて製本されている。経年により接着剤が劣化し、本紙は一枚ずつバラバラの状態に外れている。本紙が厚く柔軟でないため、そのまま糸で平綴じで修理を行うと見開きが悪くなり、紙への負荷もかかる。

 

断裁された本紙の背を短冊状の和紙でつなぎあわせて折丁の背を作り直した後、折丁を組み合わせた括を作り、糸で綴じ合わせてゆく(かがり綴じ)。手間のかかる工程であるが、これにより、のど元まできれいに見開ける仕上がりになる。

 

* かがり綴じ、平綴じ、中綴じ、無線綴じの断面図

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2017年10月11日(水) 資料のファイルと保存処置が同時にできるアーカイバル・バインダーの容量を拡大した改良品を開発中です。

アーカイバル・バインダーは透明のリフィルポケットに1枚物の紙資料などをファイルできる、リングバインダー付きのシェルボックスです。資料のファイリングと保存処置が同時にできるバインダーとして開発しました。透明リフィルに収納したまま中身の確認・閲覧ができるため、書類や原稿・印刷物・写真プリント・ネガフィルム・スライドなどの整理に便利です。また、資料の表裏を確認できるので、パンフレットやカタログなど薄い冊子のコレクションに利用するお客様もいらっしゃいます。

 

リフィルの素材は化学的に安定性の高いポリプロピレン製で、PAT(ISO18916:写真活性度試験)もパスしています。一般のビニール製品とは違い、素材に劣化要因となる可塑剤などの添加物は含みませんので、中の資料に安全です。

 

より沢山の資料を1箱に収納したいとのご要望をお客様から受け、バインダーのリングサイズを大きくした箱を試作中です。収納量が増えた分、中身の荷重に箱や部品が耐えられるよう、設計に改良を加えながら強度の検証を重ねています。販売開始までもうしばらくお時間をいただきますが、現行商品に比べ1.5倍程度の容量拡大が目標です。

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2017年10月4日(水)国立女性教育会館女性アーカイブセンター主催の保存修復研修が今年も開催されます。

国立女性教育会館女性アーカイブセンターが主催する平成29年度アーカイブ保存修復研修が11月20日(月)から11月22日(水)にかけて開催されます。「基礎コース」、「実技コース」、「オプション」のカリキュラムに分かれており、弊社では今年度も「実技コース」と「オプション(弊社工房見学)」を担当させていただきます。

 

昨年度ご好評いただいた“図書資料への館内でもできる処置”と題した簡易修理の実習を、同じ内容で今年度も行います。昨年度参加できなかった方はもちろん、昨年度参加したけれど、もう一度参加して理解を深めたいという方も、ふるってご応募下さい。

 

[実習内容詳細]

・紙資料の修復関連実習①  ソフトカバー(小冊子)などの図書資料への館内でもできる処置(金属除去、綴じ直し、修補)の実習

・紙資料の修復関連実習②  ハードカバー(くるみ製本)などの図書資料への館内でもできる処置(背ごしらえ、表紙・背表紙の接合、修補)の実習

 

 

* 画像は昨年度の実習風景。

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2017年9月27日(水) この秋に開催されるいくつもの展示会に出展します。

今秋も、恒例の図書館総合展を始め、以下の展示会に出展します。期間中は弊社スタッフが常駐(※)していますので、資料の修理や保存方法のお悩み、費用や期間など様々なご相談・ご質問にお答えします。お気軽にお声がけください。

 

第37回文化財防虫防菌処理実務講習会 国立オリンピック記念青少年総合センター 10月3日(火)・10月4日(水)

 

芸工展2017「修復のお仕事展’17 ~伝えるもの・想い~」 旧平櫛田中邸アトリエ 10月8日(日)~10月15日(日)

 

日本写真保存センター 大阪セミナー「写真フィルムを長期保存する-講演と包材のデモンストレーション-」 メットライフ本町スクエア(旧大阪丸紅ビル) 10月20日(金)

 

第19回図書館総合展 パシフィコ横浜 11月7日(火)~11月9日(木)

 

全史料協全国大会 公文書館法30年 -今、問われる公文書管理- 杜のホールはしもと 11月9日(木)・10日(金)

 

※「修復のお仕事展」では常駐はしておりません。

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2017年9月20日(水)本紙の破れを修補するときの道具・材料とセッティング

本紙の破れを修補するとき、デンプン糊を和紙に塗布、もしくは本紙に塗布して和紙を当てて補強する。デンプン糊は接着力が非常に強いので、水で薄めて使用するぐらいがちょうど良いが、薄すぎると和紙が剥がれたり輪染みになったり、濃すぎると紙がこわばる原因になる。

 

 糊を塗布する際は筆や刷毛を使用する。修補の範囲によって、細筆、平筆、小刷毛、糊刷毛を使い分ける。このほか、糊が手や道具、作業台など余計なところに付かないよう注意し、もし付いたときにはさっと拭き取れるよう、濡らした布巾を用意しておく。

 

修補に使う和紙は、本紙の厚みや色、補強の程度によって選択する。喰い裂きの和紙は毛羽の影が目立つこともあるので、あえて断ち切りの和紙を使用することもある。冊子や新聞などの紙資料は、最初から最後のページまで同じ箇所が破れていることがよくあるので、このように同じ破損を一度にたくさん修補するときには、断ち切りした短冊状の和紙をあらかじめ用意しておく。

 

最後に、修補した箇所が不均一な乾燥によってシワになったり、つっぱったりしないよう、不織布ろ紙、更に重石をのせてしっかり乾燥させることが、良い仕上がりのためのポイントとなる。

 

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今日の工房 2017年1月18日(水)修理に欠かせな道具・材料ーリーフキャスティング(漉き嵌め)で使用する竹簾

 

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2017年9月14日(木)松竹大谷図書館、映画関連記事スクラップの保存等で新たなクラウドファンディング

公益財団法人松竹大谷図書館は「クラウドファンディング<第6弾>歌舞伎や映画、銀幕が伝えた記憶を宝箱で守る」として、46万点以上の資料を収める電動書架のメンテナンスと、約4,000冊もの映画製作当時の記事が貼り込まれた映画スクラップを保護する保存箱を作るプロジェクトのため支援金を募集しています。募集期間は9月5日(火)から10月25日(水)の50日間です。

 

松竹大谷図書館は、松竹株式会社の創立者の一人・故大谷竹次郎(1877~1969)が昭和30年(1955)に文化勲章を受章したのを記念して、昭和31年(1956)に設立した演劇と映画の専門図書館です。長年にわたり演劇・映画事業にたずさわってきた松竹株式会社が、収集・所蔵してきた資料を広く一般に公開し、研究者や愛好家の利用に供して、芸術文化の振興と、社会文化の向上発展に寄与することを目的として設立されました。

 

同館には、約300年前の浄瑠璃正本や、阿国歌舞伎の様子を伝える貴重な資料「かふきのさうし」(非公開)をはじめ、演劇(歌舞伎・文楽・新派・新劇・商業演劇を主に)、映画、日本舞踊、テレビ等に関する台本・文献・雑誌・写真・プログラム・ポスター等、46万点を超える資料が収蔵され、これまでにもクラウドファンディングを利用したアーカイブ事業を実施しています。

 

クラウドファンディング – Readyfor(レディーフォー)
プロジェクトの詳細はこちら↓
https://readyfor.jp/projects/ootanitoshokan6

 

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2017年9月6日(水)映画の復元と保存ワークショップで「ノンフィルム資料の保存と修復」実習を行いました。

8月25日(金)〜27日(日)に「映画の復元と保存に関するワークショップ」実行委員会主催の『第12回映画の復元と保存に関するワークショップ』が行われ、初日の「ノンフィルム資料の保存と修復」東京国立近代美術館フィルムセンターと実行委員会の共催の実習を弊社で担当しました。「ノンフィルム資料」とは、映画に関連する雑誌、書籍、ポスター、チラシ等々を指します。

 

実習の前には、フィルムセンター所蔵資料の解説と、館内の収蔵庫、書庫、閲覧室を主任研究員の岡田氏をはじめスタッフの方々がご案内くださいました。アーカイブ的、網羅的、合理的といった信念のもと活動されている様子が伝わってくる見学会でした。

 

「ノンフィルム資料の保存と修復」実習では、国内外からご参加くださった20名とともに、破れた資料に対する和紙とでんぷん糊での修補や、小冊子の金属除去、綴じ直し、背表紙修補を行いました。その後の質疑応答でも、とても実務的な話題が多く、非常に充実した出講となりました。

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2017年8月30日(水)定番の組み立て型の被せ蓋式保存箱の重量負荷試験の結果は?

保存容器のなかでも最も定番の商品が、蓋と身のパーツが分かれたタイプの「被せ蓋式」といわれるもの。これには完成箱と組み立て型の2つのタイプがあります。完成箱は接着剤を使い、弊社で最終的な箱の形にまで加工して出荷するタイプです。一方の組み立て型は、蓋と身が、平たい板状のパーツとして出荷され、お客様ご自身が組み上げて作るタイプで、組立には接着剤は必要ありません。

 

組み立て型は完成箱に比べて価格も安いのですが、強度的にどの程度のものか気にされる方もいらっしゃいます。例えば中に資料を詰め込んだ時に、その重さのために箱が変形したり潰れたりしないだろうか、というご質問をいただくことがあります。

 

定番であるA3サイズの組み立て型に簡単な重量負荷試験を行いました。目一杯に詰め込んだ資料の総重量を20kg程度と見越して、1個6kgの重石を入れて持ち上げたところ、4個(24kg)入れても問題なく持ち上げることができました。また、蓋の上に重石を10個(60kg)置いても、側板が若干たわむものの、箱がつぶれることはありませんでした。通常の使用においては十分な強度であると考えられます。

 

ある程度以上の大きさや特に重たい資料の時には完成箱が適していますが、文書や小さなモノ資料、書籍などを整理保管するには組み立て型でも安心してご使用いただけます。

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2017年8月23日(水) 修理に使う2種類のポリエステル製不織布。

修理に使う2種類の不織布。不織布とは繊維を織らずに絡み合わせて、熱などでシート状にしたもの。どちらの不織布もポリエステル製で、水を通すが吸水性は低く、薄くて柔軟性がある。

 

2種類のうち一方は目が詰まり表面が平滑で、繊維の毛羽立ちがないタイプの不織布で、作業中のデリケートな資料の表面を保護する目的で使用される。また、ポリエステル製であるため基本的にデンプン糊が効かず、貼り付いたとしても簡単に剥がすことができる。そこで糊を使う処置をした箇所は不織布で挟んでから、ろ紙や重石を置いて乾燥させ、ろ紙や資料同士の貼り付きを防ぐ。

 

もう1種類は比較的目が粗いタイプの不織布。水の通りが良く、資料を洗浄する際の洗浄ポケットや、和紙を染色する際の養生に適している。

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2017年8月17日(水) 厚くて重い大型洋装本にはブックシュー構造のシェル型保存箱をお勧めします。

書籍用保存箱は資料のサイズや用途に合わせて、製作する箱種を選び、お客様にお勧めするが、特に重量のある書籍を縦置きしたいというご要望にピッタリなのが、底上げしたシェル(二枚貝)型の保存箱だ。

 

書籍用の定番商品には、比較的薄い冊子などの資料向けのスリムフォルダーと、物理的な保護強度が求められる貴重書などの通常の書籍にはヒネリ留め具付きのタトウ式保存箱がある。タトウ箱は四方に展開できる構造なので、出し入れの時の資料への負担を大幅に軽減できる。しかしいずれの箱も、厚みがあってサイズも大きな書籍を縦置きしたい場合には、底部分にかかる重量を箱が支えきれず、取り扱い時に底が抜けてしまい、資料が落下する危険性がある。

 

図鑑や辞書、聖書などで特に重量のある大型書籍用にはシェル型の保存箱が強度面でより適している。中身の出し入れの際は書籍を厚手の板紙に載せてスライドさせるので、表紙が箱の内側で擦れる心配がない。洋装本の場合は表紙と本紙の底面の段差だけ底上げした構造(ブックシュー)にすることで、縦置きで保管する時の書籍へのストレスを軽減させている。また蓋をボアテープで固定することで、安全に持ち運びができる。

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2017年8月9日(水)資料の修理に不可欠な道具のひとつがプレス機です。

弊社では様々な形状、大きさのプレス機を用途に合わせて使い分けています。

 

本の場合は、定位置に本を固定させてスムースに手作業をするために、作業台に載るような小・中型のプレス機を使います。本を挟んだプレスごと、縦に置いたり横にしたりできます。

 

一方、図面やポスタ―などの一枚モノで比較的大きなサイズの資料の場合は、床に据え置きの大型プレス機が不可欠です。波打ちしていたり、全面にわたる破損部を修補した後に、わずかに湿らせ、濾紙を挟み、何度も濾紙を交換しながら、資料が均一にフラットになり落ち着くまで、時間をかけて乾燥させます。

 

さらにより強い圧をかけたい場合はスタンディングプレスを使います。下段右端の画像は、水損した本をまとめてフラットニングと乾燥をしている様子。水分を含んで歪んでしまった本を、数日かけて徐々に圧を加え、歪みを正しながら元の形に直していきます。

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