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2020年6月10日(水)手繕いによる虫損の修補

虫損のある文書や和装本の修理の際、虫穴の小さいものや、全体のうち数丁・数か所だけに虫損が見られるといった軽度の損傷の場合は、「手繕い」という方法で修補を行います。手繕いとは、本紙の裏側から虫損の穴の周りにデンプン糊を塗り、喰い裂きにした和紙を欠損箇所に貼って一つ一つ埋めていく作業です。

 

手繕いに用いる和紙は生成りのまま使用することもあれば、本紙の色に合わせて染色和紙を使用することもあります。和装本の場合、何丁も続けて同じような箇所の虫穴を埋めるため、部分的に厚くなりすぎないように和紙の厚みを選び、また、丁が重なった際に和紙の色が濃くなりすぎないよう、本紙よりもワントーン落とした色合いのものを選択するなど、仕上がりをイメージしながら調整します。

 

手繕いの際は、和紙を喰い裂きにすることで本紙との馴染みが良くなり、本紙と重なり合う部分の段差も目立ちにくくなります。虫損が大きかったり広範囲に及ぶ場合は、和紙を虫損に被せた状態で虫穴より数ミリ大きく水筆でなぞり、ちぎって喰い裂きにした補修紙を使用します。修補後は不織布を被せてろ紙に挟み、シワや引きつれが起こらないよう重石を置いてしっかりと乾燥させます。実際の修理では、虫損以外に破れや老け(水損やカビが原因による紙の繊維化)といった損傷が一冊の中で複合的に起きていることもあるため、資料の状態を見て、繕い以外の方法も含めた適切な処置を選択します。

 

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