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今日の工房 2026年 6月
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2026年6月26日(金)光ディスクは本当に長持ちするのか―劣化事例から考えるCD・DVD・Blu-rayの保存

記録層・反射層がはがれ、穴のように透けてしまったディスク

層と層のあいだがはがれ、油膜のような虹色のムラが広がったディスク

反射層が変色し、全体が白っぽくくもったディスク

反射層が点々と腐食・変色したディスク(ディスク・ロット)

表面にカビが発生しているディスク

樹脂ケース入りのディスクを、仕切りで分類して収納する保存箱

ディスクとライナーノーツを部屋分けし、汚染ガス吸着シートGasQを組み込んだ保存箱
光ディスクは、1982年の音楽用CDに始まり、DVD、Blu-rayへと容量を増やしながら、音楽・映像・データの記録に広く使われてきました。針や磁気ヘッドが触れず、レーザー光で読み書きするため、登場当初は「長く保存できるメディア」と期待されていました。
ところが現在、光ディスクは二つの方向から時間に追われています。ひとつは、メディア自体の劣化。もうひとつは、読み書きする機器の減少です。たとえばソニーでは、ブルーレイディスクメディアの生産終了に続き、ブルーレイディスクレコーダーも出荷終了が案内されています。ディスクそのものだけでなく、「読み出す手段」も、いつまでも当たり前に残るとは限りません。
見た目には変わらないように見えるディスクでも、材料や構造、置かれた環境によって、少しずつ劣化は進みます。その弱点を知っておくことで、保管や取り扱いで注意すべき点も見えてきます。
なぜ劣化するのか―構造と弱点
CD・DVD・Blu-rayに共通するのは、レーザー光で記録された情報を読み取るという仕組みです。記録面側から入ったレーザーが、記録層の凹凸や反射率の差を、反射層が返す光の強弱として読み取ります。
記録の方法は方式で異なり、プレス盤は物理的な凹凸を成形し、CD-RやDVD-Rなどの追記型は記録層の色素に光学的な変化を与え、書き換え型は相変化材料の状態変化を使います。Blu-rayの追記型には、色素を使うタイプと、無機材料を使うタイプがあります。
この薄い層が何層も重なった構造は、どこか一つが傷むだけで、レーザーが正しく反射光を読めなくなります。しかも劣化は一気に起こるより、小さなきっかけから少しずつ範囲を広げていくのが特徴です。代表的な劣化の例を見てみます。
[写真1:レーベル面から記録層までが剥がれ、穴のあいたディスク]
ひとつは、反射層・記録層の剥離(層の欠落)です。とくにCDは記録層がレーベル面のすぐ下にあるため、表側の保護層(ラッカー)の傷や劣化が引き金になります。そこから反射層が剥がれ始めると、その部分は光が透ける透明な抜け(ピンホール)になり、抜けが広がるほど読み取れない領域が増えていきます。
[写真2:不織布のディスクケースに収納し、接触面が変質したディスク]
次に、層間剥離です。湿気の侵入や接着の劣化で層と層のあいだに微小な空隙ができると、油膜のような虹色のムラ(干渉色)が現れます。これは層が浮き始めたサインで、進行すると層そのものが分離し、データを読み出せなくなります。やわらかく見える不織布でも、長期間の接触は表面の変質や、こうした剥離の入口になり得ます。
[写真3:反射層の金属が変色したディスク]
そして、ディスク・ロット(反射層の腐食・変色)です。反射層(プレスCDではアルミ、種類により銀など)が酸化・腐食すると、銅色〜黄褐色に変色し、反射率が落ちて読み取り不能に向かいます。金は比較的安定していますが、銀やアルミは硫化物・酸性ガスや湿気に弱いためです。現れ方はさまざまで、面全体がくもるように進むこともあれば、点状の斑点として散らばることもあります[写真4]。なかでも、空気や湿気の入口になる外周のエッジから内側へ進むものは「ブロンジング」と呼ばれ、進行すると光に透かしたときに無数の微小な透明斑(snow)が見えるようになります。古い例では、1980年代末〜90年代初頭に英国PDO社でプレスされた一部のCDで、ブックレットの紙に含まれる硫黄分が保護ラッカー層の欠陥から侵入してアルミ層と反応し、ブロンズ色に変色する「PDOブロンジング」が知られています。腐食や変色によって反射率が落ちると、レーザー光を正しく読み取れなくなります。
このほか、CD-RやDVD-Rでは記録層の色素が光・熱・湿気で少しずつ劣化(褪色)し、マークの判別が弱まってエラーが増えていきます。また、高温多湿の環境ではカビ(菌類)が発生することがあり、菌糸が表面にとどまらず保護層や基板、反射層まで侵食して、記録された情報そのものを壊してしまうこともあります[写真5]。高湿度では、基板のポリカーボネート樹脂が反りやひずみを起こすこともあります。
これらの劣化に共通するのは、熱・湿度・汚染ガス・光、そして高湿度が招くカビといった要因が引き金になり、いったん始まると徐々に広がっていく点です。保存では、こうした要因をできるだけ抑え、進行を遅らせることが基本になります。
保存環境で劣化を遅らせる
光ディスクの長期保存については、ISO 18925:2013に保存環境の考え方が示されています。温度は低めに、相対湿度は安定して保ち、高温多湿や急激な変動を避けることが基本です。あわせて、汚染ガスや光への露出もできるだけ抑えます。低温・低湿で安定した環境ほど、メディアの劣化を遅らせることができます。
参考までに、国立国会図書館は、光ディスクの寿命を一般に10年以上、条件がよければ20〜30年程度と紹介しています。ただし、寿命はディスクの種類、製造品質、記録状態、保存環境によって大きく変わります。
取り扱いと収納で傷みを防ぐ
環境を整えても、日々の扱いや収納で傷めてしまっては意味がありません。光ディスクの取り扱いについては、ISO 18938:2014や、カナダ保存研究所(CCI)の「CCI Notes 19/1」などで考え方が示されています。要点は、次の4つです。
・ジュエルケース(ディスク用の硬質ケース)などに入れ、立てて保管する
・紙や不織布のスリーブに直接入れることは避ける
・ライナーノーツなどの付属物は、ディスクと分けて保管する
・重要な情報は、読めるうちに複製やデータ移行を検討する
複製については、3つのコピーを作り、2種類の異なる媒体に保存し、そのうち1つを別の場所に保管する「3-2-1ルール」の考え方も参考になります。
このうち、「不織布を避ける」「付属物を分ける」は、そのまま収納容器の設計につながります。
光ディスクと付属資料を分けて収納する
光ディスクを保存する際には、ディスク本体だけでなく、ライナーノーツや解説書、紙ジャケットなどの付属資料の扱いも考える必要があります。紙資料は湿気を含みやすく、印刷インキや紙質によっては、長期的にディスクへ影響を与える可能性があります。また、同じ場所に詰め込んで保管すると、出し入れの際に傷がついたり、資料が散逸したりすることもあります。そのため、ディスクと付属資料は、できるだけ接触しないように分けて収納することが望ましいとされています。
[写真6:樹脂ケース入りのディスクを、仕切りで分類して収納する保存箱]
樹脂ケース入りのディスクをまとめて保管する場合は、分類用の仕切りを設けることで、資料群ごと、分類ごとに整理しやすく、出し入れや管理もしやすくなります。
[写真7:ディスクとライナーノーツを部屋分けし、汚染ガス吸着シートGasQを組み込んだ保存箱]
さらに保存性を高める場合には、ディスクと付属資料を分けて収納し、容器内に汚染ガス吸着シートGasQ®︎ガスキュウを組み込む方法もあります。汚染ガスへの対策を加えることで、保存容器内の環境をより安定させることができます。
保管とあわせて考えたいデータ移行
保存箱や吸着シートは、光ディスクをより安定した環境で保管するための手段ですが、すでに劣化したディスクを元に戻すものではありません。また、光ディスクは再生機器やソフトウェアに依存するメディアです。ディスク自体が残っていても、読み出すための機器がなければ、記録された内容にアクセスできなくなる可能性があります。
良い環境で正しく保管し、劣化を遅らせること。そして、読めるうちに中身を別の媒体へ移すこと。光ディスクの記録を残していくには、保管と移行の両方を考えておく必要があります。
【参考・関連情報】
・CCI Notes 19/1「Longevity of Recordable CDs, DVDs and Blu-rays」(Joe Iraci 著、2019年改訂・2020年公開)
CCI Notes 19/1は、記録型CD、DVD、Blu-rayの寿命と劣化要因を整理した資料で、ディスクの寿命は数年から長期にわたるものまで幅があり、製造品質、記録状態、保存環境、取り扱いによって大きく左右されるとしています。
・ISO 18925:2013「Imaging materials — Optical disc media — Storage practices」
・ISO 18938:2014「Imaging materials — Optical discs — Care and handling for extended storage」2024年に再確認され、現行版として維持)
光ディスクの保存環境や取り扱いについて考え方を示している代表的なISO規格です。なお、ISO規格は定期的に見直されるため、実務で参照する場合は最新版の規格情報を確認することが望まれます。
電子情報の保存では、媒体そのものを残すだけでなく、それを読み出す機器やソフトウェアをどう確保するかも課題になります。国立国会図書館も、電子情報の長期保存において、再生機器やソフトウェアの陳腐化を課題として挙げています。
【関連記事】
・今日の工房2016年3月9日(水)「ゲームソフトのフロッピー、テープ、CDを保存するには」
・今日の工房2018年1月31日(水)「【文献紹介】 水没した電子記録媒体の復旧はどこまで可能か? 最良の乾燥法は? 保管の3-2-1 ルールとは?」
・今日の工房2019年5月15日「NPOゲーム保存協会様からのご依頼でフロッピーディスクを長期保管するための専用容器を作成した」
2026年6月12日(金)筑波大学附属視覚特別支援学校 資料室様所蔵 凸字・点字資料の保存修復処置 -データベース作成、電子化、公開へ向けた取り組み-
筑波大学附属視覚特別支援学校は、その前身である「楽善会」が明治初期に創設されて以来、視覚障害教育の中心的役割を担ってきました。同校の資料室には、国内外の盲教育に関する資料や点字教科書が収蔵されており、点字制定以前の盲教育や文字教育の歴史をたどる展示も行われています。
筑波大学附属視覚特別支援学校ホームページ>資料室・常設展示室の紹介※見学は要問合せ
(本記事に掲載する画像は、弊社が撮影した作業記録画像の一部です)
日本において点字が制定されたのは1890年(明治23年)に遡ります。それ以前は、紙を文字の形に浮き上がらせた凸字が学校教育の教科書などで用いられていました。現在広く用いられている点字は、フランスのルイ・ブライユが1825年に考案した6点点字を基礎としており、各言語に対応した点字が使用されていますが、海外においても、それ以前はアルファベットによる凸字や、イギリスで開発されたムーンタイプ(丸と線で表す文字)など、文字の輪郭を触って読むものが主流でした。
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日本近代の盲教育は、明治維新後、京都と東京それぞれに教育機関が設立されたことを契機に大きく発展しました。1887年(明治20年)に東京盲唖学校(現・筑波大学附属視覚特別支援学校)の助教諭となった石川倉次(いしかわくらじ)は、ブライユの6点点字を日本語の五十音へ翻案する研究に取り組み、1890年(明治23年)に「日本訓盲点字」として制定されるに至りました。今回お預かりした資料の中には、石川が当時の教員や生徒らとともに試行錯誤を重ねながら研究を行った経過記録が多く含まれています。今回は、これら12点(約200枚)の資料についてデータベース作成を進めるにあたり、電子化に向けた処置や保存対策についてご相談を受け、所蔵元、および研究者との協議のもと、作業を実施することになりました。
私たちは常に、利用に供するための保存修復を意識して「資料保存」に取り組んでいますが、触覚型資料、なかでも点字のように視覚だけでは捉えきれない情報をもつ資料に対して、どこまでアプローチするかという判断は、すべての工程において難しい課題でした。特に、墨字が付されておらず点字のみで記された資料では、視覚的に確認できる手がかりが限られるため、文章のはじまりや終わり、紙の上下を判別するにも慎重な観察を要するなど、点字資料特有のこうした条件は、作業時の緊張感をいっそう高めるものでした。さらに今回は、斜光撮影による電子化を予定していたため、紙の波打ちや折れ、皺が撮影時に強調されないよう調整する必要がありました。一方で、過度な加湿や圧力は、点字そのものを変形させる可能性があります。そのため今回の処置では、「点を守りながら、点以外を整える」という非常に繊細な調整が求められました。
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作業はまずドライ・クリーニングから開始しました。点の突出具合は1枚ごとに異なるため、紙質と点部分の堅牢さを見ながら、刷毛やクリーニングスポンジを数種類使い分けました。破れの修補では、点の位置を一つひとつ確認しながら、接着に用いるでんぷん糊の水分が移行して点を変形させないよう、慎重に作業を進めました。また、折れや皺の伸展には手元用の超音波加湿器を用いて加湿レベルを調整し、点部分に影響がないよう細心の注意を払いました。乾燥工程では、通常用いられる表面が滑らかなろ紙や、重石、プレス機を使用せず、厚手で柔らかいフェルト生地を使用することで、点への圧力を軽減しつつフラットニングを行いました。電子化を終えた資料は、保存環境を整えるためにそれぞれの形態およびグループに応じて適切なアーカイバル容器を作製し、収納しました。
これらの資料は、目で読むことができない人に文字をどう届けるかを問い続けた試行錯誤の記録でもあります。私たちもまた、その触覚情報を視覚だけに頼らず、どのように守るかという課題に向き合うことになりました。検討を重ねながら慎重に作業を進めた結果、処置内容そのものは基本的な範囲にとどまりました。しかし、過度な介入を避けることが、結果として資料本来の保存性を最大限に守ることにつながったと考えています。
今回の取り組みを通して見えてきたのは、点字や凸字に見られる凹凸そのものが資料の内容を構成していること、電子化の撮影方式が修復方針にも大きく影響すること、そして介入を最小限にとどめることが、結果として資料の保存性と情報の維持につながる場面があること——という三つの視点でした。触覚的な情報を含む資料をどのようにアーカイブしていくのか、本事例はその一端を示す試みでしたが、これを通じて、資料保存が単なる作業ではなく、所蔵者、研究者、撮影、そして保存修復に関わるそれぞれの立場が、目的を共有しながら進める協働の積み重ねであることを改めて実感しました。
最後に、筑波大学附属視覚特別支援学校様には弊社ホームページへの掲載をご快諾いただき誠にありがとうございました。また、お力添えいただいた関係者の皆さま、特に、DNP文化振興財団グラフィック文化に関する学術研究助成B部門の助成により本プロジェクトを実現されたお茶の水女子大学附属図書館の飯塚希世様と資料室担当の先生方には、盲教育の歴史と凸字・点字の製作方法について知見をいただき、保存方針の策定へ向けてご助言を賜りました。ご協力に心より感謝申し上げます。
【関連記事】
『今日の工房』
2015年3月30日 内外ニュース&レポート編:視覚障害者用の本(1840年刊)を修理する
2025年10月8日 立教大学図書館様所蔵 活字組版への処置・保存容器の作成
2026年2月9日 明治学院歴史資料館様所蔵 沖野岩三郎手稿コレクション ― 修復とデジタル公開の取り組み
【関連情報】
現在開催中の企画展『名著誕生展 ヴァチカン教皇庁図書館Ⅲ+』(印刷博物館 会期:2026年4月25日〜7月20日)にて、目の不自由な子供が地理の授業で使うためにフランスで制作された凸字の教科書『地理学の基礎(視覚障がい者のための地理入門書)』を展示中です。この機会にぜひ実物をご覧になってみてください。
【参考】
Helen Kuncicky. (2007). Saving Raised Dots: A Feel for Braille Materials and Preservation.
Lisa J Sisco. (2015). Braille preservation: recognising and respecting archival materials produced by and for the blind. Archives and Manuscripts. Volume 43, Issue 1.
Donna Koh. Digitizing Braille Music 2018. Library of Congress blogs posted on April 26, 2018
2026年6月1日(月)感熱紙の鉄道切符をどう保存するか ― 一覧性・収蔵性・保護性から考える保存形態 ―

ドット方眼を用いた切符配置用の間紙

ドット方眼を用いた切符配置用の間紙(収納状態)

まとまりを保って収蔵する仕切り付き保存箱

GasQを組み込んだ保存箱の収納例

一点ずつ保護するプリザーバー収納

多数の切符を管理するバインダー収納
鉄道切符は小さな紙片ですが、近年の自動券売機などで発行される切符には、感熱紙が多く使われています。
感熱紙は、熱によって発色する記録材料です。インクを使わず印字できる一方で、熱、光、圧力、可塑剤などの影響を受けやすく、長期保存では注意が必要な素材でもあります。
鉄道切符の印字方式には、熱で券紙自体を発色させる感熱方式と、インクリボンの色材を熱で転写する熱転写方式があります。同じ切符でも、印字方式によって保存上の注意点は異なり、特に感熱方式の切符では、熱や光、圧力、可塑剤などの影響を受けやすく、印字に退色や変色が生じるおそれがあります。
実際、古い感熱紙の切符は、印字が薄くなったり、背景が黄変したり、全体が黒っぽく変化したりすることがあります。また、スリーブや粘着材など、接触する素材の影響を受ける場合もあります。そのため、鉄道切符の保存では、「何に入れるか」だけでなく、「どう使い、どう見返すか」によっても、適した保存形態が変わってきます。
今回製作したのは、アーカイバル・バインダー用リフィルに使用する、中性紙製の間紙です。鉄道切符を1枚の台紙に並べて貼り付け、整理・比較しやすくするためのものです。鉄道切符は、年代や鉄道会社によって、地紋、書体、券面レイアウト、紙質、印字方式などが少しずつ異なります。こうした差異は、1枚ずつ見るより、並べて比較したときに見えやすくなります。ただ、白紙の台紙に配置していく場合、角度や位置が少しずつずれやすく、ページ全体で見たときの比較性が保ちにくくなることがあります。そこで今回は、配置基準として、10mm間隔のドット方眼を中性紙に印刷しました。ドット色はグレーとし、閲覧時に視線を邪魔しにくい濃度に調整しています。また、上下左右の中心ドットのみを少し大きくし、ページ全体の配置基準としています。
この構成では、切符を保護するだけでなく、一覧しながら比較しやすい状態を維持することを重視しています。感熱紙の切符では、見やすさだけでなく、接触する素材や貼付方法も重要になるため、配置のしやすさとあわせて、長期的に資料へ負担をかけにくい間紙やリフィルの選択も必要になります。
一方で、すべての鉄道切符に、一覧比較を重視した保存形態が適しているわけではありません。以前、芝浦工業大学豊洲図書館様の鉄道切符コレクションでは、寄贈資料として受け入れられた多数の切符を収蔵するため、切符サイズに合わせた仕切り付きの台差し箱を製作しました。[芝浦工業大学豊洲図書館様 鉄道切符コレクション保存容器]
寄贈資料の場合、個々の切符だけでなく、寄贈時のまとまりや並び、分類の単位も資料の一部と考える必要があります。そのため、この事例では一覧性よりも、高密度収納、長期保管、管理性に加え、もとのまとまりや形態をできるだけ崩さないことを重視しています。古い切符には酸性紙や感熱紙も含まれるため、箱内部には汚染ガス吸着シート GasQも組み込んでいます。
また、切符を1点ずつ保護しながら閲覧したい場合には、プリザーバーやアーカイバル・バインダーを用いた構成もあります。この方法では、接触を減らし、出し入れ時の負担を抑えながら、一点ごとの状態を確認しやすくなります。ただし、収納効率は下がるため、どの方法が適切かは、利用頻度、点数、整理方法、閲覧目的によって変わってきます。
鉄道切符には、感熱紙や酸性紙、印字の退色、可塑剤の影響など、保存上の課題が多くあります。そのため、保存用品は「何を優先して残すのか」によって選び方が変わります。一覧して比較するならバインダー形式、まとまりを保って収蔵するなら仕切り付き保存箱、一点ずつ保護して閲覧するならリフィルやプリザーバーも選択肢になります。
同じ鉄道切符でも、目的によって適した保存用品や構成は少しずつ異なります。感熱紙のように変化しやすい資料では、接触する素材、並べ方、閲覧頻度も、保存用品や保存形態を考える手がかりになります。
【関連情報】
▼ 感熱紙について
近現代資料では、紙そのものの劣化だけでなく、そこに記録された文字や画像が先に失われてしまうことがあります。特に感熱紙は、熱によって発色する性質を利用した記録材料であり、ワープロ印字紙やファックス紙、レシート、切符などに広く使われてきました。
公文書の分野でも、平成期に入ると、感熱紙にワープロで印字された文書や感熱ファックス紙が頻繁に見られるようになったことが報告されています。感熱紙に記録された情報は、熱や光、圧力などの影響を受けやすく、比較的早く退色・消失するおそれがあります。
そのため、紙資料の予防的保存処置では、作業中に感熱紙の公文書が見つかった場合、その場で中性紙に複写し、複製物を原資料の近くに添えて、中性こよりで綴じ直す対応が行われます。これは、原資料を残しながら、消えやすい記録情報を別のかたちで確保するための処置といえます。
感熱紙のほかにも、蒟蒻版、青焼、湿式コピー、写真紙焼、初期の電子複写など、近現代資料には記録内容そのものが不安定なものが多く含まれます。こうした資料では、媒体を保護するだけでなく、記録された情報をどのように残すかという視点も重要になります。




















