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2023年10月25日(水)国立工芸館様所蔵のガラス乾板の整理と保全作業

国立工芸館は1977年、東京都千代田区北の丸公園に「東京国立近代美術館工芸館」として開館しました。2020年秋、石川県金沢市に移転し、2021年4月に正式名を「国立工芸館」として再オープンしました。

 

今回、移転準備中に発見されたガラス乾板(以下、乾板)の保全処置をご依頼いただき、乾板のクリーニング、状態等の記録、写真保存包材への入替え・整理作業を行いました。これらの乾板は、1977年の開館記念展で展示した資料の記録画像で、酸性紙製の箱(元箱)に収められており、同一サイズの乾板347枚と、プリント写真やネガフィルム125枚が含まれています。元箱には分類名や当時のメモ書きが残っており、乾板にはマジックで固有の番号が振られたものもありました。(写真①②③)

 

乾板のクリーニングと保存・整理作業は以下の手順で行いました。まず、作業環境を整え、マスクと手袋を着用し、HEPAフィルターを搭載した空気清浄機を使用しました。また、乾板の取り扱い中に損傷しないよう、ポリエチレンフォーム緩衝材AZOTE®を下敷きにして作業しました。

 

最初に、各元箱に収納されている乾板の全体写真を撮り、分類名、固有番号、状態(剥離や割れなど)を記録しました。

 

乾板に付着したチリ、ほこり等の汚れをクリーニングしました。乳剤面は柔らかい刷毛を使用し、ガラス面は刷毛によるクリーニングの後、写真専用クリーナーPEC PADで汚れを拭き取り、カビや汚れがひどい場合にはエタノールを使用してから乾いたクリーナーで拭き取りました(写真④⑤)。

 

クリーニング後、乾板は一枚ずつ中性紙のタトウ乾板フォルダーに収納し、プリント写真とネガは二つ折りフォルダーに包みました。各フォルダーには、分類名と固有番号を記載した中性紙ラベルを貼付しました。損傷のない乾板、プリント写真、ネガは、縦置き専用保存箱に納め、割れや膜面が剥離している乾板は、平置き用の保存箱に収納しました。平置きの場合、落とし込み式の容器シンクに収納し、シンクは5枚をまとめて1つの台差し箱に収納しました。シンク型容器は、重ねても乾板に負担がかからないように設計されており、安全です(写真⑥⑦⑧)。

 

今後、専門の撮影業者によって電子化が行われる予定です。

 

本記事の掲載にあたり、国立工芸館様にご協力をいただきました。誠にありがとうございました。

 

▼ガラス乾板について
乾板は、ガラス板の上に感光乳剤(ゼラチンを媒体とした臭化銀)を塗布・乾燥したもので、写真フィルムが普及するまで様々な分野で活用されていました。ガラスは高い解像度と歪みがないため、天文学、物理学など専門的な研究分野では1990年代まで使用されていました。
しかし、乾板は取り扱いに注意が必要で、衝撃や落下によって割れやヒビが生じやすく、乾板同士がぶつかることで傷ができることもあります。また、保存環境の影響も受けやすく、光、温度、湿度、大気中の汚染物質などが原因でカビ、銀鏡化、剥離などが発生することがあります。さらに、乾板の劣化の特徴として、ゼラチンをバインダーとする画像層と支持体であるガラスとで性質が異なるため、数種類の劣化症状が複合的に生じることもあります。

 

そのため、ガラス乾板の適切な保存方法と保管環境は、ISO18918:2000 imaging materials−Processed photographic plates−Storage practices(JIS K7644:2010 写真―現像処理済み写真乾板―保存方法)として規格化されています。保存箱やフォルダーには、PAT(ISO18916:2007)合格品の素材を使用し、乾板に悪影響を与えないことが求められている他、保管については、乳剤同士が接触しないよう立てて保管することが推奨され、水平に保管する場合は、下部の乾板に負担がかかるため重ねて保存しないことなど、適切な保管方法、保管環境が規格化されています。

 

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