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2025年8月21日(木)明治大学博物館所蔵 内藤家文書「宮崎舊御領絵図」の保存修復処置 ― 絵図の保存・活用に向けた取り組み ―

明治大学博物館では、江戸時代の譜代大名・延岡藩主であった内藤家に伝わる、膨大な記録群「内藤家文書」を約5万点にわたり所蔵されています。 譜代大名は領地の転封(てんぽう)がたびたび行われたため、文書などの記録資料がまとまった形で伝わることは少なく、その点でも内藤家文書は、当時の大名家と幕府との関係を知る手がかりとなる、きわめて貴重な歴史資料です。

 

弊社では近年、この内藤家文書の中から領地に関する大型絵図の修復をご依頼いただき、継続的に保存修復処置を行っています。

 

今回処置を行った「宮崎舊御領絵図」(内藤家文書2-23-11-36-27)は、縦1,650mm × 横1,500mmにおよぶ大判の絵図で、もともとは20枚の本紙を糊付けで貼り継ぎ、一枚に仕立てられていたものです。 ところが、処置に着手した時点では、その糊継ぎはほとんど剥がれており、絵図は一体としての形を失っていました。紙片はすべてばらばらに分かれ、それぞれがどこに位置していたのか、順序や接合関係も不明な状態でした。

 

そのため、全体の構成を把握するには、各紙片の内容や余白の形、継ぎ目の痕跡などを手がかりに、位置や順番を一つひとつ丁寧に照合していく必要がありました。まさに、断片となったパズルを組み直すように、元の図像構成を読み解いていきました。また、保管時の物理的な状態や環境要因により、折れぐせやシワが定着し、一部にはカビや虫害による劣化も確認されました。

 

修復処置では、まず、かろうじて残っていた既存の糊継ぎもすべて丁寧に剥がし、20枚の本紙に解体。そのうえで、一枚ずつに対してドライ・クリーニング、欠損部分の補修、シワ・折れぐせの伸展処置を行い、再接合のための準備を整えました。

 

その後、絵図の構成に合わせて南側・北側の二群に分け、隣接する本紙同士を順に継ぎ合わせながら、全体を段階的に組み上げていきました。最後に中央部分で両群を接合し、一枚の絵図として再構成されました。

 

資料は今後も折りたたんだ状態で保管されることを考慮し、本紙の継ぎ目や構成に配慮しながら、広げやすくなるよう新たな折り筋をつけて仕上げました。

 

修復を経て、資料の可読性と保存性は大きく改善され、今後の活用と継承に適した状態へと整えることができました。

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