今日の工房 

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2018年2月21日(水)フィルム・ エンキャプシュレーションの現在 ⑴ なぜこの技術が必要とされ、広く普及したのか?

1.  それは70年代のアメリカ議会図書館から始まった

 

劣化して紙力が低下した一枚ものの紙資料を、透明なフィルムで挟み、フィルム周辺を閉じて資料を封印する。これがポリエステル・ フィルム・ エンキャプシュレーション法(polyester film encapsulation)と呼ばれるものだ。1970年代後半にアメリカ議会図書館(LC: Library of Congress)により開発され、今なお盛んに用いられている資料保存技術である。

 

膨大な量の劣化した一枚ものの資料を所蔵するLCは、この技術を開発する以前までは、、ライニング法(lining)やラミネーション法(lamination)、すなわち薄葉紙や絹のガーゼでの、裏打ち(lining)や表打ち(lamination)、あるいはアセテートフィルムを資料の両面に熱で貼り付けるラミネーション法で対応していたが、熟練した職人技や専用設備が必要なことで、適用範囲は限られていた。

 

特に1930年代から、それまでの薄い絹のガーゼでの表打ち(silk lamination)に代わり、米国内や英国で多用されてきたアセテート・ フィルムによる両面ラミネーションは、1947年には、アメリカ独立宣言のためにトーマス・ ジェファーソンが書いたドラフト文書など極めて貴重なものにも適用されてきたのだが、この抜本的な見直しが急務とされた。セルロース・ アセテート・ フィルム自体の劣化と発生する酢酸の影響への懸念、全体の歪みの発生、熱で貼り付けたフィルムの剥離が難しいことなど、60年代になると、困難な問題が表面化してきたためだ。

 

当時、LCの修理と保存部門を牽引していた F. Pooleは1974年に”Current Lamination Policies of the Library of Congress.” として、 LCはそれまでの多用してきたアセテート・ フィルムによるラミネーション法を完全に放棄して、これに代わる新しい「紙の強化技術」としてポリエステル・ フィルム・ エンキャプシュレーション法の開発に取り組んでおり、近くその成果を明らかにできる、と告知した。

 

 

2.  議会図書館のマニュアルの刊行と啓蒙そして普及

 

そしてその言葉通り、LCのPreservation Officeは1980年に小冊子“POLYESTER FILM ENCAPSULATION” を出版した。特定の透明なフィルム(Dupont社のポリエステル・ フィルム Myler®︎)で資料を挟み、フィルムの四方を閉じるだけというこの技術は、従来法のような熟練者や専用設備を必要としない簡便さ、強靭なフィルムにより物理的な劣化の激しい資料の紙力を強化できる、もし利用時に不用意な扱いを受けたとしても資料を保護できる、透明なフィルム上から資料の両面にアクセスできる、広い範囲に広がっていない裂けや破れならば補修せずにそのまま封印できる等々の利点が評価された。また、方法のネックとされた周辺の封印を何でやるか、という問題も、品質の確認されたポリエステル・ フィルム製両面粘着テープ(3M社のScotch 415®︎)が推奨された。簡潔な説明と、解りやすいイラスト付きの30頁足らずのマニュアルの公表後は、ポリエステル・ フィルム・ エンキャプシュレーション法が瞬く間に欧米の図書館やアーカイブスに普及していった。

 

非常に短期間にこの技術が各国の機関で採用された理由は、もうひとつある。可逆的(reversible)な技術であることだ。その背景には、これまで「修復」(restoration)という名の下に、元と寸分違わず復元できたという出来上がりの見栄えを優先させた処置への反省がある。その修復処置なるもの自体が原資料の持つ歴史的な価値を損傷していないのか、将来共に安定を保証できるような科学的なエヴィデンスのもとに、使用材料の選定も含め、行われているのか—。とりわけ、ある時点で適応された技術に後々問題があるとわかった場合に、資料を損傷せずに元の状態に戻せるかどうかという、可能な限りの「可逆性の保持」という条件は、資料保存技術を考える上でのポイントになった。この点で、フィルム・ エンキャプシュレーション法は、四方のフィルムの端をカットすれば元の資料をそのまま取り出せる。可逆性は100%保証されている。

 

 

3.  日本での紹介は80年代央、普及は酸性紙問題が後押し

 

この革新的な保存技術が日本に紹介されたのは1984年である。件のマニュアルの抄訳「ポリエステル・ フィルム封入法」として「ゆずり葉」(1984年9月号)に発表された。ただ、当時の日本では、「ひどい傷みの一枚ものの修理は和紙で裏打ち」が通念だったこと、ポリエステルという「化学」材料を、資料に直接触れるように使うことへの抵抗などが相まって、普及はしなかった。

 

しかし80年代末からの、いわゆる酸性紙問題への注目が後押しする形で、この新しい保存技術が注目されるようになった。特に酸性劣化した、あるいはしつつある近現代の一枚ものの紙資料、わけても比較的大きなサイズの地図や図面などの歴史資料の安寧な保存策として着目された。私どものような近現代紙資料の修理を事業のひとつとする業者も積極的に啓蒙と実践に努め、徐々に資料保存機関に受け入れてもらえるようになる(ちなみに私ども株式会社資料保存器材は日本で最初にポリエステル・ フィルム・ エンキャプシュレーションを事業化した企業である)。日本の機関でも、東京都立図書館が館内に導入しており、また龍谷大学が貴重な古文書の長期保存法として採用したと報じられている

 

 

4.   良いことづくめに見えるが、一番の問題は劣化ガスも封印されること

 

こうみるとポリエステル・ フィルム・ エンキャプシュレーション法は「良いことづくめ」の保存技術に思えるかもしれないが、問題はある。紙とは比較にならない質量が付与されるから、元の資料の何倍も重くなる。基本的に平たい状態で保管せねばならずスペースを取る。資料の質感がわからなくなる—。ただ、こうした「問題」は、この技術を採用する限り、不可避的に伴うものなので、如何ともしがたい。

 

それよりも、ポリエステル・ フィルム・ エンキャプシュレーション法の最大の問題は、酸性資料の劣化に伴い発生するガスも一緒に封印してしまうことだ。ガスの遮断能力が著しく高いポリエステル・ フィルムは、保管環境などの外部から来る汚染ガスから資料を保護する。だが一方で、経時劣化に伴い資料内部から発生する酸性の揮発性ガス(VOCs)は内部に滞留する。それは資料に悪い影響を及ぼさないのか?  しかもこの酸性ガスは逃げ場がないのだから、フィルムの間で凝縮され、紙の酸性劣化を加速しないのか?

 

 

(続く)

 

関連情報

 フィルム・ エンキャプシュレーションの現在(2) 二枚のフィルム内に封じられた酸性ガスは劣化を加速させないのか?

フィルム・ エンキャプシュレーションの現在(3) ガス吸着シートの同封が開く新しい可能性

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2018年2月14日(水) 薄いQlumin くるみん®︎やGasQ  ガスキュウ®︎を綺麗にカットしたいなら、OLFAロータリーカッターLL型がお薦めです

ロール状に巻かれて、あるいは定型に裁断されて弊社から販売される新薄葉「 Qlumin くるみん®︎」と汚染ガス吸着シート「GasQ  ガスキュウ®︎」を、自分で希望のサイズにカットして使っているが、スッキリと綺麗に切れない。なにか良い方法はないだろうか?  お客さまからこんな質問がたびたび寄せられます。

 

カット時に「引切りする普通のカッターではヨレてしまう」、「ハサミでは切り口がガタガタになって美しくない」。両製品ともに薄いがゆえの、カット時に頻出する症状です。

 

そんな時は、OLFA®社の円形刃の中でも、ロータリーカッターLL型をお勧めしています。円形刃のためヨレもズレも起こりにくく、また、直径60ミリで一度に進む距離が長く、アッと言う間に綺麗なカットが可能です。また、ワンタッチで刃を出し入れ可能で、安全面においては、これまでのカッターと同じ感覚で使用できます。

 

ちなみにOLFA社は純国内メーカー。社名の由来は「折る刃」から。1956年に世界で初めて商品化しました。切れ味の良い刃を、刃先を折り取るだけで連続して得られるという、刃物を扱う私どものような職人仕事に、まさに革命をもたらしてくれたメーカーです。

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2018年2月7日(水)スタッフの健康を守るために、 有機溶剤などの化学物質、粉塵・ カビなどへの対策の一環として、防塵・ 防カビマスクを一新しました。

  • 私たちの修理工房では、カビや微細な粉塵が付着した資料を至近距離で扱うことがよくありますが、それ以上に、有機溶剤を使用する場面も日常的にみられます。例えば、図書館などでもカビのクリーニング作業にエタノールを使用することがあるかと思いますが、これが危険有害性のある化学物質(640物質)の一つであることはご存知でしょうか。エタノールは使用量が少量であっても、急性中毒や、長期間の使用により体内に蓄積されることで臓器の障害や慢性中毒につながりかねません。アセトンやベンゼンなどのシンナー類ならばなおさらです。

 

また、汚れの付着した粉塵やカビをドライクリーニングする場合も、作業者がそれらを吸い込むことによる健康被害や、作業中の周囲への拡散にも気配りが必要です。

 

そこで私どもの工房では、作業者の健康を守るために防塵・ 防毒マスクを装着しています。溶剤を使う作業期間中ずっと顔に装着している重く息苦しいマスクは、繊細な手作業時の装備としては、その使用がつい億劫になりがちですが、2016年6月にリスクアセスメント対策の実施が義務化されたことは記憶にも新しく、溶剤を日常的に使用する私どもも、こうしたリスク対策も積極的に取り入れていかなければなりません。

 

今回はその対策の一つとして、従来品よりもより軽量で視界が制限されにくいタイプのマスクに装備を一新しました。カートリッジは防塵・防毒一体型のタイプで、処置に使用する有機溶剤に対応する十分な性能を持ちます。用途ごとのカートリッジの取り替えの手間も省け、これまでよりずっと使いやすくなりました。

 

 

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「簡易ドライクリーニング・ボックス」

スタッフのチカラ「資料に付着した汚れやカビのドライ・クリーニング」

化学物質等安全データシート(SDS)

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2018年1月31日(水)【文献紹介】 水没した電子記録媒体の復旧はどこまで可能か? 最良の乾燥法は? 保管の3-2-1 ルールとは?

水漏れや洪水や火災時の消火により、水を被ってしまった記録物の救助の要点は記録媒体内の中身(データ)がどこまで復旧できるかである。しかし、本や文書などの紙媒体ならば、現在ではある程度の復旧の予測は可能だし、その方法も決まっているが、フロッピーディスクや磁気テープ、CDなどの光学ディスク、USBカード等々の電子的な記録媒体については未だ充分な知見がない。

 

本稿 “The Soaking Resistance of Electronic Storage Media”(Restaurator, Vol.38, No.1, 2016)は、こうした電子媒体を、清浄な水道水、腐蝕物を含む汚水を真似た水道水(塩化ナトリウム、塩酸を混入)、海水を真似た水に6つの異なる期間(1日から28日)浸し、データの復旧がどこまで可能か、また必須の復旧法である乾燥はどの方法が有効かを研究したものである。

 

それによると清浄な水道水を被ったものならば、大半の媒体が復旧できたが、一部のCDやVHSテープでは問題が生じた。だが、汚れた水道水や擬似海水では電子媒体の復旧は更に困難になる。光学ディスクのデータのダメージの程度は、媒体の元々の製品品質にも大きく依存することも分かった。

 

乾燥法としては、一度清浄な水で洗浄後に、風乾法(風を当てながらの自然乾燥)で乾かすのが最良である。風乾後もそのまま2日ほど放置し、完全に乾いてからデータのダメージを確認する。冷凍乾燥法および真空冷凍乾燥法はCDやDVDも破壊してしまうので絶対に避ける。

 

乾燥は水没後48時間以内に着手するのが原則だが、それができない場合には、清浄な冷水(5 °C)に浸しておいた方が劣化の進行を顕著に防げる。媒体が泥など汚れている場合は、そのまま乾かすと汚れが強固に付着してしまう。これを物理的に除去すると媒体を傷める。冷水に浸しておくことで汚れの固着も防げる。

 

電子媒体の保管は3-2-1ルールに従う。すなわち、3つの複製物を作り、このうち2つは異なる種類の媒体に移す。残りの1つはオフサイト(前記の2つが保管されている場所と離れた別の場所)に保管する。

 

 

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2018年1月24日(水)「文化財の長期保存のためのアーカイバル容器」を掲載

「文化財の長期保存のためのアーカイバル容器」を弊社サイトのスタッフのチカラに掲載しました。これは、日本包装学会が発行する機関紙『日本包装学会誌』の最新号(Vol.26, No.6, 2017)の特集「文化財の包装・梱包・輸送」に寄稿したものです。文化財と接触あるいは近接する「包材」に焦点を置き、保存箱の素材や品質、機能だけでなく、それぞれと密接な関係を持つデザイン設計、構造など、製造過程の一端を解説しています。また、他企業と協力し開発した文化財保存向け機能性包材も紹介しています。

 

なお、同号では文化財の梱包技術や国際輸送時の包装に関する研究の現状など、これまでとりあげられることのなかった「包装技術」が文化財にどのように応用されているのかを、具体例を織り交ぜて解説されており、大変興味深くかつ有意義な内容となっています。

 

■ スタッフのチカラ「文化財の長期保存のためのアーカイバル容器」 島田要

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2018年1月17日(水)【文献紹介】国際原子力機関(IAEA)が『文化財保存のための放射線の利用』を刊行

 医療機器や衛生用品などの滅菌に使われている放射線照射技術の文化財への応用の現状をまとめた USES OF IONIZING RADIATION FOR TANGIBLE CULTURAL HERITAGE CONSERVATION (有形文化財の保存のための電離放射線の利用)が、このほど国際原子力機関(IAEA)から刊行された。この分野での初の、学際的かつ国際的な研究成果報告といえる。

 

γ線などの電離放射線をカビや虫のいる物体に照射・ 侵入させると、電離作用により、カビや虫のDNAの二重らせん構造の鎖切断(放射線の直接効果)が生じる。また、生体中の水も電離されてOHラジカル等が生じ、これらのイオンとラジカルの反応でDNAに不都合な塩基等が生成されるのがDNA塩基損傷である(放射線の間接作用)。結果的にカビや虫が死滅する。

 

本書は、世界の原子力関連科学者、技術者、生物学者、保存化学者が博物館・ 美術館等と協力し、滅菌・ 殺虫の原理と科学的な根拠の解説とともに、各国(オランダ、ルーマニア、フランス、ブラジル、ポーランド、ポルトガル、クロアチア、ブラジル、チュニジア)での、木、紙、皮革、ウール、絹などでできた様々な文化財や、エジプトのミイラ、マンモスの幼児などの考古資料などへの応用事例を紹介している。

 

USES OF IONIZING RADIATION FOR TANGIBLE CULTURAL HERITAGE CONSERVATION
IAEA Radiation Technology Series No. 6、241 pp.; 92 figs.; 2017; ISBN: 978-92-0-103316-1, English, 50.00Euro

PDF 版(無料)

 

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2018年1月11日(木)「新薄葉紙 Qluminくるみん」を発売しました。

「薄く」「強く」「新しい機能を持たせた」、文化財保存のための薄葉紙を開発しました。

 

◆新薄葉紙「Qluminくるみん」の特徴

 

・紙の両面がなめらかで、紙資料にかぎらず、デリケートな美術工芸品や考古資料、木製品、金属製品などの保存に最適です。

 

・文化財保存包材のための国際的な品質確認試験PAT(ISO 18916:2007 Photographic Activity Test )合格品です。長期に接触していても安全であることを確認しています。

 

[※] 写真活性度試験=Photographic Activity Test:包材が及ぼす化学的影響を測り、写真包材として適切かどうかをPass(合格)、Fail(不合格)という形で明確にすることができる試験。

 

・弊社製品、汚染ガス吸着シート「GasQ®ガスキュウ」の機能性素材『ゼオライト結晶合成パルプ繊維』を配合しており抗菌性とガス吸着性を併せ持ちます。

 

・坪量 12.5g/㎡ | 厚さ 25㎛(0.025mm) | 平均pH 6.8 | MADE IN JAPAN

 

 

◆販売形態と価格

 

・ロール品:幅1,100mm×200m巻:13,000円
・L版断裁品500枚包装品:800mm×1,100mm :26,000円

 *別途消費税8%及び梱包輸送費を頂戴いたします。

 

◆新薄葉紙 Qluminくるみんリーフレット

 

https://www.hozon.co.jp/shr/img/archival/product_other_4/Qlumin_leafret.pdf

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2018年1月10日(水)傷みやすい本の背の天地のヘッドキャップの修理

洋装本の背表紙天地に、庇(ひさし)のように被さるヘッドキャップ(headcap)と呼ばれる箇所の修理。ヘッドキャップは、表装の革をそのまま折り込んで作る場合と、革紐や糸やこより等を芯材として、これを表装材で本体の背と背表紙の間に巻き込んで作る場合とがある。芯材を巻き込む形は特に、本体と表紙と背表紙の接合の補強や、本の開閉に対する補強などの役割がある。

 

書棚から本を出す際の指掛けによるダメージや、出し入れの際の擦れ等により、ヘッドキャップが損傷あるいは欠損することが多い。処置としては、本の大きさや重量に適した素材や太さのヘッドキャップの芯材を用意し、オリジナルの表装材の色に馴染む色に染めた和紙にでんぷん糊を塗布して巻き込む。強度も必要だが、本の開閉に合わせて動く柔軟性も必要なため、糊の加減や和紙の巻き込み加減など、注意する点が多い。

 

 

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2018年1月4日(水) 明けましておめでとうございます。

謹んで新年のご挨拶を申しあげます。旧年中は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申しあげます。新年を迎え、気持ちを新たに当社も動き始めました。本年も相変わりませず、ご指導ご鞭撻を頂けますよう、心よりお願い申し上げます。また、皆様にとりまして良い一年となりますことをお祈り申し上げます。

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2017年12月13日(水)強い衝撃から資料を守るポリエチレンフォームAZOTE®を組み込んだ保存箱

物理的な衝撃に弱い資料の保管には緩衝材付きの保存箱をお勧めしている。緩衝材にはポリエステル製の綿布団以外に、腐食ガスが発生しない、ポリエチレン樹脂を特殊発泡させたフォーム材AZOTE®(プラスタゾート)を採用している。

 

一般的なフォーム材の製造には化学発泡剤が使われており 、発泡体に残留したホルムアルデヒドやアンモニア系のガスが接触した資料に腐食や染みを起こす原因となることがある。AZOTE® は化学発泡剤を用いない超臨界窒素ガス発泡方式で製造された、有害ガスを放出する危険がないクリーンなフォーム材だ。また純粋なポリエチレンが原料なので対候性や耐薬品性も高く、一つ一つの気泡が均一なため物理的強度が高く耐水性も優れている。 AZOTE® はヨーロッパ諸国では何十年もの間、多くの博物館・美術館などで保存用クッション材として採用されており、精密機器や軍需品など様々な分野での輸送にも使われている。 PAT(ISO18916:2007 写真保存用包材のための写真活性度試験)もパスしており、直接資料に長期間接しても問題のないことが確認済みだ。

 

AZOTE® を使用した保存箱の事例をいくつか紹介する。

 

①ガラス乾板用のシンク付き保存箱

割れや画像の剥離が起きている乾板は縦置きでの保管ができないため、乾板サイズに合わせたシンクに平置きして箱に収納する。 AZOTE®で作る乾板用シンクはクッション性があり、たわまない強度も保持している。

 

②小物をまとめて収納するための仕切り付きの保存箱

陶器製の香合の身と蓋をそれぞれ落とし込む部屋をAZOTE® で作った。加工性が高く、資料がぴったりと収まる設計で作ることができる。

 

③複雑な形状の陶芸作品用の保存箱

立体的な造形作品などは「薄葉紙 Qlumin くるみん」で包んでから、AZOTE® を内側に貼り込んだ保存箱へ収納すると、より安全に保管ができる。

 

④額装作品用にコーナーを取り付けた保存箱

額などを四隅で固定するコーナーにAZOTE®を使用した。接触面の摩擦が少ないので、額に対してタイトに取り付けても額を傷つけない。蓋の内側の額に接触する箇所にAZOTE®を取り付けると、描画面に接触させずに額をしっかりと固定ができる。

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2017年11月22日(水) 全史料協全国大会に出店しました。近日発売予定の新薄葉紙が好評でした。

11月9日から10日の2日間、神奈川県相模原市で行われた全国歴史資料保存利用期間連絡協議会第43回全国大会「公文書館法30年ー今、問われる公文書管理ー」に出展しました。この大会は全国からアーカイブズに携わる方々が多く参加され今年の来場者数は246名でした。当社のブースでは修理資料のサンプルや、アーカイバル容器、無酸素パック「Moldenybe®モルデナイベ」、「汚染ガス吸着シートGasQ®ガスキュウ」を展示しました。新しく導入を検討されている機関の方からは使い方等の質問を。現在製品をご利用いただいているお客様からは、製品に対する感想やご要望など貴重なご意見を伺うことができました。近日発売予定の「新薄葉紙Qluminくるみん」はお客様に実際手に取ってもらいとても高評価をいただきました。

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2017年11月15日(水) 修理工房で使う2種類の加湿器

修理工房内で使用する加湿器は2種類あります。乾燥しやすくなるこれからの季節、紙や革が反ったり丸まったりするのを防ぐため、室内の湿度調整用に気化式の加湿器を導入しています。これとは別に、修理作業に用いるのは超音波加湿器です。超音波振動で発生するミストによって、資料に対してゆっくり穏やかに水分を与えることが可能となります。例えば、トレーシングペーパーの様に水分に敏感な素材のフラットニング処置などで使用されています。

 

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2016年8月3日(水) 無酸素パック「モルデナイベ」は工房でも加湿や修理用の材料の保管などに活用しています。

2013年11月28日(木)修理工房の温度・湿度を管理

2012年06月21日(木)巻き癖の強い図面の水蒸気による加湿フラットニング

2012年02月16日(木)経年劣化により物理的強度が低下したトレーシング・ペーパーの修復

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2017年11月8日(水)11月7日(火)から9日(木)まで、パシフィコ横浜で行われている「第19回図書館総合展」に出展しています。

第19回図書館総合展が開催されています。期日は明日11月9日(木)まで。

 

今年は、修理部門の作業風景をブース内に再現し、処置で実際に使われている道具や材料をご覧頂けるようになっています。資料サンプルや事例を交えて修理方法、費用、期間のほかサービスや製品について具体的に解説いたしますので、ぜひお気軽にスタッフまでお声をおかけください。アーカイバル容器部門では無酸素パック「Moldenybeモルデナイベ®」汚染ガス吸着シート「GasQガスキュウ®」「ドライクリーニング・ボックス」などのラインナップに加え、現在開発中の新製品や近日発売予定の「新薄葉紙Qluminくるみん」も参考出品しております。弊社ブースへお立ち寄りのうえ、どうぞお手にとってご覧下さい。

 

ブース番号46にて皆様をお待ちしておりますので、ぜひご来場下さい。

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2017年10月25日(水) 年始あいさつ用の手拭いのデザインはどれに?

今年も残すところあと2ヶ月となりました。これから年末に向けて徐々に慌ただしくなるこの時期、新年の準備も始まっています。日ごろお世話になっている方々へ年始にお配りする手ぬぐいのデザインを選ぶのもこの時期の仕事。毎年スタッフ全員の投票形式で決めています。来年は戌年ということで、犬柄のデザイン数種類の中から決めるのですが、どれも甲乙つけがたく、スタッフ一同あれこれ迷いながら一番良いと思うデザインに一票を投じました。さて、来年お正月の手ぬぐいはどんなデザインに決まるのでしょうか。

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2017年10月18日(水)接着剤で無線綴じされた図録を折丁仕立てに作り直し、きれいに見開くように再製本する。

無線綴じされた図録。本紙の背を断裁し、それぞれのページを一枚ものにして束ね、背側の端を接着剤で固めて製本されている。経年により接着剤が劣化し、本紙は一枚ずつバラバラの状態に外れている。本紙が厚く柔軟でないため、そのまま糸で平綴じで修理を行うと見開きが悪くなり、紙への負荷もかかる。

 

断裁された本紙の背を短冊状の和紙でつなぎあわせて折丁の背を作り直した後、折丁を組み合わせた括を作り、糸で綴じ合わせてゆく(かがり綴じ)。手間のかかる工程であるが、これにより、のど元まできれいに見開ける仕上がりになる。

 

* かがり綴じ、平綴じ、中綴じ、無線綴じの断面図

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2017年10月11日(水) 資料のファイルと保存処置が同時にできるアーカイバル・バインダーの容量を拡大した改良品を開発中です。

アーカイバル・バインダーは透明のリフィルポケットに1枚物の紙資料などをファイルできる、リングバインダー付きのシェルボックスです。資料のファイリングと保存処置が同時にできるバインダーとして開発しました。透明リフィルに収納したまま中身の確認・閲覧ができるため、書類や原稿・印刷物・写真プリント・ネガフィルム・スライドなどの整理に便利です。また、資料の表裏を確認できるので、パンフレットやカタログなど薄い冊子のコレクションに利用するお客様もいらっしゃいます。

 

リフィルの素材は化学的に安定性の高いポリプロピレン製で、PAT(ISO18916:写真活性度試験)もパスしています。一般のビニール製品とは違い、素材に劣化要因となる可塑剤などの添加物は含みませんので、中の資料に安全です。

 

より沢山の資料を1箱に収納したいとのご要望をお客様から受け、バインダーのリングサイズを大きくした箱を試作中です。収納量が増えた分、中身の荷重に箱や部品が耐えられるよう、設計に改良を加えながら強度の検証を重ねています。販売開始までもうしばらくお時間をいただきますが、現行商品に比べ1.5倍程度の容量拡大が目標です。

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2017年9月20日(水)本紙の破れを修補するときの道具・材料とセッティング

本紙の破れを修補するとき、デンプン糊を和紙に塗布、もしくは本紙に塗布して和紙を当てて補強する。デンプン糊は接着力が非常に強いので、水で薄めて使用するぐらいがちょうど良いが、薄すぎると和紙が剥がれたり輪染みになったり、濃すぎると紙がこわばる原因になる。

 

 糊を塗布する際は筆や刷毛を使用する。修補の範囲によって、細筆、平筆、小刷毛、糊刷毛を使い分ける。このほか、糊が手や道具、作業台など余計なところに付かないよう注意し、もし付いたときにはさっと拭き取れるよう、濡らした布巾を用意しておく。

 

修補に使う和紙は、本紙の厚みや色、補強の程度によって選択する。喰い裂きの和紙は毛羽の影が目立つこともあるので、あえて断ち切りの和紙を使用することもある。冊子や新聞などの紙資料は、最初から最後のページまで同じ箇所が破れていることがよくあるので、このように同じ破損を一度にたくさん修補するときには、断ち切りした短冊状の和紙をあらかじめ用意しておく。

 

最後に、修補した箇所が不均一な乾燥によってシワになったり、つっぱったりしないよう、不織布ろ紙、更に重石をのせてしっかり乾燥させることが、良い仕上がりのためのポイントとなる。

 

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今日の工房 2017年1月18日(水)修理に欠かせな道具・材料ーリーフキャスティング(漉き嵌め)で使用する竹簾

 

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2017年9月14日(木)松竹大谷図書館、映画関連記事スクラップの保存等で新たなクラウドファンディング

公益財団法人松竹大谷図書館は「クラウドファンディング<第6弾>歌舞伎や映画、銀幕が伝えた記憶を宝箱で守る」として、46万点以上の資料を収める電動書架のメンテナンスと、約4,000冊もの映画製作当時の記事が貼り込まれた映画スクラップを保護する保存箱を作るプロジェクトのため支援金を募集しています。募集期間は9月5日(火)から10月25日(水)の50日間です。

 

松竹大谷図書館は、松竹株式会社の創立者の一人・故大谷竹次郎(1877~1969)が昭和30年(1955)に文化勲章を受章したのを記念して、昭和31年(1956)に設立した演劇と映画の専門図書館です。長年にわたり演劇・映画事業にたずさわってきた松竹株式会社が、収集・所蔵してきた資料を広く一般に公開し、研究者や愛好家の利用に供して、芸術文化の振興と、社会文化の向上発展に寄与することを目的として設立されました。

 

同館には、約300年前の浄瑠璃正本や、阿国歌舞伎の様子を伝える貴重な資料「かふきのさうし」(非公開)をはじめ、演劇(歌舞伎・文楽・新派・新劇・商業演劇を主に)、映画、日本舞踊、テレビ等に関する台本・文献・雑誌・写真・プログラム・ポスター等、46万点を超える資料が収蔵され、これまでにもクラウドファンディングを利用したアーカイブ事業を実施しています。

 

クラウドファンディング – Readyfor(レディーフォー)
プロジェクトの詳細はこちら↓
https://readyfor.jp/projects/ootanitoshokan6

 

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2017年9月6日(水)映画の復元と保存ワークショップで「ノンフィルム資料の保存と修復」実習を行いました。

8月25日(金)〜27日(日)に「映画の復元と保存に関するワークショップ」実行委員会主催の『第12回映画の復元と保存に関するワークショップ』が行われ、初日の「ノンフィルム資料の保存と修復」東京国立近代美術館フィルムセンターと実行委員会の共催の実習を弊社で担当しました。「ノンフィルム資料」とは、映画に関連する雑誌、書籍、ポスター、チラシ等々を指します。

 

実習の前には、フィルムセンター所蔵資料の解説と、館内の収蔵庫、書庫、閲覧室を主任研究員の岡田氏をはじめスタッフの方々がご案内くださいました。アーカイブ的、網羅的、合理的といった信念のもと活動されている様子が伝わってくる見学会でした。

 

「ノンフィルム資料の保存と修復」実習では、国内外からご参加くださった20名とともに、破れた資料に対する和紙とでんぷん糊での修補や、小冊子の金属除去、綴じ直し、背表紙修補を行いました。その後の質疑応答でも、とても実務的な話題が多く、非常に充実した出講となりました。

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2017年8月30日(水)定番の組み立て型の被せ蓋式保存箱の重量負荷試験の結果は?

保存容器のなかでも最も定番の商品が、蓋と身のパーツが分かれたタイプの「被せ蓋式」といわれるもの。これには完成箱と組み立て型の2つのタイプがあります。完成箱は接着剤を使い、弊社で最終的な箱の形にまで加工して出荷するタイプです。一方の組み立て型は、蓋と身が、平たい板状のパーツとして出荷され、お客様ご自身が組み上げて作るタイプで、組立には接着剤は必要ありません。

 

組み立て型は完成箱に比べて価格も安いのですが、強度的にどの程度のものか気にされる方もいらっしゃいます。例えば中に資料を詰め込んだ時に、その重さのために箱が変形したり潰れたりしないだろうか、というご質問をいただくことがあります。

 

定番であるA3サイズの組み立て型に簡単な重量負荷試験を行いました。目一杯に詰め込んだ資料の総重量を20kg程度と見越して、1個6kgの重石を入れて持ち上げたところ、4個(24kg)入れても問題なく持ち上げることができました。また、蓋の上に重石を10個(60kg)置いても、側板が若干たわむものの、箱がつぶれることはありませんでした。通常の使用においては十分な強度であると考えられます。

 

ある程度以上の大きさや特に重たい資料の時には完成箱が適していますが、文書や小さなモノ資料、書籍などを整理保管するには組み立て型でも安心してご使用いただけます。

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