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2025年12月2日(火)ライオン株式会社様所蔵 ポスター資料の保存修復処置事例を『スタッフのチカラ』に掲載しました

この度、ライオン株式会社様より、昭和初期頃のポスターの修理をご依頼いただき、処置の詳細をスタッフのチカラ『ライオン株式会社様所蔵 ポスター資料の保存修復処置事例』に掲載いたしました。
また、このポスターの作者であり、同社のパッケージデザイナーであった藤橋正枝(ふじはしまさえ)氏の活躍をまとめたウェブページが「ライオンミュージアム」に公開されました。その中で、『蘇った昭和レトロポスター』と題して今回の修復処置のことを取り上げていただいています。
ライオン株式会社ホームページより:ライオンミュージアム「藤橋正枝」

 

ライオン株式会社は1891年(明治24年)10月30日に小林富次郎商店として創業し、来年2026年に創業135周年を迎えます。ハミガキ、石鹸・洗剤などのトイレタリー用品や医薬品、ペット用品などの化学製品の製造・販売を通じて、人々の健康で快適な暮らしを支えてきました。時代を象徴する製品や広告を数多く生み出してきた同社では、1935年(昭和10年)に初の社史を刊行して以降、自社の歩みを示す製品関連資料の収集と保存を続けてきました。現在、登録されている史資料は3万点を超え、商品、パッケージ、写真、ポスター、図書など多岐にわたります。

 

このようなアーカイブ資料は、社内教育プログラムや、情報発信のコンテンツとして活用され、アーカイブ担当部門の活動は社史編纂にとどまらず、インターナルブランディングと社会への発信をつなぐ基盤として位置づけられています。

 

今回修理の対象となったポスターは、制作年は特定されていないものの昭和初期頃と考えられています。今後の研究活用を見据え、資料の情報価値を損なわず、構造安定性の回復と、紙基材の保存状態の改善を目的として、 処置方針を組み立てました。

 

処置前のポスターは、中央縦の破断によって二分されているという損傷状況が目立ちますが、表面に塗布されていたワニス層の経年による黄変のため、画面全体が暗く、ひび割れも生じており、傷みの激しさを強調するような印象がありました。視認性の回復と基材の保存性向上のために、これらの古いワニス層の除去を行いました。

 

ワニスは主に油彩画に使用される画材ですが、近現代の紙資料では、掛図装の大型地図やポスターの表面に塗布されていることがあります。このワニス層は水分を含むと白化するため、洗浄やフラットニングなど水を用いる処置を行う前に除去が必要です。

 

ワニス層の除去作業(タイムラプス動画 ショート)
動画のロングバージョンはYouTubeライオン公式チャンネルより、『藤橋正枝氏描画ポスター修復の様子』でご覧いただけます。

 

 

処置後は、分断されていた図像が再び一枚の画面としてつながり、紙資料としての統一性と、取り扱いにおける安全性が回復しました。さらに、紙面に付着していた汚損や、変色したワニス層が取り除かれたことで、広告のビジュアルイメージが明瞭に視認できるようになりました。

 

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