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2021年6月3日(木)没食子インクで書かれた祈祷書の保存修復手当て

京都大学東南アジア地域研究研究所図書室様より、貴重書の保存修復処置を承りました。対象資料は、フィリピン史学者の旧蔵書からなるフォロンダ・コレクションの祈祷書。1850年代に作られたと言われるイロカノ語の手稿本で、表紙に華やかな装飾が施された縦12cmほどの小型革装丁本です。本紙は、酸化・酸性劣化による変色と紙力低下で紙の柔軟さが失われているため、周縁や折り目に亀裂、破損、欠損が生じやすい状態でした。さらに、没食子インク部[※]と周辺の紙がもろくなり、‘インク焼け’による文字の脱落が部分的に起こっています。

 

[※]没食子インク:タンニンと酸化鉄が反応してできる黒いインク。没食子インクによる紙の劣化は‘インク焼け’(ink corrosion)と呼ばれ、インクの主成分である鉄イオンと硫酸の触媒作用によって引き起こされる。

 

この資料は、デジタル化を含めて今後も活用され続ける大変貴重な資料であることから、長期保存のために劣化要因を取り除き、閲覧の際に不安なく利用できるよう修補を行いました。

 

 

保存修復処置工程

①事前調査:資料の基材やイメージ材料へのスポットテスト、処置で使用する水溶液や有機溶剤に対する耐性を確認した。

②ドライ・クリーニング:先端が柔らかい刷毛で資料表面の埃や塵を取り除いた。

③解体、粘着テープ除去:綴じ糸を切り本体を解体して表紙を取り外した。破損箇所に貼られた粘着テープを除去した。

④レッドロット処置:表装の劣化した革にリタンニング処置を行い、HPC(ヒドロキシプロピルセルロース)のエタノール溶液を刷毛で塗布し表面の状態を抑えた後、保革油を塗布し馴染ませた。

⑤水性洗浄、抗酸化処置、脱酸性化処置:①のスポットテストの結果から、使用する水溶液への耐性が確認できたので、洗浄、脱酸性化処置、抗酸化処置を行った。インク等の書写材料と本紙の破損状況を考慮し、水性処置はクリーニング・ポケット法(浸漬法)で行った。逆浸透膜(RO)水に水酸化カルシウム水溶液を加え弱アルカリ性(pH7.5〜7.8)に調整した洗浄水に浸漬し、汚れや可溶性の酸性物質が出なくなるまで、一定時間おきに洗浄水を替え繰り返し行った。洗浄後、フィチン酸カルシウム水溶液による抗酸化処置を行った後、炭酸水素カルシウム水溶液に浸漬し脱酸性化処置を行った。処置後は第二鉄指示薬紙の反応が無くなり、十分なキレート効果を確認できた。本紙の処置前のpHは平均2.5、処置後は平均7.3まで上昇した。

⑥修補:染色した和紙(楮)で破損が拡大する恐れがある箇所やインク焼けの剥落部を重点的に、ファイバー・ブリッジ法(和紙を繊維状にほぐしたもので損傷部分を繋ぎ留める)で修補した。

⑦保存容器への収納:本紙への負担を考え、綴じ直しは行わずに保存容器へ収納した。

 

 

現在この資料は、高精細なデジタル化撮影を経て京都大学貴重資料デジタルアーカイブで公開されています。

 

京都大学貴重資料デジタルアーカイブ『prayer book in Ilocano』

 

 

この度の事例紹介にあたり、京都大学東南アジア地域研究研究所図書室様より掲載のご協力をいただきました。誠にありがとうございました。

 

2021年5月17日(月)小石川植物園様所蔵の大型革装丁本のドライクリーニングと保存容器収納を行ないました。

小石川植物園の名で親しまれている東京大学大学院理学系研究科附属植物園は、自然誌を中心とした植物学の研究・教育を目的とする東京大学の教育実習施設です。この植物園は日本の近代植物学発祥の地でもあり、現在も東アジアの植物研究の世界的センターとして機能しています。植物園本館には植物標本約70万点(植物標本は、東京大学総合研究博物館と一体に運営されており、全体で約170万点収蔵されています)、植物学関連図書約2万冊があり、内外からの多くの植物研究者に活用されています。園内には長い歴史を物語る数多くの由緒ある植物や遺構が今も残されており、国の史跡および名勝に指定されています。

 

▪植物園の概要:東京大学大学院理学系研究科附属植物園ホームページより抜粋 https://www.bg.s.u-tokyo.ac.jp/koishikawa/

 

今回、植物学関連図書約2万冊の内、劣化が進んだ植物標本図約120冊に対して、今後の取り扱いと保存状態を改善するための資料と書架のクリーニングと保存容器への収納作業を行いました。対象資料の多くが大型の革装丁本で、レッドロット(革が長い時間にわたり光や空気中の汚染物質に曝されることで赤茶けた粉状になる現象)が進み亀裂や剥落が著しい状態でした。この状態になった資料は、利用に支障をきたすだけではなく、本紙や書庫全体の汚染の原因となります。また、隣り合う資料との摩擦によって、レッドロットの状態になった資料自体がさらに傷んでしまいます。

 

クリーニング作業では、ブラシノズルを装着したHEPAフィルター付き掃除機とクリーニングクロスを使い、資料や周辺に飛び散り堆積したチリやほこりを除去しました。スチール棚に蓄積された汚れは、消毒用エタノールを含ませたペーパータオルで拭き取って清掃しました。

 

表装の革が劣化した資料はGasQくるみんで外装を包み保護しました。これにより、取り扱いの際のレッドロットの粉による手の汚れや周囲の汚損も防ぎます。資料は一点ずつ採寸し、適切なサイズ・仕様の保存容器を作製しました。ある程度厚み・重さのある資料は組み立て式シェルボックスに、その他の資料はタトウ式保存箱に収納し、保存容器にはタイトルを印字したラベルを貼付して、これまでの配架方法を変えることなく、閲覧性を維持できるよう再配架しました。こうした資料への予防的保存措置によって、破損の拡大をおさえ、環境も改善され、良好に保存することができます。

 

本稿の掲載および写真の撮影・使用にあたっては東京大学大学院理学系研究科附属植物園様と東京大学理学図書館様の多大なるご協力を頂きました。誠にありがとうございました。

 

 

【関連商品】
汚染ガス吸着シートGasQ®ガスキュウ 
新薄葉紙Qlumin™くるみん 
組み立て式シェルボックス 
タトウ式保存箱 
中性ラベル 

 

【関連記事】
・『スタッフのチカラ』2015年12月2日 資料に付着した汚れやカビのドライ・クリーニング 
・『今日の工房』2020年7月1日(水)「新薄葉紙Qlumin™くるみん」を、劣化した洋装本の保護カバーに 
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・『今日の工房』2019年6月19日(水)共立女子大学図書館様の貴重書1900点のカビ被害のクリーニングから保存容器収納まで。
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2021年1月27日(水)本の見返しに用いられたマーブル紙の修補

革装本の見返しに色彩豊かなマーブル紙が使われているものがあります。表装が傷み、埃をかぶった古い書物の外見とは対照的に、表紙を開いた時のカラフルな色合いとマーブル模様の美しさに驚くことがあります。マーブル紙は本の装丁の装飾紙として欠かせないものの一つです。

 

こうしたマーブル紙の欠損箇所を修補をする際は、元の印象を崩さないよう心掛けて処置を行っています。

 

欠損部が小さい場合は、似寄りの染色和紙(単色)で補填するだけで違和感のない仕上がりとなりますが、欠損部が大きい場合は弊社では下記のような方法で修補を行っています。

 

1. 見返し紙のマーブル紙をデジタルカメラで撮影します。

 

2. 画像をExcelのシートに挿入します。Excelのセル幅・高さを1㎝四方に調整し、セルを利用して画像を原寸大の模様サイズになるよう調整します。

 

3. 紫外線や水にも強い顔料インクのインクジェットプリンターで和紙に出力し、マーブル模様の補修紙を作成します。

 

4. 補修紙から欠損部と似た模様の箇所を選び、欠損部の大きさに合わせて、補修紙を切り抜きます。切り口はハサミで断ち切りにする場合や、水筆を利用して喰裂にする場合もあります。

 

5. 補修紙を欠損部に当てて全体の印象を確認した後、でんぷん糊を塗布して修補します。

 

以前は大きな欠損部も染色和紙(単色)で修補し、アクリル絵の具や色鉛筆等で補彩をしていましたが、複雑なマーブル模様の再現が難しく時間を要する作業でした。和紙にマーブル模様をプリントする方法を取り入れてからは、再現性も上がり、作業もスムーズになり、何より自然な仕上がりにお客様からもご満足いただいております。

2020年10月15日(木)公的機関や企業のお客様だけでなく、個人のお客様からのご依頼もお引き受けしております。

弊社では個人のお客様からの資料保存に関するご相談、修理や保存容器のご依頼も承っております。ご自宅にある古い書籍や思い出の写真アルバム、地区やお寺・神社に伝わる文書、大切にしている日記、賞状、手紙等々–過去にご依頼いただいた実績の中から、長年愛用されてきた革装の辞書と、代々伝わる地図の修理事例を紹介いたします。

 

革装の辞書は、表装革のレッドロット化(革が長期間にわたり空気中の汚染物質に曝されることで赤茶けた粉状に劣化する現象)が進行し、触れると革が剥がれる箇所もありました。背表紙は色あせ、表紙周辺にひび割れや欠損、ヒンジ箇所(表紙と本体の結合部)に裂けが見られました。本紙や本体に傷みは無く、もとの雰囲気を保ちつつ本を開くことができるようにという、ご依頼でしたので、処置としては、表装革に生じたレッドロットに対する手当てを行い、背表紙を本体から一旦外し、背をこしらえ、新たに和紙でヒンジを設け、本体と背表紙を再接合しました。表装革の欠損箇所は革の色に合わせて染色した和紙で補填しました。

 

地図資料は、A1サイズ程の薄い和紙に墨で描かれた手書彩色図。数枚の和紙を継ぎ足して一枚に描き、渋引きされた和紙で裏打ちされていました。この地図は頻繁に使われたのか、周辺に破れや摩擦による穴が見られ、また、折り畳んだ状態で保管されていたため折れ皺や折りクセが強く残っていました。お客様のご希望は、地図を電子化し、資料の利用はデジタルデータで、現資料は今以上に傷まないように保管したいということでしたので、処置としては、フラットニングし、破損箇所を和紙とでんぷん糊で修補したのち、デジタル撮影をしました。その後、ロール・エンキャプシュレーションを行い、複数本まとめて保存箱に収納しました。

 

ご相談はお気軽にお寄せください。

 

 

【関連記事】
・スタッフのチカラ『学習院大学図書館様所蔵「華族会館寄贈図書」資料に対する保存修復処置事例』
・スタッフのチカラ『立教大学図書館様所蔵洋装貴重書に対する保存修復手当て』
・スタッフのチカラ『「表紙の外れた革装丁本は、どのように修理するのですか?」のご質問にお答えします。』
・今日の工房 2019年6月12日『ロール・エンキャプシュレーションのサンプルを作る。』
・今日の工房 2012年9月21日『ロール・エンキャプシュレーションによる大判地図の修復手当て』

 

2020年9月29日(火)パーチメント、ヴェラムで装丁された本の劣化を予防する

「革(leather)」とは、動物の原皮を石灰につけて毛や脂肪を除去した後、植物タンニンやクロム等で鞣し、皮のコラーゲン繊維を安定、固定化させたものです。
これに対し、「パーチメント(parchment)」「ヴェラム(vellum)」とは、原皮を石灰につけて毛や脂肪を除去した後、鞣しを行わず木枠に張った状態で乾燥させ、シート状にしたものを言います。表面は密で摩耗に強く、用途にあわせて表面を削って厚みを調整し、中世から書写材料として使用されてきました。

 

16世紀以降には、これらを本の表装材として用いたものがあります。
パーチメント、ヴェラムは吸湿性があり、反りやうねりが発生しやすい素材です。湿気を吸うことでコラーゲン繊維が膨潤し、乾燥する過程で収縮します。表装材として用いられている場合、収縮によりヒンジ部の亀裂やこれらの損傷部分の捲れ、巻き込み部分の剥がれや、表紙そのものの反りを引き起こすことがあります。
ヴェラム装丁本のように形態変化が心配な資料は、適したサイズの保存容器に収納することで、こうした周囲の環境変化による影響を最小限に抑え、損傷の拡大を予防します。

 

▶参考:画像や文化財保存のためのツール開発と教育、実践を行っている米国のImage Permanence Institute(IPI:ロチェスター工科大学画像保存研究所)が、湿度条件の変化によってヴェラム装丁本の表紙に生じる影響の実験映像をYouTubeで公開しています。

 

この実験映像は、相対湿度を55%の平衡状態から25%へ、そして55%に戻し、最後に75%に移行させながら、貴重書の表紙の物理的な変化を撮影したものです。室温で12時間かけて行われています。日常的に起こっている環境湿度の変動に対し、資料がどのように反応するのか、どういった負荷がかかり、時間の経過で劣化へと繋がるかを示唆する非常に興味深い映像です。

 

 

 

 

 

 

 

 

Effect of Humidity Fluctuation on a Rare Book

RIT | Image Permanence Institute

 

 

2020年7月1日(水)「新薄葉紙Qlumin™くるみん」を、劣化した洋装本の保護カバーに

劣化が進んだ洋装本の汚損や破損を防ぐ簡易な対応として、ブックカバーのように資料に保護カバーをかける方法があります。
色褪せや傷、擦れなどの損傷が広がらないよう資料を守るとともに、すでに外れてしまった背表紙や表紙を本体と一体化して保管することもできる、手軽で効果の高い予防保存方法です。
レッドロットの粉による扱う手の汚れや、周囲の汚損も防ぎます。

 

「新薄葉紙Qlumin™くるみん」は表面がなめらかで、レッドロットのように擦れに繊細な資料も傷つけません。
腰のあるしなやかな紙質は、洋装本の立体的な形にも柔軟になじみます。
今回は特別な道具を使うことなく、たたんだり、折ったりと折り紙のような感覚で作れる保護カバーを紹介します。

 

▶保護カバーの作り方
「新薄葉紙Qlumin™くるみん」(規格断裁品:800㎜×1,100㎜)の使用が便利です。
目安として、A4サイズ程度の洋装本に対して、これを二つ折りすると適当な大きさとして使用できます。
半分にカットしたり、折らずに2枚重ねにするなどして一般的な規格の洋装本に対応することができます。

 

①薄葉紙を二つ折りする。
②天地を資料サイズにあわせて三つ折りする。中心部の重なり具合で大きさを調整する。
③書籍が中心に来るように置き、折り返しの長さを確認する。
④長い場合は、表紙幅よりやや短い長さで切る。
⑤表紙に合わせて前小口側を折り返す。
⑥表紙が外れている場合、薄葉紙のひもで縛ることで安定します。
小型ロール品「新薄葉紙Qlumin™くるみんのひも」、もしくは薄葉紙を細く裂いてひもを作ります。
結び目は前小口側に来るようにします。

 

【関連商品】

 新薄葉紙Qlumin™くるみん

 

2020年5月20日(水)「綴じ」を「抜かし」綴じ上げる

かがり綴じのなかには抜き綴じという技法があります。 通常かがり綴じは、一括ずつ綴じ穴すべてに糸を通し綴じていきますが、抜き綴じはその名の通り、1回の運針で2括ないし3括を交互に「抜き」綴じます。現在の修理製本では主に本文紙が薄い資料や括数が多い場合に、綴じ糸により背幅が膨らみすぎるのを防ぐために用いられていますが、この技法が多用された17世紀、18世紀ごろは、綴じる時間の短縮を目的に用いられることが多かったようです。

 

今回は文庫本ほどの小型で厚みが6㎝ある資料に、抜き綴じを採用しました。一般的にかがり綴じよりも抜き綴じは強度が落ちると言われていますが、支持体を3本用いて、綴じ穴の数を増やすことで、安定した綴じ上がりとなり、厚みも綴じる前とほぼ変わらない仕上がりとなりました(図②を参考)。

 

【関連情報】

・『今日の工房』2008年12月12日 洋装本の括(signature)の綴じ方のあれこれ

・ The Art of Bookbinding/Chapter 5 by Joseph William Zaehnsdorf

2020年3月11日(水)寒川文書館での資料保存ワークショップに出講しました

2月1日(土)、神奈川県寒川町の公文書館、寒川文書館にて開催された資料保存ワークショップ「錆びや傷みから記録を守る」で弊社スタッフが講師を担当しました。

 

寒川文書館は公文書館法に基づき寒川総合図書館の4階に設置されている公文書館であり、行政資料や古文書、郷土資料等を収集、整理、保存する施設です。今回のワークショップは、文書館利用者やボランティアの方などの町民や地域の一般の方々、寒川文書館館長ならびに職員の皆さまを対象として開催されました。

 

本や小冊子などへの簡易的な手当てについて、下記のプログラムで資料保存実習を行いました。

 

* 傷んだ冊子の劣化、損傷の原因、本体の構造、綴じ方について
* 修理に使う道具の説明
* 金属除去、修補、綴じ直し

 

傷んだ冊子を解体し、普段あまり見ることのない本の内側を観察することで、劣化や損傷が起きた要因を確認しました。

 

資料の修理には特殊な道具を使用することも多いのですが、今回のワークショップでは修理道具の中でも割とポピュラーなマイクロニッパー、綴じ糸、綴じ針、筆、糊、ろ紙、不織布などの道具を使用し、これらの使い方や注意点についてご紹介しました。

 

破れてしまったページの修理には水で薄めたでんぷん糊を使います。でんぷん糊は中性であること、水溶性なので後で剥がせることから、資料保存の観点で非常に優れた接着剤ですが「水分量」の調整が肝になり、刷毛や筆への糊の含み具合や塗布後の処理などに気を遣います。とくに劣化資料への修補では、糊が薄すぎると和紙が剥がれたり輪染みになったり、濃すぎると紙がこわばる原因にもなるので、こうした点に気をつけながら実践していただきました。

 

質疑応答では、資料保存に関する実践的な質問が多く寄せられ、基本技術の習得のみならず、資料の取り扱いを注意することで予防できる損傷も多いことを弊社の事例を紹介しながら解説しました。

 

ご参加いただいた皆さまに心より御礼申し上げます。

 

◇具体的な資料の修理手順はこちらで紹介しています。また、弊社で行った資料保存ワークショップはHPで掲載しておりますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。

 

《関連情報》
独立行政法人国立女性教育会館主催『アーカイブ保存修復研修』
私立大学図書館協会和漢古典籍研究分科会主催『古典籍資料の補修実演講座』
NPO文化財保存支援機構主催『平成30年度文化財保存修復を目指す人のための実践コース』

 

2020年2月26日(水)壊れてしまった無線綴じの写真集へ、どのような手当てが行えるか。

無線綴じとは、糸や金属等を使用せず、本紙の背を断裁して接着剤で綴じただけの製本方法をいいます。これら無線綴じに用いる接着剤は紙を断面で接着する強度と見開きに沿う柔軟性が求められます。近年はより耐久性や柔軟性に優れた接着剤に移行しつつありますが、従来より無線綴じに使用されてきたEVA系ホットメルト(エチレン酢酸ビニール樹脂を主体とする接着剤。60℃以上の熱で溶解し、常温で硬化する)は、製本後、経年や温度変化により再溶解が始まったり、印刷インクの影響を受けて劣化するとされています。特に写真集のように紙が厚く重い資料には、接着剤の劣化に伴い本紙がバラバラに外れてきてしまっているものが見受けられます。
可逆性のある材料として修理に用いるでんぷん糊等の接着剤は、無線綴じ製本を行う用途には適していないため、構造的な修理を行う際は糸綴じする方法を基本としています。

 

①綴じ穴をあけて糸で平綴じする処置の場合は、ノド元の余白は十分にあるか、製本後の見開き具合は適切か、糸の強度は十分か等を検討します。

 

②より見開きの良い方法として、断裁された本紙の背を和紙でつないで折丁に仕立て、糸でかがり直す処置があります。大きく構造を作り替えても元の表紙・背表紙に収まるか、ノド元まで印刷されているページは和紙を貼ることで視認性に影響しないか等を検討します。

 

③印刷されている画像を重視する場合など、資料の性質によってはあえて構造的な修理は行わず現状を維持するための保存容器への収納のみをお勧めすることもあります。バラバラになった本紙が散逸しないよう、中性紙のフォルダに包み保存容器に収納します。

 

【関連情報】
『今日の工房』2017年10月18日(水)接着剤で無線綴じされた図録を折丁仕立てに作り直し、きれいに見開くように再製本する。

2020年2月5日(水)保存製本の手法を取り入れた一事例

お客様より製本のご依頼をいただきました。
お預かりした資料は、本紙は綴じられておらず、一葉一括(一枚一折り)の本紙束が表紙に模したコの字型カバーに挟まれ、スリップケースに収納されていました。これを、元のコの字型カバーを表紙として活かし、本体を綴じて製本してほしいとのご依頼でしたが、本の形態に仕立てるには2つの問題がありました。

 

①本体の背幅とコの字型カバーの背幅が合っていない。約8㎜程度本体の背幅が薄い。

②表紙となるコの字型カバーは、本の表紙を想定して作られていないため、本体と表紙を接合した際に、ヒンジ部に過度の負荷がかかり損傷の原因になってしまう。

 

上記2点を解決するため、保存製本(コンサベーション・バインディング)の手法を取り入れ製本しました。

 

まず、①の問題を解決するために、“concertina guard”とよばれる本来は本体の括の背を保護するために用いる方法を取り入れました。蛇腹状に折り畳んだ和紙の間に括を挟み入れて、本体の背の厚みを増し、さらに綴じていく糸でも厚みが増すことで、カバーと本体の厚みの差を調整しました。

 

次に、②のヒンジ部の負荷を分散させるために、“hinged hollow”と呼ばれるヒンジ部が2段階構造になる方法を取り入れました。この製本方法は1980年代にフィンランドの製本業者が開発した“OTABIND”という方法から発展し、現在は保存製本の一つとして応用されています。今回は、本体の見開きを考慮して表紙側のみ、この方法を取り入れました。

 

元の角背の構造を活かしつつ、本の開閉時にかかるヒンジ部の負担を軽減することができ、元のスリップケースにも納まるよう仕上がりました。

 

【関連リンク】
OTABAINDについて
“hinged hollow”を利用した修理事例

2020年1月22日(水)オプションサービス「ラベル作製・貼付」のご紹介

資料を保存・管理する上で、欠かせないアイテムがラベルです。保存容器にラベルを貼ることで、資料の表題や出納番号などの書誌情報が一目で識別でき、資料へのアクセシビリティが格段に上がります。

 

印刷する項目やラベルの貼り方などは、資料の性質や形態、使われ方によって異なるため、この項目だけ書けばよい、というテンプレートがありません。他にも、資料の活用段階によっても項目や用途が異なりますし、運用によっては、ロケーション番号のみを記載した方が良い場合もあります。

 

弊社では、効率的に資料を探し出せる機能的なラベルだけでなく、分類や管理の方法、様々な箱種・ファイル用品への対応等々、固有の要件に応じたラベルの作製・貼付サービスをご提案しています。自然史標本、美術品や服飾品、モノ資料などには、印刷したラベルと中性紙タグを組み合わせる場合もあり、くるみんで包んだ資料には、くるみんのひもに取り付けることも可能です。このように、整理と検索のしやすさに配慮したラベルのご相談も承ります。

 

ご要望等ございましたらお気軽にお申し付けください。

 

◆資料保存用のラベル用紙について
接着剤付きラベル用紙を使う場合は、パーマネントペーパーで作られているか、接着力が長期に持続するか、接着剤が乾いて接着力がなくなりラベルがめくれたりはがれ落ちたりしないか、接着剤がしみ出してきてべたつき、ホコリを付着させ隣接する資料の劣化原因にならないか、こういった点に配慮されたラベル用紙を推奨しています。

 

弊社の「中性ラベル」は上記の推奨要件を満たしています。用紙には中性紙として定評のあるAFプロテクトH(特種東海製紙株式会社製)を、裏糊にはアクリル系エマルジョン樹脂(弊社製)を採用し、長期の安定品質保証のために、ラベル用紙として国内では初めて、ISOのPAT(写真活性度試験=Photographic Activity Test) に合格いたしました。同試験は名称通り、直接的に接した写真画像に対する包材や接着剤の画像への影響度を試験し、包材として合格か否かを見る試験法ですが、これにパスすることは、他の資料への影響度も極めて少ないことを意味します。ただし、資料等へ直接貼るのではなく、弊社等で提供しているアーカイバルボード製資料保存容器向けに限っての品質保証になります。また、プリンタは顔料インクでのインクジェット・プリンタをお勧めします。

 

 関連記事
2019年4月17日(水)今日の工房『バインダー内の分類や仕切りに最適なタブ付きインデックスシート』

2016年9月7日(水)今日の工房『保存容器に貼付する中性ラベル』

2010年1月14日(木)今日の工房『中性ラベル用紙で作成した様々なデザインのラベル』

 

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2019年12月18日(水)国立女性教育会館での実技コースへの出講と弊社見学会を行いました。

11月27日(水)~29日(金)独立行政法人国立女性教育会館主催のアーカイブ保存修復研修が開催され、昨年に引き続き、実技コースと会社見学会を弊社スタッフが担当しました。

 

実技コースでは、資料の保存修復を実習形式で学んでいただくという趣旨にてらして、様々な書籍サンプルを用いて下記のような基礎事項を解説しました。

 

■綴じ方や本紙との接合方法などの製本構造。
■のりや接着剤の種類と製本での使われ方。
■表紙に使われる芯材料・表装材料などの種類とそれぞれの劣化の特徴。

 

また、ケーススタディとして、資料の劣化の傾向と保存対策を視点におき、いくつかの書籍モデルの事例をとりあげながら素材や形態別の劣化・損傷要因などを考察しました。

 

こうした講義の内容を踏まえて、製本実習ではリンプ・ペーパー・コンサベーション・バインディング(Limp-paper conservation binding)を作製しました。「保存製本:コンサベーション・バインディング」の要である、本への負荷が少なく、可逆性のある構造とはどういうものか、製本構造と使用素材が機械的にどのように関連するかを実習を通して体験していただきました。

 

当日のレジュメ

1.本の綴じ形態を知り、コンサベーション・バインディングを試作する

2.リンプ・ペーパー・コンサベーション・バインディングを試作する

 

2日間の実技コースの後は会社見学会を行いました。修理(コンサベーション)部門では、弊社でお引き受けしている様々な資料への手当ての事例をご覧いただきながら劣化損傷の要因と保存処置方針を固めていく工程などをご案内しました。アーカイバル容器製造部門では、技術的なことというよりは「どのような箱を作るか?」という考え方を中心に、資料の特徴と容器の形状を決める際の着眼点を紹介しました。その後、資料の採寸から保存箱の設計、カッティングプロッターを使ったパーツの切り出し、組み立てに使われる原材料や道具など、保存箱製作の実際の工程をご覧いただきました。

 

参加者の皆様より「館内で補修を行う際の基準やあり方について改めて考えることができた」、「資料の構造や作り方がわかり、修理を外注する際の判断の一助となる」などのご感想やご意見を頂きました。このような機会は、実際に現場で資料管理を担当する方々と問題意識を共有するうえでも大変貴重です。これからも、見て納得、聴いて役に立つ、実用性の高い資料の保存方法や良質なアイデアをご案内できるよう努めてまいります。

 

ご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました。

2019年12月6日(金)オリジナルの背表紙を生かして修理するための事前処置

革装丁本の背表紙は大気や光にさらされていることが多いため、よりレッドロットが進み亀裂や剥落が著しい状態になっているものが見られます。これらの革装丁本に対して、背表紙にある箔押しのタイトルや装飾を出来るだけ生かして修理を行いたい、というご相談をいただきます。

 

背ごしらえをし直す、表紙を再接合するといった構造的な修理を行うために、一時的に背表紙を取り外す場合がありますが、劣化した革は大変脆くなっているため、崩さずに現状を維持したまま取り外せるよう、あらかじめ養生の処置を行います。まず、革装部分には前処置としてリタンニング処置[※1]を行います。その後、でんぷん糊で和紙を貼って、ひび割れた表面を仮止めし養生します。乾燥した後、養生の和紙を支えに箔押しの状態を確認しながら、隙間にスパチュラを差し込んで取り外していきます。構造的な修理が完了した後は、背表紙を貼り戻し、養生の和紙はイソプロパノール水溶液で湿りを入れて取り除きます。欠失部分は染色した和紙で補い、オリジナルの背表紙を最大限生かして、見た目にもなじむように仕上げます。

 

レッドロットが著しく、オリジナルの背表紙が生かせない場合には、新規の背表紙を作成する修理も行います。

 

[※1]リタンニング処置: アルミニウムトリイソプロピレート、ベンジン、エチルアセテートを混合したリタンニング(re-tanning)溶液を塗布する処置。レッドロット現象が起きている革装部分に水分が入ると、黒く変色したり表面が硬く変質する。この前処置を行うことで、糊や水分のある材料を革装部分に使用してもシミや変色が残りにくくなる。

 

【関連リンク】革装丁本への保存修復処置事例

学習院大学図書館様所蔵「華族会館寄贈図書」資料に対する保存修復処置事例

立教大学図書館様所蔵 洋装貴重書に対する保存修復手当て ―3年間をかけて段階的に洋装本500点を― 

「表紙の外れた革装丁本は、どのように修理するのですか?」—ご質問にお答えします。

2019年9月18日(水)修補の際は、色々な厚みの和紙を使い分けています。

修補の際は、本紙の厚みによって使用する和紙の厚みを調整しています。例えば、重量のある本の背ごしらえや、厚みのある表紙の欠損箇所の補填には厚手の和紙を用いたり、破れの修補を行う際には、薄手の和紙を使用することで修補箇所に厚みが出ないようにしています。

 

また、紙力が低下した資料で表面に文字が記載されている場合は、文字情報を生かしつつ、取り扱いに支障が出ないように極薄の和紙を使用して表打ちや裏打ちを行うなど、本紙の厚みだけではなく、目的によって使い分ける場合もあります。この他にも、数種の和紙を貼り合わせて必要な厚みを出したり、本紙の質感によっては、楮以外にも、雁皮や三椏を原料とした和紙を使うこともあります。

 

数ある和紙の中から、本紙の厚みや質感、損傷具合、利用用途などに応じて最適なものを選択しています。

 

【関連情報】
『今日の工房』2019年8月22日(木)明治大学平和教育登戸研究所史料館様が所蔵する終戦時に書かれた女学生の日誌の修理とデジタル化を行いました。

 

『今日の工房』2018年7月18日(水)紙力が著しく低下したものの薄葉紙での裏打ちは、噴霧器での糊さしと不織布の補助で。

 

『今日の工房』2017年9月20日(水)本紙の破れを修補するときの道具・材料とセッティング

2019年6月19日(水)共立女子大学図書館様の貴重書1900点のカビ被害のクリーニングから保存容器収納まで。

共立女子大学図書館様の所蔵する貴重書に対して、資料の一部にカビ被害が発見されたことを機に、資料と書架の一斉クリーニングを行い保存容器を導入して再配架しました。

 

貴重書室の資料は洋書・和書約1900点。まず資料全点を無酸素パック「モルデナイベ」にパッキングしてカビ残滓等の飛散を防止した状態で別室に運び出し、そのまま無酸素状態を3週間以上維持させて殺虫とカビ抑制処置を行った。経過後は開封し、ブラシを装着したHEPAフィルター付き掃除機で資料表面や小口に堆積した塵芥やカビ残滓を吸引した後、消毒用エタノールをしみ込ませたクリーニングクロスでふき取ってクリーニングを行った。

 

空になった書架は清掃し、「棚はめ込み箱」をはめ込んで、クリーニングが済んだ資料を再配架した。和書の布帙は、破損やカビ跡が見られるものが多かったため「タトウ式保存箱」に入れ替えた。重量がある大型資料は一点ずつ「タトウ式保存箱」「組み立て式シェルボックス」に収納することで、安定して配架、取り扱いできるようになった。

 

一連の工程のうち、無酸素パック「モルデナイベ」へのパッキング作業は、共立女子大学図書館スタッフの方々により行われました。「モルデナイベ」はスタッフ様自らが館内でのご使用可能です。ぜひご活用ください。

 

 

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スタッフの力 資料に付着した汚れやカビのドライ・クリーニング

2019年4月24日(水)紙の酸性度を測るためのメルク社のpHストリップの使い方。

資料の修理にとりかかる前の作業として、カルテの作成、状態撮影、スポット・テストとpH測定(※1)があります。なかでも、紙の酸性度合いをみるためのpH測定は、紙媒体記録資料の修理においてかかせない工程のひとつです。

 

和紙に墨書きされた文書や版本とは異なり、種類が豊富な近現代の文書や書籍の紙は、その劣化要因も損傷状況も様々です。特に、近現代の資料は、酸性紙問題(※2)として指摘されるように、紙の内部で化学的な酸性化が進むことで、紙力低下、それに伴う破れや欠損などの重篤な物理的損傷につながる恐れがあります。

 

こうした紙に対する修理技術の一つとして、紙中の酸を中和し内部にアルカリ・バッファー(※3)を残すための「脱酸性化処置」があります。pH値は、その化学的損傷度合いと、脱酸性化処置が問題なく、また、万遍なく行われたかを見るための指標として計測されます。pH値と、中和後のアルカリ・バッファー量とは全く別のものではあるものの、劣化度合いを測るためのいくつかある指標の中で、紙の保存性と密接につながっているといえます。

 

pHは、元々液体の水や水溶性の液体の酸性やアルカリ性を示す指標ですが、固体である紙にはそのままでは適用できません。厳密に紙のpHを測るときは、細かくカットした紙片を水の中に入れて、しばらく置いてから電極式のpH計測器で測定(JIS P 8133 1)しますが、この方法はいわゆる破壊的なサンプリング・テストになるので、修理の工程で行われることはほぼありません。代わりに使用されるのが「pHストリップ」です。これは、指示薬が塗布されている面をわずかな水分で濡らし、紙の表面と接触させ、その変色具合でpHを測定するという方法で、弊社ではメルク社のpHストリップを使用しています。

 

この方法で計測するのは紙の表面pHなので、厚みがあるものや、水の浸透性がよくない紙の内部のpHを測ることはできません。ただし、裏まで水が抜けるような紙質であればかなり正確に測定できます。

 

pHストリップの指示薬は水に濡れても色移りすることはありませんが、あまり水分が多いと、計測する紙の方がヨレたり、輪染みといわれる円形のシミを作ってしまうことがあります。pH測定もスポット・テスト同様、接触させる面をなるべく最小限に留めるために、例えば指示薬部分を半分に切って使用したり、計測後はすぐにろ紙を当ててしっかりと水分を取り除いたり、もちろん、水に滲むようなインクや色材の箇所では行わないなど、事前の準備を整えて行います。

 

[測り方]
①pHストリップを縦半分に切り、指示薬の部分も半分くらいにカットする。ポリエステルフィルムなどの小片を、計測する紙の下に敷く。
②蒸留水(脱イオン水であること)で、pHストリップの指示薬のついた面を湿らせる。浸したり、スポイトなどで滴下する。余分な水分はろ紙に吸い取らせる。
③指示薬の面を紙表面にあてて、上からもう一枚のフィルムで挟みマリネする。指で軽く押さえたり、ごく軽い重しを載せる。
④1分ほど経ったらストリップを外して、変色具合をカラーチャートと比較しpH値を確認する。

 

 

※1 pH:「水素イオン濃度指数」のこと。0~14までの数値によって水溶液の酸性またはアルカリ性の程度を表す。水溶液中のイオン化した水素イオン(H+)と、対極する水酸化物イオン(OH-)が同量存在するときが中性(pH7)、水素イオン濃度が上回ると酸性、逆に水酸化物イオンが多いとアルカリ性を示す。pはポテンシャル(potential)、Hは水素(Hydrogen)。

 

※2 酸性紙問題:紙の製造過程において、サイズ剤(にじみ止め)である「ロジン(松ヤニ)」の定着剤として、「硫酸アルミニウム(硫酸バンド)」が、19世紀後半から1980年代にかけて生産された紙に用いられた。硫酸アルミニウムと紙中の水分が反応することで強い硫酸が生成され、これが触媒となって紙のセルロースを加水分解し破断させる。さらに、硫酸の脱水作用により、潤滑油のような役割を担っている紙中の水分が奪われ、繊維の角質化が起こり紙が脆くなる。製造から50年足らずで紙力が極端に落ちてしまう資料が図書館やアーカイブズに大量に所蔵されていることが世界的な問題となり、これを契機に、中性紙の国際規格制定へとつながった。

 

※3 アルカリ・バッファー:紙中や大気中の酸性物質による劣化を予防するために紙に保持させるアルカリ残留物。ISO9706:1994 Paper for documents Requirements for permanence(永く残る紙)で定めている長期保存用紙の場合、「乾燥重量比で2%の炭酸カルシウム相当量を含んでいること」とされるが、文書や書籍の紙として長期に置かれ、かつ、すでに酸性化した紙に対して行う中和後のバッファー付与で、これだけの量を残留させることは難しい。

2019年2月20日(水)修理前に行うスポット・ テストとサンプリング・ テストとは?

修理にとりかかる前に行う作業として、カルテの作成、状態撮影、さらにスポットテストとpH測定があります。このうちスポット・テストは大別すると2種類に分けられ、目的がそれぞれ異なります。

 

まず一つは、資料の基材となる紙やイメージ材料に対して、スポット(点)状に試薬を接触させて行うテストです。このテストでは、処置に使用する水溶液や溶剤に対し、修理対象となる紙やインクがどのような反応を示すかを見ています。例えば水に「滲むか滲まないか」だけでなく、その程度や感度、脆弱性をみることで、想定する処置をより具体的にシミュレーションすることが可能となり、場合によってはこの段階で処置方法を再考し、より効果的な手法に転換できることもあります。簡便さ、速さが利点ではありますが、試薬を接触させることで見た目を変えることがないよう、テスト範囲は最小限に留める必要があります。一紙面の中でもどの箇所で行うべきかは慎重に判断しなければなりません。

 

もう一つは、本紙から落ちた微細な破片や、資料を構成する付属材料(粘・接着剤など)に対して試薬を用いて行うサンプリング・ テストです。反応をみるためのスポット・テストとは異なり、本紙や付属材料に含まれる物質を識別するために行います。精密な検査を求める場合はより専門的な分析機器が必要になりますが、修理の方向性を見定めたい時には短時間かつ目視で分かりやすく判別することが可能です。例えば試薬の一つにデンプンを検出する「よう素よう化カリウム溶液」があります。これは、過去の補修時にデンプン糊が使用されたことが分かれば、その補修紙を除去する際、デンプン糊の接着力を緩ませるために水を用いた水性処置は効果的で安全性が高いという判断ができます。

2019年1月16日(水)厚い台紙の写真アルバムを修理する。

厚い本文台紙の端を接着剤で貼り合わせて冊子状にした写真アルバム。貼り付ける写真の紙の厚み分を、台紙の端をL字に折って作り、折ったところを隣りの台紙の端に貼り合わせている。

 

表紙が外れ、台紙の切れや剥がれが起きている。剥がれた台紙を貼り合わせたのち、背ごしらえして表紙と再接合する処置を行う。一般的な書籍の場合は見開いた際に背を支えるよう、和紙をしっかりと貼り重ねて背ごしらえを行うが、この形態の資料は台紙が厚く柔軟性がないため、厚い背ごしらえを行うと見開けなくなってしまう。そのため、和紙の他に薄くとも強度がある寒冷紗を背ごしらえに使い、柔軟な動きに対応できる背を作った。

2018年12月19日(水)国立女性教育会館での保存修復研修の満足度は100%との評価を頂きました。

11月20日(火)~22日(木)に国立女性教育会館女性アーカイブセンターが主催する平成30年アーカイブ保存修復研修が開催され、21日(水)と22日(木)の実技コースとオプション(弊社工房見学)を昨年度に続き弊社スタッフが担当しました。

 

今回は「本の綴じ形態を知り、コンサベーション・バインディングを試作する」というテーマで講義と実習を行いました。

 

講義では、1966年のフィレンツェでの大洪水で被害を受けた膨大な数の書籍の救出作業をきっかけに生まれたコンサベーション・バインディングという技術と考え方をもとに、現在図書館や史料館、文書館等で保存されている様々な製本構造(綴じ方や接合方法)の資料と比較し、資料の特徴や損傷傾向をサンプル本を見ていただきながら、解説しました。

 

実習では、コンサベーション・バインディングの代表的な方法の一つであるリンプ・バインディングを試作し、本への負荷が極めて少なく、可逆性のある構造とはどういうものかを体験していただきました。

 

4年連続となる実技コースの研修の中で、折り丁(括)を綴じあげていくという本格的な作業を盛り込んだのは今回が初めてでしたが、参加者の方々は皆さん時間内に綴じ上げて、完成まで至ることができました。

 

また、オプションの工房見学では、保存・保管のための包材の選び方、弊社で製作している保存容器の設計から組立までの一連の流れをご見学いただき、実際に使用している道具なども手に触れて体験していただきました。修理部門では、研修での内容に触れながら、実際の作業現場の様子、日頃目にすることのない資料の修理過程の様子をご覧いただきました。

 

セミナー後に実施されたアンケートの集計結果では、研修の満足度について、参加者24名すべての方が「非常に満足した」「概ね満足した」と回答して下さいました。

 

その他の設問に対しては、以下のような回答をいただきました(抜粋して掲載)。アンケート結果は今後の参考にしてまいります。

 

「研修の内容はいかがでしたか。」
▶︎ヘラを使って紙を折る技術、のりを使用しない製本技術、資料に関する深い知識を教えて下さったこと。今後の仕事にもつながります。

▶︎基本の構造がわかったので、次は他の修理の方法も知りたいです。御社のホームページで図書修理マニュアルを公開しているとのお話もあり、試してみようと思います。

▶︎1工程ずつていねいに教えていただきとてもよくわかりました。他タイプの冊子や資料の補修についても実技コースがあれば受けたいです。

▶︎作業説明が一段階ごとになされ、作業の時間も十分にとられていたので、分かりやすく作業しやすかった。

▶︎丁寧に実演してくださったので、作業がやりやすかった。一口に本と言っても、綴じ方や使われている素材が様々で、それらに合わせた修復方法があるということを知れた。接着剤を使わない修復方法があることに驚いた。これから資料を見る目が変わる、貴重な体験ができた。

▶︎ストレスのない製本のしかたを学びました。逆に言えば破損される資料にはどこかストレスがかかっているということがわかりました。和書がストレスのかかっていないという話をきいたことがあるが同様なのかなと思いました。へらの使い方を学びました。

 

「実技コースの満足度はいかがでしたか。」
▶︎様々な生きた技術、知識を教えていただいてとても勉強になりました。

▶︎本の構造が様々あること、それによって劣化の状態が変わってくることを知り、とても勉強になりました。

▶︎のりをつかわずに丈夫で自由に開く本ができて感動しました。歴史的な背景がきけてとても理解できました。本がこわれる要素もわかり、修理時に注意する点がわかりました。

 

「今後、同様の研修が実施される場合、どんな内容のものに参加したいと思われますか。」
▶︎対象物にあう箱のつくり方。

▶︎小冊子のなおし方があればまた参加したいです。

▶︎修理、修復についてさらに別メニューのもの、ステップアップできる研修をひき続きお願いしたい。修理の手順、事例を座学として時間をとってきいてみたいです。

▶︎日本の古文書の修復(紙の修復、和装本の修復)。

2018年10月3日(水) 傷みやすい資料は、保存箱に収納する前に”包む”ことで、より安全に保存し、取り扱うことができます。

弊社では、様々な資料を保存箱に収納することをお勧めしていますが、脆弱でデリケートな資料は、箱に収納する前に資料を適切な素材で”包む”ことで、より安全に保存し、取り扱うことができます。

 

▶︎物理的に守る
ガラス乾板やレコードなど、表面がデリケートな資料は、中性紙のフォルダーに包んで箱に収納することで、箱内での接触や、塵や埃などによる物理的な損傷を防ぎます。痛みが激しく繊細な資料は、両面がなめらかな新薄葉紙くるみん™️を1枚のせたり、巻くことで、表面を保護できます。

 

▶︎汚染ガスを除去する
資料にダメージを与える、空気中の有害ガスを除去するには、GasQ ®シートで包みます。折りたたむことでクッション性が出るので緩衝材にもなります。

 

▶︎資料をより扱いやすく
背を解体してバラバラになった本や、簿冊や新聞などの重くて持ちにくい資料、また、紙力が低下してもろくなった資料も、包んだりはさんだりすることで、しっかりと資料を持つことができ、まとめて箱から取り出せるので資料の出し入れがしやすくなります。

 

資料の状態によって様々な方法をご提案できますので、ぜひご相談ください。

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