今日の工房 2020年

週替わりの工房風景をご覧ください。毎日こんな仕事をしています。

2020年6月18日(木)大判の絵図を収納するマップケース型の専用保存箱

幅1メートル程の大判絵図を平置きで収納するための引き出し付き保存箱を製作した。箱の設計段階では、スチール製マップケースなどを参考にしながら、構造的に丈夫で長持ちし、長期の使用に耐え得る形状の検討を進めた。

 

一般に、図面、絵図、古地図などの平版で大型の紙資料は、資料の大きさに応じたマップケースや木製箪笥に収納されることが多い。これらの収納器具は、長期間の使用に伴い、レール部品の摩耗や引き出しのたわみ等の経年劣化で、開け閉めや資料の出し入れの際に支障がでたり、適正な環境のもと保管されていても、資料の折れ・破れなど管理面から発生するトラブルを招く場合がある。

 

こうした点を考慮して、保存箱の内装には引き出しのたわみを防止するための棚板を設置した。この棚板にアルミ製の角パイプを「梁」のように組み込み、直接荷重を受ける構造部の頑丈な骨組みとした。耐荷重を検証した結果、40kgの荷重に対しても反りやたわみなどの変形は起こらなかった。5段積層した棚板は箱本体の外装パーツに固定されており、保存箱全体の強度を上げる役目も担っている。

 

安心の強度で大判絵図を収納した引き出しを面で支え、フラットな状態で長期保管できる専用保存箱が完成した。

 

【関連商品】

トレイ付棚はめ込み箱

 

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・『今日の工房』2011年4月7日

2020年6月10日(水)手繕いによる虫損の修補

虫損のある文書や和装本の修理の際、虫穴の小さいものや、全体のうち数丁・数か所だけに虫損が見られるといった軽度の損傷の場合は、「手繕い」という方法で修補を行います。手繕いとは、本紙の裏側から虫損の穴の周りにデンプン糊を塗り、喰い裂きにした和紙を欠損箇所に貼って一つ一つ埋めていく作業です。

 

手繕いに用いる和紙は生成りのまま使用することもあれば、本紙の色に合わせて染色和紙を使用することもあります。和装本の場合、何丁も続けて同じような箇所の虫穴を埋めるため、部分的に厚くなりすぎないように和紙の厚みを選び、また、丁が重なった際に和紙の色が濃くなりすぎないよう、本紙よりもワントーン落とした色合いのものを選択するなど、仕上がりをイメージしながら調整します。

 

手繕いの際は、和紙を喰い裂きにすることで本紙との馴染みが良くなり、本紙と重なり合う部分の段差も目立ちにくくなります。虫損が大きかったり広範囲に及ぶ場合は、和紙を虫損に被せた状態で虫穴より数ミリ大きく水筆でなぞり、ちぎって喰い裂きにした補修紙を使用します。修補後は不織布を被せてろ紙に挟み、シワや引きつれが起こらないよう重石を置いてしっかりと乾燥させます。実際の修理では、虫損以外に破れや老け(水損やカビが原因による紙の繊維化)といった損傷が一冊の中で複合的に起きていることもあるため、資料の状態を見て、繕い以外の方法も含めた適切な処置を選択します。

 

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2020年5月20日(水)「綴じ」を「抜かし」綴じ上げる

かがり綴じのなかには抜き綴じという技法があります。 通常かがり綴じは、一括ずつ綴じ穴すべてに糸を通し綴じていきますが、抜き綴じはその名の通り、1回の運針で2括ないし3括を交互に「抜き」綴じます。現在の修理製本では主に本文紙が薄い資料や括数が多い場合に、綴じ糸により背幅が膨らみすぎるのを防ぐために用いられていますが、この技法が多用された17世紀、18世紀ごろは、綴じる時間の短縮を目的に用いられることが多かったようです。

 

今回は文庫本ほどの小型で厚みが6㎝ある資料に、抜き綴じを採用しました。一般的にかがり綴じよりも抜き綴じは強度が落ちると言われていますが、支持体を3本用いて、綴じ穴の数を増やすことで、安定した綴じ上がりとなり、厚みも綴じる前とほぼ変わらない仕上がりとなりました(図②を参考)。

 

【関連情報】

・『今日の工房』2008年12月12日 洋装本の括(signature)の綴じ方のあれこれ

・ The Art of Bookbinding/Chapter 5 by Joseph William Zaehnsdorf

2020年5月15日(金) 収蔵庫の限りあるスペースを効率的に使うには?〜実例からみる収納アイデア~

保存箱は資料の寸法に合わせて作成するのが基本ですが、収納棚に大小様々な保存箱を並べると、余分な空間ができてしまうことがあります。

 

収蔵棚やキャビネットのスペースを無駄なく使うために大切なことは、3つあります。ひとつは、棚の奥行きや幅に合うように箱の「外寸を揃える」こと。箱の外寸を揃えると、安定して積み重ねることができ、上下に空いた空間を有効活用できます。箱を並べたときの統一感を作るポイントでもあります。

 

次は、資料を整理・分類し、サイズ違いのものをまとめて収納する「しまい方」を工夫すること。箱の中を仕切りやスペーサーで区切ることで、取り出しやすく一目でわかる収納ができます。

 

最後に、資料を計測して寸法と数量を確認する。同時に、収納用品を置きたいスペースの広さも測る。もの、場所、大きさを意識し、全体のバランスを考えながら整理・収納することで、収蔵庫の限りあるスペースを効率的に使うことができます。

 

弊社では、お客様のところに伺い資料を採寸するサービスを行っていますが、資料に合った保存箱を作成するだけでなく、収納スペースや利用頻度などをお伺いし、お客様それぞれの状況に合った保存箱のご提案を心がけています。

 

【関連記事】
・2019年2月27日(水)今日の工房『資料の同じシリーズや付属品を一つの箱に収納する場合、立体パズルのように設計していきます

・2015年06月17日(水) 今日の工房『歴代延岡藩主の印章を保管するー多様な素材と形にシンク式容器とGasQ®で対応』

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2020年4月9日(木)定番・規格製品の専用梱包箱について

製品の梱包方法について過去に何度か紹介してきましたが、弊社の定番・規格製品には、使用、保管するときの利便性を考えた専用の梱包箱をご用意しております。
実際にどんな種類の梱包箱があるのか、その一部を紹介します。

 

Moldenybe®モルデナイベのガスバリア袋(写真1、写真2)や、Qlumin™くるみんGasQ®ガスキュウのロール品(写真3)など、通常時は梱包箱に入れておくことで保管や移動を安全に行えるようになります。

 

保管性だけでなく、製品の利便性を高める梱包箱もあります。Qlumin™くるみんの断裁品の梱包箱はその一つです。箱のフタを中央の位置で折ることができ、手間なく必要な枚数だけを取り出すことができます。(写真4)

 

またドライクリーニング・ボックスの梱包箱は空気清浄機とドライクリーニング・ボックス本体をまとめて保管しておけるだけでなく、側面に取っ手穴を付けることで持ち運びやすさを高めています。この取っ手穴は展示会でお伺いしたお客様のご要望をもとにしたものです。(写真5、写真6)

 

このような定番・規格製品以外についても、弊社では小さなものから大型のものまで、形状も多種多様な製品を提供しています。それらを安全に輸送するためには、既存の梱包材を使用するだけでなく、梱包箱を一から設計することが必要になるケースもあります。
製品の形状・性質に応じて、形態、方法、緩衝材の材質などを選択し、輸送時に発生する衝撃、振動などのあらゆるリスクから荷物を保護するため、一つひとつに適した梱包箱をカスタマイズしています。

 

 

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・2012年06月07日(木)今日の工房『段ボール加工のためのアイデア治具』

・2013年02月07日(木)今日の工房『大型保存箱を遠方に送る際の梱包』

・2015年05月13日(水)今日の工房『様々な梱包用粘着テープを使い分ける』

2020年3月27日(金)虫損が著しい文書修理の第一歩は「剥がす」

折状などの古文書や、糸綴じされている和装本のように、主に和紙を基材とした資料に多く見られる損傷が虫損です。紙の表面を舐めるように虫に喰われていたり、紙束の上から下を貫通するように穴が開いていることもあります。その穴の周りに虫糞を残しながら侵食していくのですが、虫糞が固まって隣の丁の虫穴と固着、さらに隣の丁と固着してしまうため、そこだけ紙が貼りついている様に見えます。虫穴が一箇所、あるいは数カ所だけであれば、ゆっくりめくることで虫糞が落ちて固着を外すことはできます。しかし虫損が全面に生じると、紙束は板のように固まってしまい剥がすことは非常に困難です。

 

こうした資料の修理をお客様からご相談いただく際、「剥がすために何か機械を使うのですか?」「コツはありますか?」など話題になりますが、何より人手と根気が必要な作業といえます。文字情報を損ねることなく安全な状態で次の処置へ移るために、時間をかけて丁寧に行なっています。

 

 

【関連情報】
今日の工房2016年8月24日(水) 虫損がひどい資料へのリーフキャスティング(漉き填め)による修理

今日の工房2017年3月15日(水)和装本(四つ目)を仕立て直す

スタッフのチカラ2017年6月7日学習院大学図書館様所蔵「華族会館寄贈図書」漢籍・和装本の保存修復処置事例

2020年3月19日(木)【文献紹介】『Preventive Conservation: Collection Storage』が上梓

『Preventive Conservation: Collection Storage』 
編者= Lisa Elkin and Christopher A. Norris
協力連携=SPNHC(The Society for the Preservation of Natural History Collections; 自然史コレクションの保全に関する国際学会、通称スピナッチ)、 AIC(American Institute for Conservation of Historic & Artistic Works; アメリカ文化財保存修復学会)、Smithsonian Institution(スミソニアン協会)、George Washington University Museum Studies Program(ジョージ・ワシントン大学博物館研究)

 

文化財全般の維持管理に関連する幅広い課題と保存対策について、世界の専門家を結集し実証的な観点から論じた『Preventive Conservation: Collection Storage』が昨年9月に刊行された。編者はアメリカ自然史博物館のLisa Elkin(Chief Registrar and Director of Conservation)とイェール・ピーボディ自然史博物館のChristopher A. Norris(Senior Collection Manager)。本書は、予防保存の基本的な概念や保存計画の立て方・考え方に始まり、保存アセスメント、保管施設の計画と構築、環境管理、防災・救助計画、コレクションの移動、セキュリティ、保管施設の運営方法、保管状況における安全と健康の問題、害虫管理、多様な文化財の種類と特徴、包材のマテリアルテスト、デジタル記録の保存、環境モニタリング、保存資材と材料、保管ガイドラインとリスク管理—と、デジタルコレクションを含むあらゆるタイプの所蔵品を対象とした、現時点でのコレクションの維持管理に関する総合的なハンドブックになっている。

 

▼下記サイトに目次と各章の詳細が掲載されている。

 

SPNHC wiki : Collection Storage

 

https://spnhc.biowikifarm.net/wiki/Collection_Storage

 

 

2020年3月11日(水)寒川文書館での資料保存ワークショップに出講しました

2月1日(土)、神奈川県寒川町の公文書館、寒川文書館にて開催された資料保存ワークショップ「錆びや傷みから記録を守る」で弊社スタッフが講師を担当しました。

 

寒川文書館は公文書館法に基づき寒川総合図書館の4階に設置されている公文書館であり、行政資料や古文書、郷土資料等を収集、整理、保存する施設です。今回のワークショップは、文書館利用者やボランティアの方などの町民や地域の一般の方々、寒川文書館館長ならびに職員の皆さまを対象として開催されました。

 

本や小冊子などへの簡易的な手当てについて、下記のプログラムで資料保存実習を行いました。

 

* 傷んだ冊子の劣化、損傷の原因、本体の構造、綴じ方について
* 修理に使う道具の説明
* 金属除去、修補、綴じ直し

 

傷んだ冊子を解体し、普段あまり見ることのない本の内側を観察することで、劣化や損傷が起きた要因を確認しました。

 

資料の修理には特殊な道具を使用することも多いのですが、今回のワークショップでは修理道具の中でも割とポピュラーなマイクロニッパー、綴じ糸、綴じ針、筆、糊、ろ紙、不織布などの道具を使用し、これらの使い方や注意点についてご紹介しました。

 

破れてしまったページの修理には水で薄めたでんぷん糊を使います。でんぷん糊は中性であること、水溶性なので後で剥がせることから、資料保存の観点で非常に優れた接着剤ですが「水分量」の調整が肝になり、刷毛や筆への糊の含み具合や塗布後の処理などに気を遣います。とくに劣化資料への修補では、糊が薄すぎると和紙が剥がれたり輪染みになったり、濃すぎると紙がこわばる原因にもなるので、こうした点に気をつけながら実践していただきました。

 

質疑応答では、資料保存に関する実践的な質問が多く寄せられ、基本技術の習得のみならず、資料の取り扱いを注意することで予防できる損傷も多いことを弊社の事例を紹介しながら解説しました。

 

ご参加いただいた皆さまに心より御礼申し上げます。

 

◇具体的な資料の修理手順はこちらで紹介しています。また、弊社で行った資料保存ワークショップはHPで掲載しておりますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。

 

《関連情報》
独立行政法人国立女性教育会館主催『アーカイブ保存修復研修』
私立大学図書館協会和漢古典籍研究分科会主催『古典籍資料の補修実演講座』
NPO文化財保存支援機構主催『平成30年度文化財保存修復を目指す人のための実践コース』

 

2020年3月4日(水)3月に入り工房は繁忙期の佳境に入りました

今年も3月に入り、弊社では修理部門、保存容器製作部門ともに繁忙期も追い込みの段階となりました。毎日フル回転で修理作業や商品の製作を行い、仕上がったものから順次お客様のもとへお届けしています。保存容器部門では大型箱の受注が多く、なかでも一番大きなものは全長4メートルに及び、工房の窓から7人がかりでの搬出となりました。チャータートラックで送り出した後はまた次の大型箱にとりかかります。
ご注文頂いているお客様にはお待たせしてしまい大変申し訳ございませんが、一日も早くご納品できるようスタッフ一同努めてまいります。

2020年2月26日(水)壊れてしまった無線綴じの写真集へ、どのような手当てが行えるか。

無線綴じとは、糸や金属等を使用せず、本紙の背を断裁して接着剤で綴じただけの製本方法をいいます。これら無線綴じに用いる接着剤は紙を断面で接着する強度と見開きに沿う柔軟性が求められます。近年はより耐久性や柔軟性に優れた接着剤に移行しつつありますが、従来より無線綴じに使用されてきたEVA系ホットメルト(エチレン酢酸ビニール樹脂を主体とする接着剤。60℃以上の熱で溶解し、常温で硬化する)は、製本後、経年や温度変化により再溶解が始まったり、印刷インクの影響を受けて劣化するとされています。特に写真集のように紙が厚く重い資料には、接着剤の劣化に伴い本紙がバラバラに外れてきてしまっているものが見受けられます。
可逆性のある材料として修理に用いるでんぷん糊等の接着剤は、無線綴じ製本を行う用途には適していないため、構造的な修理を行う際は糸綴じする方法を基本としています。

 

①綴じ穴をあけて糸で平綴じする処置の場合は、ノド元の余白は十分にあるか、製本後の見開き具合は適切か、糸の強度は十分か等を検討します。

 

②より見開きの良い方法として、断裁された本紙の背を和紙でつないで折丁に仕立て、糸でかがり直す処置があります。大きく構造を作り替えても元の表紙・背表紙に収まるか、ノド元まで印刷されているページは和紙を貼ることで視認性に影響しないか等を検討します。

 

③印刷されている画像を重視する場合など、資料の性質によってはあえて構造的な修理は行わず現状を維持するための保存容器への収納のみをお勧めすることもあります。バラバラになった本紙が散逸しないよう、中性紙のフォルダに包み保存容器に収納します。

 

【関連情報】
『今日の工房』2017年10月18日(水)接着剤で無線綴じされた図録を折丁仕立てに作り直し、きれいに見開くように再製本する。

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