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2021年4月16日(金)棚板に高強度な樹脂製パネルを用いた、引き出し付き保存箱

過去のブログ記事で紹介した『今日の工房 2020年6月18日(木)大判の絵図を収納するマップケース型の専用保存箱』引き出し付きの保存箱に、棚板の強度を高める改良を加えました。

 

以前製作した引き出し付き保存箱は、棚板内にアルミ製の角パイプを組み込み、これをアーカイバルボードで覆うような構造でした。そのため一棚ごとの貼り合わせ工程が多く、箱の骨組みになる大事な箇所になるのですが、1箱を完成させるまでに大変時間がかかりました。今回製作した改良版は、箱の構造材と棚板に厚み約8㎜のポリプロピレン樹脂製パネルを使用し、内壁のパネルにアルミパイプを梁のように取り付け棚板を下から支える構造にしました。高強度化の要になるこの連結方法で耐荷重性能が格段に上がり加工時間も短縮され、強度面で金属製の棚にも引けを取らない頑丈さを持たせる事ができました。(画像では、撮影のためパネルとアルミパイプをテープで仮止めしています)。組み上げた棚板ユニットをアーカイバルボードで作成した保存箱の外装パーツに貼り合わせて仕上げます。この樹脂製パネルは中芯がハニカム構造で、高強度・超軽量、曲げ剛性もあり変形しにくいという特徴があります。一般用途では電気自動車の内装材や家具にも採用されています。

 

保存箱は移動式書架のスチール棚にぴったり収まるサイズで設計されています。また、書架のどちら側からも資料の取り出しができるように保存箱の両面に扉が付いています。3段の引き出しトレイ付きで収納効率もよく資料へのアクセスもし易くなりました。

 

 

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・『今日の工房』2011年4月7日 

2021年3月26日(金)予防のための「フィルム・エンキャプシュレーション」 ー 紙をくしゃくしゃに潰す実験

フィルム・エンキャプシュレーションは、剥き出しのまま取り扱うことが難しいほど酸性紙化した資料や、古い新聞、地図、図面、ポスターなどサイズの大きな資料を、傷めることなく、扱い易くするために用いられる保存方法です。この方法がいかに物理的な損傷からの予防に効果があるか、視覚的に確認するための簡単な実験があります。

 

酸性劣化した紙を用意し、ひとつは剥き出しのまま、もう一方はポリエステルフィルム(70μ)に挟んで、四辺を超音波溶断機で封印します。そして、手でくしゃくしゃに潰します。画像の通り、剥き出しの本紙は完全に破断しますが、エンキャプシュレーションした方は、フィルムの中でバラバラになることはありません。封を開けてみると、シワや破れはありますが元に近い状態の本紙を取り出すことができました。

 

これは極端な比較実験ですが、エンキャプシュレーションした本紙が、高い保護力によって守られているということを分かりやすく実感することができます。フィルム・エンキャプシュレーションの技術は、二辺が開口しているアーカイバル・クリアホルダーや、巻いて保管するためのロール・エンキャプシュレーションなど、資料の形態や利用用途に合わせて応用されています。

 

 

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2021年1月22日(金)定型サイズの保存容器のご紹介

弊社のフルオーダー以外の保存容器には規格サイズの資料に適したものが多くあります。写真、フィルム系資料、レコードなどに代表される、ISOやJISの統一規格に基づいた資料は素材や形状が標準化されています。そのため、これらの資料にはサイズ、形状、保存に適した保存容器を定型品としてご用意しています。

 

下記の表は、資料の種類とそれに対応する定型サイズの保存容器の一覧です。比較的低価格でシンプルなデザインの保存容器が多いのですが、フルオーダーの保存容器と同様に、取り扱いの利便性、運搬時の安全性、効率的な収納を念頭に置いて設計されています。こうした定型の保存容器は、お見積り前に形状と価格が分かりますので、ご使用・ご予算のイメージがつきやすいというメリットもあります。

 

 

     対象資料           保存容器
紙焼き写真、写真フィルム アーカイバルバインダー+写真資料用リフィル
紙焼き写真
ガラス乾板
映像フィルム
レコード グラモボックス+中性紙レコードスリーブ
1枚もの(地図、ポスターなど)
封筒、文書ファイル

 

 

資料のサイズごとのおおよその比率を把握しており、厚さ重さも含めて定型サイズに収まる場合は、ぜひご利用ください。

 

なお収納したい資料の特徴に合わせて上記保存容器の寸法を変更することや、上記にない保存容器を設計してお作りすることも可能です。保存容器への収納を検討しているが、どの保存容器にすれば良いのかお困りのときはお気軽にご相談ください。

 

「今日の工房」 これまでの保存容器への収納事例はこちら

2020年12月10日(木)釘で製本されている資料の解体

書物を綴じ表紙を付けて製本すること、その製本工程や意匠をデザインすることを「装丁」といい、他に「装幀」「装訂」「装釘」の字を使うことがあります。字の通り、資料の中には「釘」を使って綴じられているものがあります。多数の図面等を合冊製本したものや、アルバムに多く見られる方法で、順番に重ねた本紙を表・裏の両面から釘を打ち込んで綴じ、製本しています。
電子化のために本紙一枚ずつの状態に解体する必要がある場合には、この釘を取り外す処置が必要になります。

 

木材に打ち込んだ釘と同様に、紙の繊維を押し広げて入った釘と元に戻ろうとする紙繊維の間に摩擦力が働き、釘はしっかりと固定され容易には抜けません。釘が錆び、穴周辺の紙と固着している場合もあります。
細い針金とは異なりニッパーで切断することが困難なため、本紙を傷つけないよう力加減しながら、あて紙をしてテコの原理で少しずつ引き出したり、ゆっくり回して固着を緩めながら垂直に引き抜きます。抜けない場合は釘の頭部分を切り落とし、本紙を一枚ずつ取り外すようにして解体します。
解体後に綴じ直しをする際には釘は使用せず、麻糸などを使用して十分な強度を得られるよう工夫して綴じ直します。

 

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『今日の工房』2020年11月27日(金)マイクロ化のための合冊製本された新聞資料の解体

『今日の工房』2016年4月13日(水) ステープルやクリップなどの鉄製の留め具を安全に外すには

2020年10月15日(木)公的機関や企業のお客様だけでなく、個人のお客様からのご依頼もお引き受けしております。

弊社では個人のお客様からの資料保存に関するご相談、修理や保存容器のご依頼も承っております。ご自宅にある古い書籍や思い出の写真アルバム、地区やお寺・神社に伝わる文書、大切にしている日記、賞状、手紙等々–過去にご依頼いただいた実績の中から、長年愛用されてきた革装の辞書と、代々伝わる地図の修理事例を紹介いたします。

 

革装の辞書は、表装革のレッドロット化(革が長期間にわたり空気中の汚染物質に曝されることで赤茶けた粉状に劣化する現象)が進行し、触れると革が剥がれる箇所もありました。背表紙は色あせ、表紙周辺にひび割れや欠損、ヒンジ箇所(表紙と本体の結合部)に裂けが見られました。本紙や本体に傷みは無く、もとの雰囲気を保ちつつ本を開くことができるようにという、ご依頼でしたので、処置としては、表装革に生じたレッドロットに対する手当てを行い、背表紙を本体から一旦外し、背をこしらえ、新たに和紙でヒンジを設け、本体と背表紙を再接合しました。表装革の欠損箇所は革の色に合わせて染色した和紙で補填しました。

 

地図資料は、A1サイズ程の薄い和紙に墨で描かれた手書彩色図。数枚の和紙を継ぎ足して一枚に描き、渋引きされた和紙で裏打ちされていました。この地図は頻繁に使われたのか、周辺に破れや摩擦による穴が見られ、また、折り畳んだ状態で保管されていたため折れ皺や折りクセが強く残っていました。お客様のご希望は、地図を電子化し、資料の利用はデジタルデータで、現資料は今以上に傷まないように保管したいということでしたので、処置としては、フラットニングし、破損箇所を和紙とでんぷん糊で修補したのち、デジタル撮影をしました。その後、ロール・エンキャプシュレーションを行い、複数本まとめて保存箱に収納しました。

 

ご相談はお気軽にお寄せください。

 

 

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2020年8月6日(木)超音波ミストを作る -修理に用いる手道具

修理に用いる道具や機械は様々ありますが、専門の道具(リーフキャスターや刷毛など)を使用する場合もあれば、ほかの分野の用途、例えばキッチンツールや医療用器具、ホビーグッズなどの中にも応用できる道具があります。私たちが普段使っている手道具もそうした工夫から見つけることが多く、「ポータブル超音波ミストスプレー」もその一つです。装置の中に水を入れてスイッチをつけると、超音波振動により微細なミストが発生する仕組みで、本来、喉や肌が乾燥した際にミストを顔に吹きかけたり口から吸引するための機器です。

 

このスプレーは、狙った範囲に部分的にミストを当てることができるので、書写材料や本の構造に負担をかけずに紙を伸ばしたい時や、破れの修補を行う際、あらかじめシワや折れを伸展しておきたい時などに使用しています。

 

また、超音波振動により発生するミストは、紙に対しゆっくり穏やかに水分を与えることができ、紙資料の修理分野ではトレーシングペーパーなど水分に敏感な素材のフラットニング処置にも用いられています。「少しの水分で十分」という場面ですぐ手に取れる小回りの良さと、瞬時に均一な加湿が行える点で重宝しています。

 

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2020年6月18日(木)大判の絵図を収納するマップケース型の専用保存箱

幅1メートル程の大判絵図を平置きで収納するための引き出し付き保存箱を製作した。箱の設計段階では、スチール製マップケースなどを参考にしながら、構造的に丈夫で長持ちし、長期の使用に耐え得る形状の検討を進めた。

 

一般に、図面、絵図、古地図などの平版で大型の紙資料は、資料の大きさに応じたマップケースや木製箪笥に収納されることが多い。これらの収納器具は、長期間の使用に伴い、レール部品の摩耗や引き出しのたわみ等の経年劣化で、開け閉めや資料の出し入れの際に支障がでたり、適正な環境のもと保管されていても、資料の折れ・破れなど管理面から発生するトラブルを招く場合がある。

 

こうした点を考慮して、保存箱の内装には引き出しのたわみを防止するための棚板を設置した。この棚板にアルミ製の角パイプを「梁」のように組み込み、直接荷重を受ける構造部の頑丈な骨組みとした。耐荷重を検証した結果、40kgの荷重に対しても反りやたわみなどの変形は起こらなかった。5段積層した棚板は箱本体の外装パーツに固定されており、保存箱全体の強度を上げる役目も担っている。

 

安心の強度で大判絵図を収納した引き出しを面で支え、フラットな状態で長期保管できる専用保存箱が完成した。

 

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・『今日の工房』2011年4月7日

2020年2月19日(水)資料を安全に取り扱うためのフラットニング作業

本紙の折れやシワによって文字が隠れてしまったり、巻いたり折ったりしたことによって巻き癖や折り目がついてしまった資料に対し、無理に広げたり伸ばそうとすると新たな破れやシワをつくってしまうことがあります。例えば、巻かれたポスターを広げる際に巻き戻る力によって破損箇所が拡がったり、本のページが何枚も重なって折れ曲がっていることに気づかずにめくれば、折り目に沿って破れてしまったりします。このような状態の資料に対しフラットニング処置を行うことで、資料を傷めることなく、安心して取り扱いできるようになります。

 

フラットニング処置は、資料を加湿した後濾紙に挟み、重石やプレス機などで圧力を調整しながら乾燥させ、紙表面を均一に平坦化する処置のことです。ページの角にみられる折れなどは、湿らせた濾紙を当てて部分的に加湿し、乾燥させることで十分軽減させることができますが、資料のサイズや折れ・シワの範囲が大きくなれば、全体を均一に加湿し、乾燥させることが難しくなるため、フラットニングの回数を重ねたり、こまめに確認しながら行います。特に、トレーシングペーパーのような水に敏感な素材の資料については、必要最小限の水分量をコントロールしながら処置を行う必要があります。

 

フラットニングを行うにあたっては、使用されているインクや紙に対しての十分な調査はもちろん、資料の持つ情報を把握して、それぞれの資料にあった適切な加湿方法で与える水分を調整し、折れやシワの伸展具合を確認しながら慎重に進めていくことが重要となります。

 

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『今日の工房』2019年2月20日(水)修理前に行うスポット・テストとサンプリング・テストとは?

2019年12月11日(水)ポスターや図面をのばして収納。保管や運搬にも便利な「落し蓋」つき被せ箱。

ポスターや図面などを広げて保管したい場合、簡単なやり方としては、板に挟んで紐などで固定する方法が考えられます。
ただ、この方法で縦置きするにはしっかり固定しなければならないので養生の手間もかかり、枚数が多く厚みが出る場合は固定するのも難しくなります。

 

こうした時、弊社では「落し蓋」をつけて収納する方法をお奨めしています。この落し蓋は、箱の内寸法に合わせてボードの4辺を折り曲げ立ち上がりを設けた内蓋のような形状で、箱の側面につっぱるようにはまり、収納した資料を上から固定します。このような仕掛けでは落し蓋のはまり具合が肝になりますが、アーカイバルボードは通常の段ボールより硬く成形がしっかりできるため、ぴったりと箱に沿う落し蓋を作ることができます。

 

落し蓋がしっかりとはまることにより、湿気による波状のうねりや折れ・擦れを防いだり、若干カールした資料もある程度安定させ伸ばしながら保管できます。また、縦にしても中身が動かないため、何枚ものポスターを平判のまま持ち運びたいといったお客様にもお使いいただいています。

 

2019年10月2日(水)企業史料協議会様主催 第13回資料管理研修セミナー「紙資料の保存、修理について」が弊社にて開催されました

9月20日、企業史料協議会様主催の第13回資料管理研修セミナー「紙資料の保存、修理について」が弊社にて開催されました。弊社での開催は2015年9月以来4年ぶりで、各機関よりアーカイブご担当者様など16名の方にご参加いただきました。今回は、修理(コンサベーション)、アーカイバル容器製造、営業の各部門がこれまでの経験をもとに「企業アーカイブにおいて資料に最適な保存対策を決定し、実践していく」過程において判断の一助となるようなプログラムをめざし、下記のような内容で見学会を行いました。

 

■修理(コンサベーション)部門

・近現代紙資料の劣化とその特徴
 新聞、原稿、ポスター、図面などを例に、劣化損傷の要因とその修理技術や保管方法について

 

・資料のデジタル化とそれに伴う処置
 台紙に貼られた写真、スクラップブックなどをデジタル化する過程で必要な撮影前と撮影後の処置について

 
・資料調査から処置への流れ
 保存処置方針の組み立てに必要な情報を得るため、まず資料全体を調査し、処置の方針を固めていく工程を紹介

 

■アーカイバル容器製造部門

・なぜアーカイバル容器が必要か
 長期保存のための容器に求められる品質、条件について

 

・アーカイバル容器を選ぶ際の考え方
 実際に容器を検討する際に、どういった点に配慮すべきかについて

 

■営業部門

・導入事例紹介
 企業アーカイブ様から多くご相談をいただく写真アルバムへの修理と資料整理に適した保存容器の事例
 それぞれのお客様の抱える問題やご要望に沿った過不足ない提案、導入までの経緯とその効果を紹介

 

質疑応答では多くのご質問をいただき、皆様の熱意、資料に対する真剣な思いがあふれるような会となり、私たちも大いに刺激を受けました。
また、資料保存について個々の処置にとどまらず「全体をどのようにとらえ進めていくか」という視点で見学会を行ったのは弊社にとって初の試みで、多くの学びを得ることができました。
この機会をくださいました企業史料協議会様、事例紹介をご快諾いただいた企業各位、参加者の皆様に心より御礼申し上げます。

 

2019年9月18日(水)修補の際は、色々な厚みの和紙を使い分けています。

修補の際は、本紙の厚みによって使用する和紙の厚みを調整しています。例えば、重量のある本の背ごしらえや、厚みのある表紙の欠損箇所の補填には厚手の和紙を用いたり、破れの修補を行う際には、薄手の和紙を使用することで修補箇所に厚みが出ないようにしています。

 

また、紙力が低下した資料で表面に文字が記載されている場合は、文字情報を生かしつつ、取り扱いに支障が出ないように極薄の和紙を使用して表打ちや裏打ちを行うなど、本紙の厚みだけではなく、目的によって使い分ける場合もあります。この他にも、数種の和紙を貼り合わせて必要な厚みを出したり、本紙の質感によっては、楮以外にも、雁皮や三椏を原料とした和紙を使うこともあります。

 

数ある和紙の中から、本紙の厚みや質感、損傷具合、利用用途などに応じて最適なものを選択しています。

 

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『今日の工房』2019年8月22日(木)明治大学平和教育登戸研究所史料館様が所蔵する終戦時に書かれた女学生の日誌の修理とデジタル化を行いました。

 

『今日の工房』2018年7月18日(水)紙力が著しく低下したものの薄葉紙での裏打ちは、噴霧器での糊さしと不織布の補助で。

 

『今日の工房』2017年9月20日(水)本紙の破れを修補するときの道具・材料とセッティング

2019年7月18日(木)汚れた紙資料の水性処置では、洗浄の前にまず「濡らす」ことがなぜ重要なのか?

紙資料の修理工程のひとつに、紙の汚れを除去するための洗浄処置があります。洗浄は、弱アルカリ性に調整した洗浄液に資料を浸したり、スプレーで噴霧して濡らしたりして、紙に付着している汚れや、経年により内部で生成された着色汚れ(発色団 chromophore)を除去し、可溶性の酸を洗い出すために行う処置です。見た目の仕上がりの良さだけでなく、紙の保存性を向上させる役割があることから、水性処置の第一段階として不可欠な工程を担っています。洗浄後は、やぶれの補修や、水性脱酸性化処置、抗酸化処置など、資料の劣化要因によってそれぞれの工程を選択しますが、特に酸化・酸性化が進行した紙への洗浄+水性脱酸性化処置は、紙の劣化に関する根本的な問題への対処方法です。そしてこれらの処置は、紙表面だけでなく繊維の奥深くまで水溶液が行き渡ることで、より良い効果が得られます。
 

 

紙の内部に水を行き渡らせるには、紙を均一に濡らせば良いのですが、文字情報が載っている紙資料の場合、サイズ剤(にじみ止め)が効いていて水分が浸透しにくいため水で濡らすのは意外と難しいことです。まずは、溶液が隅々まで行き渡るように「濡らし」という事前の準備を行います。
 

 

資料の基材(紙)とイメージ材料(インクなどの色材)が、水にもアルコールにも耐えられることをスポット・テストで確認したら、水とアルコール(エタノール、イソプロピルアルコールなど)の混合溶液を使って紙を濡らします。アルコールを加えて水の表面張力を下げることで、紙を素早く濡らし繊維の奥深くまで水分を運ぶことができます。紙が充分に濡れ色になったら紙を引き上げ、洗浄液に浸します。
 

 

水は表面張力が高い(※1)液体なので、時間をかけて無理に湿らせようとすると、資料に物理的な負担をかけることにもなります。水が紙に浸透するとき繊維を膨潤させる作用が働くため、繊維の構造的な変化と、紙に載っているイメージ材料の亀裂など、影響を及ぼす可能性があります。こうした変化を伴うからこそ素早く濡らすということも重要です。
 

 

※1 水の表面張力は72.75mN/m。対してエタノールは22.55mN/mで、ちなみに水銀は476.00mN/m。紙の修理に使われる溶液の中でも水の表面張力は高い方。

 

関連情報

 

参考文献
 

2019年6月12日(水)ロール・エンキャプシュレーションのサンプルを作る。

ロール・エンキャプシュレーションとは、一辺だけを溶着した2枚のポリエステルフィルムの間に、ポスターや図面などの比較的大きなサイズの紙資料を挟み、フィルムごと巻いた状態で保管する方法です。

 

資料をむき出しの状態で丸めて保管していると、周辺部に折れや破れが起こりやすくなります。ロール・エンキャプシュレーション処置により、そのような物理的な損傷からの保護に加え、A1サイズを越えるような大きな資料でも省スペースで収納することができます。

 

工房では、経年による変化、特に、長期間保管した後にロールを開いた際の巻癖の強弱を確認するために、挟み込む資料のサイズや厚み、紙質等、あらゆる場合を想定したサンプルを作成して実際の処置の参考にしています。例えば、直径の大きさの異なる筒にサンプル資料を入れ、直径の大小により、元に戻した時の巻癖の違いがどの程度、資料に影響するかなどを検証しています。

 

関連情報
『今日の工房』2018年2月21日(水)フィルム・エンキャプシュレーションの現在(1)

『今日の工房』2018年2月28日(水)フィルム・エンキャプシュレーションの現在(2)

『今日の工房』2018年3月08日(木)フィルム・エンキャプシュレーションの現在(3)

 

2019年4月24日(水)紙の酸性度を測るためのメルク社のpHストリップの使い方。

資料の修理にとりかかる前の作業として、カルテの作成、状態撮影、スポット・テストとpH測定(※1)があります。なかでも、紙の酸性度合いをみるためのpH測定は、紙媒体記録資料の修理においてかかせない工程のひとつです。

 

和紙に墨書きされた文書や版本とは異なり、種類が豊富な近現代の文書や書籍の紙は、その劣化要因も損傷状況も様々です。特に、近現代の資料は、酸性紙問題(※2)として指摘されるように、紙の内部で化学的な酸性化が進むことで、紙力低下、それに伴う破れや欠損などの重篤な物理的損傷につながる恐れがあります。

 

こうした紙に対する修理技術の一つとして、紙中の酸を中和し内部にアルカリ・バッファー(※3)を残すための「脱酸性化処置」があります。pH値は、その化学的損傷度合いと、脱酸性化処置が問題なく、また、万遍なく行われたかを見るための指標として計測されます。pH値と、中和後のアルカリ・バッファー量とは全く別のものではあるものの、劣化度合いを測るためのいくつかある指標の中で、紙の保存性と密接につながっているといえます。

 

pHは、元々液体の水や水溶性の液体の酸性やアルカリ性を示す指標ですが、固体である紙にはそのままでは適用できません。厳密に紙のpHを測るときは、細かくカットした紙片を水の中に入れて、しばらく置いてから電極式のpH計測器で測定(JIS P 8133 1)しますが、この方法はいわゆる破壊的なサンプリング・テストになるので、修理の工程で行われることはほぼありません。代わりに使用されるのが「pHストリップ」です。これは、指示薬が塗布されている面をわずかな水分で濡らし、紙の表面と接触させ、その変色具合でpHを測定するという方法で、弊社ではメルク社のpHストリップを使用しています。

 

この方法で計測するのは紙の表面pHなので、厚みがあるものや、水の浸透性がよくない紙の内部のpHを測ることはできません。ただし、裏まで水が抜けるような紙質であればかなり正確に測定できます。

 

pHストリップの指示薬は水に濡れても色移りすることはありませんが、あまり水分が多いと、計測する紙の方がヨレたり、輪染みといわれる円形のシミを作ってしまうことがあります。pH測定もスポット・テスト同様、接触させる面をなるべく最小限に留めるために、例えば指示薬部分を半分に切って使用したり、計測後はすぐにろ紙を当ててしっかりと水分を取り除いたり、もちろん、水に滲むようなインクや色材の箇所では行わないなど、事前の準備を整えて行います。

 

[測り方]
①pHストリップを縦半分に切り、指示薬の部分も半分くらいにカットする。ポリエステルフィルムなどの小片を、計測する紙の下に敷く。
②蒸留水(脱イオン水であること)で、pHストリップの指示薬のついた面を湿らせる。浸したり、スポイトなどで滴下する。余分な水分はろ紙に吸い取らせる。
③指示薬の面を紙表面にあてて、上からもう一枚のフィルムで挟みマリネする。指で軽く押さえたり、ごく軽い重しを載せる。
④1分ほど経ったらストリップを外して、変色具合をカラーチャートと比較しpH値を確認する。

 

 

※1 pH:「水素イオン濃度指数」のこと。0~14までの数値によって水溶液の酸性またはアルカリ性の程度を表す。水溶液中のイオン化した水素イオン(H+)と、対極する水酸化物イオン(OH-)が同量存在するときが中性(pH7)、水素イオン濃度が上回ると酸性、逆に水酸化物イオンが多いとアルカリ性を示す。pはポテンシャル(potential)、Hは水素(Hydrogen)。

 

※2 酸性紙問題:紙の製造過程において、サイズ剤(にじみ止め)である「ロジン(松ヤニ)」の定着剤として、「硫酸アルミニウム(硫酸バンド)」が、19世紀後半から1980年代にかけて生産された紙に用いられた。硫酸アルミニウムと紙中の水分が反応することで強い硫酸が生成され、これが触媒となって紙のセルロースを加水分解し破断させる。さらに、硫酸の脱水作用により、潤滑油のような役割を担っている紙中の水分が奪われ、繊維の角質化が起こり紙が脆くなる。製造から50年足らずで紙力が極端に落ちてしまう資料が図書館やアーカイブズに大量に所蔵されていることが世界的な問題となり、これを契機に、中性紙の国際規格制定へとつながった。

 

※3 アルカリ・バッファー:紙中や大気中の酸性物質による劣化を予防するために紙に保持させるアルカリ残留物。ISO9706:1994 Paper for documents Requirements for permanence(永く残る紙)で定めている長期保存用紙の場合、「乾燥重量比で2%の炭酸カルシウム相当量を含んでいること」とされるが、文書や書籍の紙として長期に置かれ、かつ、すでに酸性化した紙に対して行う中和後のバッファー付与で、これだけの量を残留させることは難しい。

2019年4月3日(水)大型箱の組み立ての時は、複数のスタッフで「せぇの!」と掛け声を合わせながら。

1辺が150㎝を超えるような大型箱を製作するときは複数のスタッフで組み立てを行っています。大きな部材の取り回しや接着剤の塗布、成形など、ひとりではとてもできない作業を分担し、無駄のない動線や立ち位置、道具の置き場所にも気を配りながら作業の流れを作っていきます。

 

また、動作のタイミングを合わせるときには必ず「せぇの!」と掛け声をかけるのが習わしで(うっかり言い忘れると怒られることも・・・)、お互いに息を合わせながら梱包までの作業を進めます。毎日様々なサイズや構造の箱を手掛けますが、こうしたスタッフの緊密な連携作業が常に製作を支えています。

2019年2月20日(水)修理前に行うスポット・ テストとサンプリング・ テストとは?

修理にとりかかる前に行う作業として、カルテの作成、状態撮影、さらにスポットテストとpH測定があります。このうちスポット・テストは大別すると2種類に分けられ、目的がそれぞれ異なります。

 

まず一つは、資料の基材となる紙やイメージ材料に対して、スポット(点)状に試薬を接触させて行うテストです。このテストでは、処置に使用する水溶液や溶剤に対し、修理対象となる紙やインクがどのような反応を示すかを見ています。例えば水に「滲むか滲まないか」だけでなく、その程度や感度、脆弱性をみることで、想定する処置をより具体的にシミュレーションすることが可能となり、場合によってはこの段階で処置方法を再考し、より効果的な手法に転換できることもあります。簡便さ、速さが利点ではありますが、試薬を接触させることで見た目を変えることがないよう、テスト範囲は最小限に留める必要があります。一紙面の中でもどの箇所で行うべきかは慎重に判断しなければなりません。

 

もう一つは、本紙から落ちた微細な破片や、資料を構成する付属材料(粘・接着剤など)に対して試薬を用いて行うサンプリング・ テストです。反応をみるためのスポット・テストとは異なり、本紙や付属材料に含まれる物質を識別するために行います。精密な検査を求める場合はより専門的な分析機器が必要になりますが、修理の方向性を見定めたい時には短時間かつ目視で分かりやすく判別することが可能です。例えば試薬の一つにデンプンを検出する「よう素よう化カリウム溶液」があります。これは、過去の補修時にデンプン糊が使用されたことが分かれば、その補修紙を除去する際、デンプン糊の接着力を緩ませるために水を用いた水性処置は効果的で安全性が高いという判断ができます。

2019年1月23日(水)版画やデッサンなどの紙に描かれた作品類をまとめて保管するには。

版画やデッサンなどの紙の上に描かれた作品類をまとめて箱に入れて保管する際、作品と作品の間に一枚ずつ間紙を挟んだり、それぞれの作品を二つ折りフォルダーに挟むことがある。どちらも作品の保護や色移りの防止などに役立つ包材だが、上手く使い分けることでより効率的な保管ができる。

 

作品を取り出すことが多い、整理番号を明記したいなど個別に扱うことが多い場合は一点ずつ二つ折りフォルダーに挟み、フォルダーごと扱えば作品の保護にもなるし管理もしやすい。

 

一方、作品を取り出すことがほとんどなく、なるべく嵩ばらないように保管したい場合は、薄手の間紙で十分間に合う。包材の紙質については作品の素材や大きさも考慮しながら、厚みや表面のなめらかさなどを検討すると良い。

 

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2018年7月18日(水)紙力が著しく低下したものの薄葉紙での裏打ちは、噴霧器での糊さしと不織布の補助で。

酸化・酸性化により、あるいは水損やカビで紙が「老け」(ふけ=紙の繊維化)て、紙力が著しく低下した本紙を、不安なく取り扱える状態にするためには、裏打ちによる紙力強化が有効です。ただし、そうした資料は水分を含むとさらに脆くなり、直接本紙に刷毛を当てるのも困難な場合があります。こういう場合にはスプレーによる裏打ちを採用しています。

 

まず、薄めたデンプン糊を噴霧器に入れて準備をします。不織布の上に本紙を置き、その上に極薄の和紙(3.6 g/m2)を被せて、上から糊を均一に噴霧し、不織布をかぶせた上から刷毛で撫でて裏打ちをします。

 

この方法は、必要最小限の水分と糊で裏打ちができ、不織布越しで刷毛を使用するため、本紙を傷める心配がなく、安全に行えます。また、本紙と和紙の接着が面状ではなく、点状での接着のため、硬くならず柔らかな仕上がりとなります。

 

※和紙の上から糊を噴霧し本紙と接着させるので、使用する和紙が厚いと糊が本紙まで浸透しません。このため、使用する和紙は3.6 g/m2 程度の極薄紙を使用します。ここでは裏打ちを紹介していますが、文字や画像などがある面への「表打ち」としても使います。

2018年5月9日(水)資料を洗浄する時の水の物性の変化を確認する計測機器。

修理作業では、毎回異なる性質の資料を扱うにあたり、処置結果を同じレベルにするための目安として、計測機器を用いて処置に使用する材料の物性の変化も測り、その値を参考にしながら処置を行います。特に資料の洗浄などの水性処置では、処置中の水のpH・TDS(総溶解固形分)・温度等の変化を測り、処置後の各種値の変化を確認します。

 

これまでは計測結果の表示画面と計測用の電極が一体になったハンディータイプの計測機を使用していましたが、新たに、河川などの水質検査用の電極投げ込みタイプを導入しました。手元の画面で数値の変化を確認しながらチェックシートの記入が行え、また、大きな洗浄槽の中でも計測機の水濡れを気にせず処置を行いながら数値が確認できるようになり、重宝しています。なお、4枚目の画像は処置中・処置後の洗浄液の色の変化を比較したもので、数値の確認と併せてこうした目視観察・記録も行っています。

2018年3月08日(木)フィルム・ エンキャプシュレーションの現在(3) ガス吸着シートの同封が開く新しい可能性

9.  大英図書館の新聞資料は年間1.4t の VOCs を出している

 

保管環境内の汚染ガス対策が紙資料の劣化を抑制することは古くから指摘されていたが、資料自体から発するガスを再び資料が吸着し劣化をもたらすことが広く注目されるようになったのは近年になってである。なかでも英国図書館が2009年に発表した「新聞資料の保管庫内の新聞から発生するガス」の問題は、明快な数値で示したこともあってか、同種の資料を持つ機関に衝撃を与えた。曰く、英国図書館の新聞資料を並べると、棚長は33km、重量は5,300t、そこから発生するガス(VOCs 揮発性有機化合物)は年間 1,4t、放散させ消滅するのには3,800年かかる(画像①)。

 

フィルム・ エンキャプシュレーションでは、この書庫内のような大きな環境と同じことがフィルムの間で生じていることになる。しかも、放散しない密閉環境では、酸性ガスは凝縮されて強い酸になる。これを除去するにはどうすれば良いのか?

 

 

10.  フランスの研究機関CRCDG、ガス吸着シート MicroChamber®︎と同封で抑制効果

 

酸性紙をエンキャプシュレーションをする際に、Shahaniが実証したように、フィルム内で発生するガスをアルカリ性の本文紙が吸着するならば、吸着性能のより高いものを採用すれば、劣化抑制効果は一層高くなるのではないか?

 

これに取り組んだのがフランスの国立紙資料保存研究センター( CRCDG: Centre de recherches sur la conservation des documents graphiques) のFloréal Danielらの研究チームである。Daniel らは、汚染ガスを吸着する MicroChamber®︎に着目した。

 

MicroChamber®︎は 米Conservation Resources International が1992年に製品化したもので、大気中の亜硫酸化物や窒素酸化物などを吸着して、紙焼き写真や文書の変色を抑制できる新しい素材として注目された。ガス吸着材としては活性炭が一般には知られているが、MicroChamber®︎は微細なゼオライト粉の持つ分子ふるい機能(molecular sieve)を紙に担持させたものだ。これまでの吸着材の100倍以上のガス吸着力を持つとされる。MicroChamber®︎は文化財の保存のための革新的な材料として用途開拓が進み、美術館・ 博物館むけの板材 ArtCare®︎もその後開発されたことで、世界的に市場が広がった。

 

Daniel らはまず、Shahani が採用したアルカリ性の本文紙とMicroChamber®︎シートの吸着性能を比較して後者の圧倒的な優位と、フィルムのガスバリア性により外部からの汚染ガスの侵食が無いことを確認し、4種類の紙(ろ紙=コットン紙、酸性紙、弱アルカリ性本文紙、MicroChamber®シート)を亜硫酸化物と窒素酸化物を含む環境下に晒したのち、これをエンキャプシュレーション処置をし、強制劣化後のそれぞれの紙のセルロース重合度の変化を見た。その結果、酸性紙は予想通り重合度の低下が著しいことを再確認した。また、密閉環境下では中性のコットン紙(ろ紙)も自ら発するガスによる劣化は免れないものの、MicroChamber®紙と同封したものは、重合度低下の抑制効果が確認された(画像②  グラフ線上から、エンキャプしない元の紙、弱アルカリ性紙同封、MicroChamber®同封、同封なし)。さらにMicroChamber®シートは下敷きのかたちで接しておらずに近接していても、同様の結果が得られるという新しい知見を明らかにした。

 

 

11.  当社の現在の取り組み— 汚染ガス吸着シートGasQをエンキャプシュレーションに

 

当社は一枚ものの紙資料を安寧に保存・ 利用できる方法として、エンキャプシュレーション技術をいち早く導入した企業である。その後も、ここに紹介してきたような海外での研究の進展を怠りなく見守り、実用上問題ないと判断したものは積極的に取り入れてきた。また、エンキャプシュレーション処置をする酸性の資料については、水性および非水性の脱酸性化処置を封印前に行うことを必須としている。

 

ただ、酸性紙であっても、アルカリ性の炭酸カルシウムやマグネシウムを紙に与える脱酸性処置はしないという資料はある。資料に使われているインクなどのアルカリ耐性が不明で、その確認試験もインクなどを変色させるかもしれない場合だ。また設計図面などに多用されてきた青写真も、基材の紙の酸性度は高いが、アルカリ処置は画像面の変色をもたらすことから、御法度とされている。

 

こうした資料へのエンキャプシュレーションの適用を可能にするのが、MicroChamber®︎に代表されるガス吸着材の同封だ。当社では2012年に汚染ガス吸着シートGasQ®︎を開発・ 上市した。分子ふるい機能を持つゼオライトがセルロース内で高密度に結晶化しており、従来品のようなゼオライト粉体の脱落はなく、シート表面もザラつきがない。接触する資料への影響もPAT等で確認している。肝心の吸着力も、紙の劣化時に最も多く発生する酢酸を例にとると、当初100pm が60分後には1ppmにまで低減する。

 

両製品とも現在、応用開拓に取り組んでいるが、その一つがエンキャプシュレーションへの導入(画像③〜⑥)である。これまでならば封印前の脱酸性化処置に躊躇するような資料へも下敷きとして適用できる。また、上述した Daniel らの研究が述べるように、資料に接しなくて近接していても効果があるならば、下敷きではなく、GasQをフレームのように資料を囲むかたちでエンキャプシュレーションすれば、両面に情報がある資料にも適用可能である。

 

 

12.  エンドユーザー自らがエンキャプシュレーション処置ができる

 

もうひとつの応用の可能性が、エンドユーザー自らがエンキャプシュレーションする際のガス吸着材としての採用である。図書館やアーカイブズ、あるいは美術館・ 博物館が自ら実施したいと思っても、これまでは限界があった。脱酸性化処置ができる機関は限られているし、フィルムの端のシール法も、現在ではスタンダードな方法である高周波溶着機を導入するのは、予算やマンパワーの上で難しい。結局は、当社のような外部の業者に任せるしかなかった。

 

しかし、ガス吸着紙の同封という方法ならば、あらかじめ2辺(L字)、あるいは1辺だけをシールしてあるエンキャプシュレーション用フィルムを購入すれば、自館ですぐに着手できる。L字型なら他の2辺、1辺なら他の3辺は開封されているが、Shahani が指摘しているように、辺が開封しているか否かは関係なく、発生するガスはフィルムの間に行き渡るのだから、ガスを吸着するものと一緒に封印すれば良い。

 

なお、画像⑦ は酸性の本文紙とろ紙とGasQと共にエンキャプシュレーションし、そのまま加速劣化させたもののフィルム内部の酸性度をAD(acid detective)ストリップで測ったものである。GasQの優れた性能がお解り頂けると思う。しかし、GasQ®︎は市場に出したばかりの製品であり、確かな基本性能とは別に、応用分野でのデータの蓄積はスタートしたばかりだ。当社では社内でできる簡易な試験とともに、外部の専門機関への委託試験も数多く行なっており、今後適時、その成果を発表し、お客様のより確かな信頼を得たいと考えている。

 

(終り)

 

 

 関連情報

フィルム・ エンキャプシュレーションの現在 ⑴ なぜこの技術が必要とされ、広く普及したのか?

フィルム・ エンキャプシュレーションの現在(2) 二枚のフィルム内に封じられた酸性ガスは劣化を加速させないのか?

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