今日の工房 

週替わりの工房風景をご覧ください。毎日こんな仕事をしています。

2021年3月19日(金)古い手書き資料の保存事例―製品の特徴を組み合わせて、最適な保存方法を提案する―

弊社では、お客様ごとに異なる固有の課題に合った資料の保存方法を提案するため、製品と製品を組み合わせて使用することがあります。ここでは、お問い合わせをいただいたお客様への対応から、具体的な実践を紹介します。

 

お預かりした資料は、古い手書きの原稿や文書で、紙の酸化・酸性化に伴う劣化が著しく、周辺部の破れ、捲れ、テープ跡、金属留具の錆びといった損傷がみられました。修復処置は、ドライ・クリーニング、損傷箇所の修補などを行った後、フラットニングを行い、取扱いに支障がない状態にしました。保存対応については、もともと使われていた酸性素材の封筒、フォルダを保存性の良い包材へ入れ替え、資料の取り扱い方法を改善するため、1枚毎に透明リフィルでファイリングし、管理ラベルを貼付したアーカイバル・バインダーに収納しました。保存整理・分類を終えた資料は、アーカイバル・バインダーごとファイルボックスにまとめ、一括管理できるようにしました。

 

今回ご依頼頂いた資料は、南アジアの国へ運び、保管・管理するそうで、資料の修復以外に、輸送、保管、取り扱いに関して、地域の実情を考慮しつつ現状で出来うる限り安全な保管環境を保存容器で実現したい、というご相談をいただきました。年間通じて温湿度変化が激しく、スモッグ等の公害による影響もあり、特に建物屋内の温湿度制御が難しいといった場所で、安定した状態を維持できる「安全な囲い」を保存包材で提供することが必要でした。

 

こうした固有の環境条件下で資料を保管・管理するにあたり、複数の製品を組み合わせることによってお応えしました。

 

アーカイバル・バインダースライド・チャック式ガスバリア袋へ収納し、吸湿材(Kodak社製モレキュラー・シーブ)、汚染ガス吸着シートGasQを一緒に封入しました。外気の極端な湿度変動を緩衝するとともに、害虫の侵入や空気中の有害物質をシャットアウト、資料自体から放出されるガスはガス吸着シートに吸着される仕組みです。

ガスバリア袋に収納したアーカイバル・バインダーをまとめて入れるファイルボックスは、不活性フィルムをコートした中性紙ボード「プルーフ」で作成しました。フィルムで被覆したボードは高い撥水性と防汚性をもち、万が一の水害が発生した場合でも、収納した大事な資料を水濡れから守り、埃や汚れも簡単にふき取れます。プルーフ製の保存箱は防湿性にもすぐれ、資料を保管するには理想的とは言い難い環境下でも、収納した資料を安定した状態で保存することができます。

 

各製品のご紹介
アーカイバル・バインダー  
ファイルボックスR 
プルーフ(表面防水加工) 
汚染ガス吸着シートGasQ®ガスキュウ  
無酸素パックMoldenybe®モルデナイベ  
Kodak社製モレキュラー・シーブ 

 

【関連記事】
・『今日の工房』2021年1月22日(金)定型サイズの保存容器のご紹介  
・『今日の工房』2016年11月16日(水)紙焼き写真資料の整理と保存のためのアーカイバルバインダー  

続きを読む

2021年3月12日(金)「セパレートタイプ」のタイベック防護服を取り入れています

汚損資料やカビが発生した資料を取り扱う際の基本装備は、タイベックスーツと気密性の高いマスク(DS2相当)、手袋を装着しています。こうした装備は作業中の安全性を高めるという点で重要ですが、動きやすく作業を快適に行えるという点も重要視しており、特に防護服は作業する現場や目的に合わせて選び分けています。

 

汚れの酷い作業現場、作業範囲が狭く動きに制限がある場合は、衛生面と安全面の高さから全身を覆うつなぎタイプのタイベックスーツを着用することが多いですが、環境が整備され、手元作業や軽作業で長時間動く場合には、上下が分かれた「セパレートタイプ」を使います。軽く、着脱もしやすく、作業性や利便性を向上することができるのでオススメです。

 

 

【関連情報】
・『スタッフのチカラ』2015年12月2日(水)資料に付着した汚れやカビのドライ・クリーニング

・『今日の工房』2018年2月7日(水)スタッフの健康を守るために、 有機溶剤などの化学物質、粉塵・ カビなどへの対策の一環として、防塵・ 防カビマスクを一新しました。

続きを読む

2021年3月2日(火)日本の製本界に変化をもたらした「円本(えんぽん)」

1926年(大正15年)頃から昭和1930年(昭和5年)頃にかけて、日本では円本ブームが起こりました。円本とは、1冊1円で予約を受け付け、毎月1回配本するという新しい形式で販売された書籍です。当時の1冊1円はこれまでの書籍に比べ非常に廉価で、出版社の予想をはるかに上回る何十万冊という申し込みがありました。改造社の「現代日本文学全集」の成功を皮切りに各社から円本企画が続出、画像の春陽堂「明治大正文学全集」もこうして出版された円本の一つです。
1923年(大正12年)の関東大震災で壊滅的な打撃を受けた出版・印刷業界は、この円本ブームにより大量生産に対応するための造本技術を飛躍的に進歩させました。印刷技術の高速化や、手作業に代わり紙折機や糸かがり機など各製本工程の機械化、布クロスなどの国内生産の急伸、箔押しや各工程の分業化もこの時期に始まり、製本機械化の素地を作ったといわれています。
こちらの資料も機械によるかがり綴じで、分業や機械化に適した「くるみ製本(表紙を別に作り、本体をくるむように製本する)」で作られていることを見て取ることができます。

続きを読む

2021年2月24日(水)題簽の下に隠された文字

以前『今日の工房』内でご紹介した、東京大学大学院法学政治学研究科附属近代日本法制史料センター明治新聞雑誌文庫様よりご依頼いただいた一枚物資料の修理。資料をお預かりする際に、ご担当者様から「題簽はあとから貼られ、その下に文字が隠れているはず」とのご説明を受けました。昭和6年の『公私月報』に、この資料の説明文が画像とともに記載されているそうです。後に参考までにと頂いた該当ページを見ると、そこには「墓銘の榻模を一尺二寸に縮刻して大奉書紙に摺ったもの、カキワリの秋草は久保田米僊筆の彩色入りである、永井素岳の書とあるのは、篆刻でも碑文でもなく、何を書いたのか判らない」(『公私月報』第10号、昭和6年、4頁)とあり、題簽のないモノクロ画像が写っています。

 

題簽がいつ頃貼られたものかはわからず、現状では文字が残っているのかもわかりませんでした。ご担当者様からのご依頼は本紙の染みや汚れを落として欲しいとのことでしたので、本紙を洗浄するにあたって解体する必要があったため、その際に文字を確認してみることにしました。

 

題簽を剥がすと、「應嘱 素岳書」の文字と落款がきれいに残っていることが確認できました。ご担当者様と相談した上で、剥がした題簽が資料内容と合致していることや、そこに記された文字が『公私月報』にも記載されていることなどから、最終的には画像を記録した上で題簽を元の位置に貼り戻すことになりました。修理作業中のわずかな間でしたが、素岳の文字が再び露わとなり、ご納品時にはご担当者様と題簽の下の状態を画像を通して共有しました。

 

本稿の掲載並びに画像の使用にあたり、東京大学大学院法学政治学研究科付属近代日本法制史料センター明治新聞雑誌文庫様の多大なるご協力を頂きました。誠にありがとうございました。

 

 

【関連情報】
寺家村逸雅墓銘 書誌詳細(明探:明治新聞雑誌文庫所蔵検索システム)

続きを読む

2021年2月15日(月)山階鳥類研究所様のご依頼で棚はめ込み式保存箱を製作しました。

山階鳥類研究所様は鳥類学の拠点として基礎的な調査・研究を行う研究機関です。講演会や観察会を開催するなど、一般の方を対象とした普及啓発活動も行っています。研究の一環として標本や図書などの基礎資料の収集と整理を行っており、これらは研究者の利用に供されるほかデータベース化されウェブ上に公開されているものもあります。
現在、同研究所では山階芳麿氏や黒田長久氏をはじめ日本の鳥類学を支えた研究者の研究過程で集積した写真資料、ノート、書籍などの整理作業を進めており、そのうちの写真アルバムを収納する組み立て式棚はめ込み箱製作のご依頼をお受けしました。

 

組み立て式棚はめ込み箱は棚の収納スペースを最大限に生かすことを目的に開発された保存容器です。
容器の外面が棚の内側にぴったりと沿うように設計するため内寸を広く確保できます。資料が棚に配架された状態で左右2.5cm、天地1cm、奥行き0.5cmほどの余裕があれば元の並べ方を維持したまま保存容器に収納することが可能です。ヒネリ留め具で開閉する前面のフタは下方に大きく開くので、棚に配架されているときと同じ感覚で資料の出納を行えることも特長の一つです。また、棚にぴったりと収まった保存容器は資料を収納し重みが加わることで安定性が高まり、地震が発生した際の資料の落下リスクを大きく低減します。

 

本稿の掲載ならびに写真の撮影・使用にあたっては山階鳥類研究所様の多大なるご協力を頂きました。心よりお礼を申し上げます。

 

 

【関連商品】
組み立て式棚はめ込み箱

 

【関連記事】
・『スタッフのチカラ』2008年10月30日(木) 新聞合冊製本の保存事例 ―読売新聞社様の導入事例―

・『スタッフのチカラ』2009年07月21日(火) 東京国立博物館における両開き棚はめ込み式保存箱

続きを読む

2021年2月3日(水)仏像の宝冠(ほうかん)、装身具を収納する保存容器

仏像の装身具を平置きで収納するための保存容器を製作しました。薄い銅板製の装身具には精巧な細工が施されており、5つのパーツが容器の中で接触し破損しない工夫が必要でした。そこで、パーツの輪郭線を縁取り実寸大にくり抜いたボードを積層し、装身具を個別に収納できるベースを台差し式保存箱の中に組み込みました。宝冠を収納する箇所には、宝冠の湾曲した空洞部分を支えるアーチ状の土台を取り付けました。

 

こうした複雑な形状の資料に合わせた保存容器を作成する場合、資料の輪郭を写し取った型紙をスキャンして取り込み、CADデータに変換してから製図します。この方法により、精度の高さが求められる難しい形状の加工図面も簡単に作成することができます。

 

 

【関連記事】
・『今日の工房』2010年11月19日(金)土偶用の棚はめ込み式保存箱

・『今日の工房』2010年09月16日(木)鉄扇用のシンク型トレイ付き保存箱

続きを読む

2021年1月27日(水)本の見返しに用いられたマーブル紙の修補

革装本の見返しに色彩豊かなマーブル紙が使われているものがあります。表装が傷み、埃をかぶった古い書物の外見とは対照的に、表紙を開いた時のカラフルな色合いとマーブル模様の美しさに驚くことがあります。マーブル紙は本の装丁の装飾紙として欠かせないものの一つです。

 

こうしたマーブル紙の欠損箇所を修補をする際は、元の印象を崩さないよう心掛けて処置を行っています。

 

欠損部が小さい場合は、似寄りの染色和紙(単色)で補填するだけで違和感のない仕上がりとなりますが、欠損部が大きい場合は弊社では下記のような方法で修補を行っています。

 

1. 見返し紙のマーブル紙をデジタルカメラで撮影します。

 

2. 画像をExcelのシートに挿入します。Excelのセル幅・高さを1㎝四方に調整し、セルを利用して画像を原寸大の模様サイズになるよう調整します。

 

3. 紫外線や水にも強い顔料インクのインクジェットプリンターで和紙に出力し、マーブル模様の補修紙を作成します。

 

4. 補修紙から欠損部と似た模様の箇所を選び、欠損部の大きさに合わせて、補修紙を切り抜きます。切り口はハサミで断ち切りにする場合や、水筆を利用して喰裂にする場合もあります。

 

5. 補修紙を欠損部に当てて全体の印象を確認した後、でんぷん糊を塗布して修補します。

 

以前は大きな欠損部も染色和紙(単色)で修補し、アクリル絵の具や色鉛筆等で補彩をしていましたが、複雑なマーブル模様の再現が難しく時間を要する作業でした。和紙にマーブル模様をプリントする方法を取り入れてからは、再現性も上がり、作業もスムーズになり、何より自然な仕上がりにお客様からもご満足いただいております。

続きを読む

2021年1月22日(金)定型サイズの保存容器のご紹介

弊社のフルオーダー以外の保存容器には規格サイズの資料に適したものが多くあります。写真、フィルム系資料、レコードなどに代表される、ISOやJISの統一規格に基づいた資料は素材や形状が標準化されています。そのため、これらの資料にはサイズ、形状、保存に適した保存容器を定型品としてご用意しています。

 

下記の表は、資料の種類とそれに対応する定型サイズの保存容器の一覧です。比較的低価格でシンプルなデザインの保存容器が多いのですが、フルオーダーの保存容器と同様に、取り扱いの利便性、運搬時の安全性、効率的な収納を念頭に置いて設計されています。こうした定型の保存容器は、お見積り前に形状と価格が分かりますので、ご使用・ご予算のイメージがつきやすいというメリットもあります。

 

 

     対象資料           保存容器
紙焼き写真、写真フィルム アーカイバルバインダー+写真資料用リフィル
紙焼き写真
ガラス乾板
映像フィルム
レコード グラモボックス+中性紙レコードスリーブ
1枚もの(地図、ポスターなど)
封筒、文書ファイル

 

 

資料のサイズごとのおおよその比率を把握しており、厚さ重さも含めて定型サイズに収まる場合は、ぜひご利用ください。

 

なお収納したい資料の特徴に合わせて上記保存容器の寸法を変更することや、上記にない保存容器を設計してお作りすることも可能です。保存容器への収納を検討しているが、どの保存容器にすれば良いのかお困りのときはお気軽にご相談ください。

 

「今日の工房」 これまでの保存容器への収納事例はこちら

続きを読む

2021年1月15日(金)ろ紙を使って汚れた紙資料を洗浄する方法

紙中の水溶性の汚れを除去する洗浄処置にはいくつか方法があります。洗浄液に浸漬する方法や、サクションテーブルで吸引する方法、紙の浮力を利用して洗浄水に浮かべ不純物を取り除く方法(フロート法)、水の表面張力を利用して汚れを除去する方法、ゲランガムのようなゲルを使用して汚れを移す方法、ろ紙で汚れを吸い取る方法(ブロッティング法)などです。紙の性質や損傷状態、イメージ材料、洗浄目的が部分的か全面的かなどを考慮して方法を選択します。
 
今回は、水損による着色汚れが目立つ資料に対して、書写面のイメージ材料に変化がないよう観察しながら処置を進めるために、ろ紙に吸着させるブロッティング法で洗浄を行いました。あらかじめ濡らしておいた本紙の裏面に洗浄液をスプレーした後、同じく洗浄液を含ませたろ紙の上に、書写面が見えるように置いて、汚れの移動やイメージ材料の様子を観察します。汚れの除去が確認できたら、次は湿らせたろ紙で上下を挟んだり、板や重石を載せて洗浄効果を促します。この工程は、本紙の汚れが薄くなるまで、または本紙のpHの上昇など目的の効果が得られるまで、ろ紙を取り替えながら繰り返し行います。
 

 

【関連記事】

・『今日の工房』2019年2月20日(水)修理前に行うスポット・ テストとサンプリング・ テストとは?
・『今日の工房』2015年3月18日(水)修理の各工程で使う水にはこれだけの質が要求されます
・『今日の工房』2014年10月23日(木)新聞資料に対する洗浄・脱酸性化処置

続きを読む

2021年1月4日(月)2021年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

新年、あけましておめでとうございます。
旧年中は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。
 
新年を迎え、気持ちを新たに当社も動き始めました。本年もより良い製品・サービスを皆様へご提供できますように、スタッフ一同尽力して参る所存です。本年も相変わりませず、ご指導ご鞭撻を頂けますよう、心よりお願い申し上げます。また、皆様にとりまして良い一年となりますことをお祈り申し上げます。
 
続きを読む

2020年12月18日(金)修理部門の作業スペース拡張のため、本棚まわりをプチ改装しました

12月も半ばを過ぎ、あわただしさが一層感じられるようになりました。そんな中で、修理部門の手狭なスペースをフル活用するため、壁一面いっぱいのサイズの大型本棚を引っ越しました。これまでモノをよけながら使ってきた作業スペースも隅々まで広く使えるようになり、業務効率が上がる環境になりました。新しく導入した大容量の扉付き本棚は棚の転倒防止対策もしっかりと検討し設置しています。

 

2000年頃から収集を始めた紙媒体記録資料のコンサベーションのための文庫は、現時点で8,000件を超え、社内でのコンサベーション・予防保存関連業務の支援として、逐次、新しい文献を加えて更新されてゆきます。

続きを読む

2020年12月10日(木)釘で製本されている資料の解体

書物を綴じ表紙を付けて製本すること、その製本工程や意匠をデザインすることを「装丁」といい、他に「装幀」「装訂」「装釘」の字を使うことがあります。字の通り、資料の中には「釘」を使って綴じられているものがあります。多数の図面等を合冊製本したものや、アルバムに多く見られる方法で、順番に重ねた本紙を表・裏の両面から釘を打ち込んで綴じ、製本しています。
電子化のために本紙一枚ずつの状態に解体する必要がある場合には、この釘を取り外す処置が必要になります。

 

木材に打ち込んだ釘と同様に、紙の繊維を押し広げて入った釘と元に戻ろうとする紙繊維の間に摩擦力が働き、釘はしっかりと固定され容易には抜けません。釘が錆び、穴周辺の紙と固着している場合もあります。
細い針金とは異なりニッパーで切断することが困難なため、本紙を傷つけないよう力加減しながら、あて紙をしてテコの原理で少しずつ引き出したり、ゆっくり回して固着を緩めながら垂直に引き抜きます。抜けない場合は釘の頭部分を切り落とし、本紙を一枚ずつ取り外すようにして解体します。
解体後に綴じ直しをする際には釘は使用せず、麻糸などを使用して十分な強度を得られるよう工夫して綴じ直します。

 

【関連記事】
『今日の工房』2020年11月27日(金)マイクロ化のための合冊製本された新聞資料の解体

『今日の工房』2016年4月13日(水) ステープルやクリップなどの鉄製の留め具を安全に外すには

続きを読む

2020年12月4日(金)郷土玩具(土人形・土鈴)を収納する仕切り付台差し箱の製作 めぐろ歴史資料館様の事例

郷土玩具は日々の生活の中で伝承されてきた土地々々に特有の玩具です。現在でもだるまやこけし、張子、独楽などは身近な存在なのではないでしょうか。
玩具にはそれぞれに厄除け、お祝い、幸運祈願、更には地域風習の教材、教訓といった意味があります。そのため同じ動物をかたどった玩具でも土地柄が反映されて色彩や造形に違いがあったり、それと反対に離れた場所でも共通点があったりもします。このような性格を持つ郷土玩具は各地の文化や生活を知ることのできる貴重な資料であり、研究や収集の対象となっています。

 

めぐろ歴史資料館様所蔵の郷土玩具は同区内にお住まいだった菱田忠夫氏のコレクションを中心としています。上記玩具のほか土人形、土笛、土鈴、絵馬、御札、トランプ、かるた、マッチ箱、凧などを所蔵し、その数は1200点を超えます。
このうち菱田氏のお気に入りの土人形と土鈴は樹脂製のコンテナに収納していました。土人形(土鈴)の大きさに対してコンテナの容量が大きく、人形同士の接触防止のために、個々に箱に収めていたため、資料の出し入れがしづらい状態でした。

 

そこで上記の懸念点の解消を念頭に置いた保存容器製作のご依頼を頂きました。
箱内に仕切りを付け底面に緩衝材(プラスタゾート)を敷いたことで資料の出し入れを安全かつ容易に行えるようになりました。
また保管場所に合わせて大きさを統一し、保存容器自体の取り扱いやすさも上がりました。

 

保存箱の収納を終えて、担当の方々から「床の緩衝材で、土人形(土鈴)の出し入れに不安がなくなった」、「中仕切りがあることで閲覧性が向上した」、「担当者とやりとりを重ねたことで、必要な機能を盛り込んだ箱にすることができた」などの感想をいただきました。資料館の方々から、今回は所蔵資料の整理保存において、その緒に就いたところであり、継続して進めていきたいとの意気込みを頂きました。

 

なお本稿の掲載並びに写真の撮影・使用にあたり、めぐろ歴史資料館様の多大なるご協力を頂きました。誠にありがとうございました。

 

 

【関連商品】
台差し箱・被せ箱

仕切り

 

【関連記事】
・『今日の工房』2017年12月13日(水)強い衝撃から資料を守るポリエチレンフォームAZOTE®を組み込んだ保存箱

・『今日の工房』2018年12月26日(水)全長4メートルの大型保存箱を製作しました。

・『今日の工房』2019年11月7日(木)東京造形大学附属美術館様の所蔵品、絵本作家小野かおるの立体作品の保存箱を製作しました。

・『今日の工房』2020年8月20日(木)たばこと塩の博物館様からのご依頼で「嗅ぎたばこ入れ」を収納する保存容器を製作しました。

続きを読む

2020年11月27日(金)マイクロ化のための合冊製本された新聞資料の解体

東京大学大学院法学政治学研究科附属近代日本法政史料センター明治新聞雑誌文庫様よりお預かりした明治24年から大正3年の新聞合冊は、新聞のノドに穴をあけて麻紐を通し平綴じされており、ノドの部分に印刷された文字が読めない状況でした。そのため、撮影するにあたり、綴じを外して一枚ずつの状態になるよう解体作業を行いました。
 
取扱いに支障があるような本紙の破損については修補を行い、撮影後は綴じ直しはせず、中性紙のフォルダーで包み保存容器へ収納しました。
 
 

【関連記事】

・『今日の工房』 2020年11月11日(水)愛知県長久手市にあるトヨタ博物館様より書籍修理のご依頼をいただきました。

・『今日の工房』 2020年9月10日(木)明治新聞雑誌文庫様より、一枚物「寺家村逸雅墓銘」の修理をご依頼いただきました。

・『今日の工房』 2016年6月15日(水) 明治新聞雑誌文庫様所蔵の屏風の下張りに使用されていた新聞への保存修復手当て

・『今日の工房』 2016年3月16日(水) 明治新聞雑誌文庫様所蔵の屏風の下張りから新聞を取り出す。

・『今日の工房』 2019年11月1日(金)松竹大谷図書館様が所蔵する映画スクラップ帳のデジタル化に伴う解体・簡易修補を行いました。

・『今日の工房』 2014年09月05日(金)デジタル撮影の事前処理

・『スタッフのチカラ』 2008年10月30日(木) 新聞合冊製本の保存事例  -読売新聞社様の導入事例-

続きを読む

2020年11月18日(水)陶器製のカップ作品を収納する保存容器を製作しました。

陶造形作家の村上仁美様よりご依頼を受け、カップアンドソーサーの作品を収納する保存容器を製作しました。作品を保存容器に収納した上でご購入されたお客様へ納品されるということで、収納作業は村上様立ち会いの元、作品を取り扱っているぎゃらりい秋華洞様にて行いました。

 

作品は「不思議の国のアリス」をモチーフにしたティーカップとソーサーが組みになっている陶製のオブジェです。立体的で可憐な装飾が繊細かつ複雑に施されており、些細な衝撃でも破損してしまう恐れがあるため、カップとソーサーはそれぞれ薄葉紙くるみんで丁寧に包装をしました。特に注意が必要な細工の細かい部分には、揉み込んで柔らかくさせたくるみんを緩衝材として当てています。包みを結ぶ紐にも細く裂いたくるみんを使用しています。

 

保存容器は被せ蓋式の箱の身を90°横に倒し、作品を横から出し入れできるように設計しました。箱の中は上下2部屋に仕切り、カップとソーサーを別々に収納する部屋を設けています。蓋を被せた箱は安全に持ち運びができるよう、箱紐で結びました。収納作業を終えた作品は、後日ぎゃらりい秋華洞様から購入者様へ無事納品されました。

続きを読む

2020年11月11日(水)愛知県長久手市にあるトヨタ博物館様より書籍修理のご依頼をいただきました。

1800年代後半から1900年代前半の大型書籍13点のうち、今回は月刊誌を年単位でまとめた合冊製本への処置についてご紹介します。

 

合冊製本とは新聞や雑誌といった逐次刊行物を半年や1年など一定期間ごとに1冊にまとめる製本法です。書架スペースの圧縮や資料管理の簡便さなどメリットはありますが、書籍の厚みや重さによって、見開きが悪くなったり取り扱いがしづらかったり、資料の利用面で制約が生じることがあります。

 

今回の対象資料は、約A4サイズで厚みが11㎝の書籍で、重さが6㎏(A4コピー用紙500枚の束で約2kg)とかなりの重量があり、両手で抱えて持たないと移動させるのも困難な資料でした。今後の閲覧や利用を考慮し、冊子単位に解体して1冊ごとに綴じ直す処置を行いました。

 

まず、表紙と本体の接合を外し、綴じ糸を外しながら分冊しました。この資料は合冊製本には珍しく、背を断裁せずに製本していたため、元の括構造が残っており、きれいに解体することができました。次に、背の接着剤(膠)を除去し、表紙の色に合わせた和紙で背を被覆し補強しました。最後に元の綴じ穴を利用して麻糸で綴じ直しました。

 

元の括構造が残っていたこともあり見開きが良く、さらに軽量となったことで扱いやすくなり、閲覧も楽にできるようになりました。

 

 

■トヨタ博物館様
https://toyota-automobile-museum.jp/

続きを読む

2020年11月6日(金)汚染ガス吸着シート 「GasQ」のガス吸着効果を可視化した展示サンプルをご紹介します。

展示会や研修会のご来場者にご覧いただいている、汚染ガス吸着シート 「GasQ®」のガス吸着効果を示すサンプルをご紹介いたします。

 

資料の輸送や梱包に使われる茶段ボール。保存にはあまりよくないということは分かりながらも、材料を使い捨てで再梱包するという予算が無くそのまま保管用としても使用される場合があります。

 

こうした茶段ボールはパルプ製造の際に使用される硫化ソーダの影響で硫黄分を含有しており、段ボールに密閉された状態で数週間以上保管すると、硫化分が還元性の硫黄系ガス(硫化水素や二硫化炭素、硫化カルボニルなど)として発生していることが確認されます。このような、物質から放出されるガスはアウトガスと呼ばれており、カドミウム・錫・鉛・銅・水銀・銀など多くの金属と硫化物を作りやすく、物質を腐食させる大きな原因となります。特に銀は硫化水素ガスに触れると硫化(腐食)が進み茶褐色化しやがて黒化します。

 

これら2つの特徴を利用し、GasQのガス吸着効果の可視化を目的としたサンプルを製作いたしました。

 

[サンプルについて]
GasQの入っていないものをサンプル①、GasQの入っているものをサンプル②とします。
どちらも温度50℃~60℃、相対湿度80%~90%の環境で28日間加速劣化させた茶段ボールで銀箔を挟んでいます。その外側をガラスで挟み、周縁部にタイベックテープを貼って密封しました。
サンプル②には最前面に加えて銀箔の前後にもGasQが入っており、各部分2枚ずつ計6枚のGasQが封入されています。

 

密封から4か月経過時点でサンプル①の銀箔には黒化が見られますが、サンプル②の銀箔に色の変化はほとんど見られません。GasQが劣化した茶段ボールから発生する硫化水素ガスを吸着し、銀箔の腐食変化を予防していることが分かります。

 

紙は素材としてある程度の通気性を持ち、アーカイバル容器の材料であるアーカイバルボードも例外ではありません。そのため、微量なガスにも敏感に反応する金属資料や写真資料などを保存する場合はガスへの対策が必要です。GasQを封入することでアーカイバル容器に幅広いガスへの吸着能力を付与し、ガスに敏感な資料も安全に保存することができます。

 

 

【関連記事】
・『スタッフのチカラ』2013年3月27日(水)「中期保存向け」箱やフォルダーに使われる国産ボードの品質について

・『今日の工房』2014年7月17日(木) 資料や市販の桐箱から出る有機酸ガスを観る実験

・『今日の工房』2014年9月11日(木) 市販の桐箱から出る有機酸ガスを観る実験2

・『今日の工房』2015年6月17日(水) 歴代延岡藩主の印章を保管するー多様な素材と形にシンク式容器とGasQ®で対応

・『今日の工房』2016年1月22日(金) 日本郵船歴史博物館様の絵画の収蔵環境を保存容器とガス吸着シートで改善

・『今日の工房』2017年2月22日(水) ひな人形をGasQ®️で養生し、元の木箱に保管する。

・『今日の工房』2019年5月15日(水) NPOゲーム保存協会様からのご依頼でフロッピーディスクを長期保管するための専用容器を作成した。

続きを読む

2020年10月30日(金)🎃ハロウィンをテーマに—資料にみる衝撃的な損傷状況の数々を集めました🎃

いつも当社ブログをご覧いただき誠にありがとうございます。今回はハロウィンにちなんで、私たちが恐れている資料の損傷について画像でご紹介します。この体験を皆さんと共有できたなら幸いです。

 

こうした資料の修理事例はこちらからご覧いただけます。
『スタッフのチカラ』(修理事例、各種報告や研究発表、スタッフが関わった著作物などを紹介しています)

『今日の工房』 (コンサベーションタグ)

 

続きを読む

2020年10月23日(金)絨毯を保管する大型の保存箱を製作しました。

染織品や織物のように額装のない大きな作品を保管するときには、折れや皺ができないように中性紙の紙管を用いて、作品の表を外側にして筒に巻きつけ保管することがあります。特に絨毯やタペストリーなどは刺繡がほどこされている部分といない部分の境目に皺が生じる可能性があり、さらに紙管が折れ曲がりできる皺などで作品を傷つけないよう直径が大きい紙管を使い、保存箱は蓋があり他の箱が上に積み重ねられても十分耐えられる頑丈なものを選ぶ必要があります。作品を箱へ収めた後は、緩衝材を用いて内部の隙間を埋めていきます。これにより、箱の中で文化財が揺れるのを防ぐとともに、衝撃を吸収することができます。

 

今回保存箱を製作した絨毯は全部で20点あり、大きいものだと長さが4m、重さが35kgあります。

 

保存箱の形状は巻子用保存箱で、底面と天面を2重、側面は3重にアーカイバルボードを貼り込み補強しています。大きく重たい絨毯を収納する箱は、歪みが生じないように4重補強しています。絨毯を巻きつけた紙管を支える軸受も8㎜厚のボードを積層した通常より堅牢な構造です。絨毯が箱の底面に接しピンポイントで圧力がかかることがなく、また、紙管の口側を持ったまま軸受に置き、重たい絨毯も安全に出し入れできます。さらに、上から軸受を被せ、紙管を360度囲むことによって、箱の中で固定できるよう工夫されています。収納後は綿布団や薄葉紙をあて、全体を包み込むようにして保管します。

 

長さが4m、幅と高さが40㎝の保存箱は5人ががりで製作しました。大型の保存箱を製作する際は、接着剤を多く塗って補強し、硬化してしまう前に手の平でしっかりと圧着することで、より強い構造の保存箱になります。

 

 

【関連記事】

・『今日の工房』2014年03月13日(木)全長3メートルの巨大な巻子を収納するための大型箱

・『今日の工房』2014年05月16日(金)染織品を中性紙管に巻いたまま収納するための箱

 

続きを読む

2020年10月15日(木)公的機関や企業のお客様だけでなく、個人のお客様からのご依頼もお引き受けしております。

弊社では個人のお客様からの資料保存に関するご相談、修理や保存容器のご依頼も承っております。ご自宅にある古い書籍や思い出の写真アルバム、地区やお寺・神社に伝わる文書、大切にしている日記、賞状、手紙等々–過去にご依頼いただいた実績の中から、長年愛用されてきた革装の辞書と、代々伝わる地図の修理事例を紹介いたします。

 

革装の辞書は、表装革のレッドロット化(革が長期間にわたり空気中の汚染物質に曝されることで赤茶けた粉状に劣化する現象)が進行し、触れると革が剥がれる箇所もありました。背表紙は色あせ、表紙周辺にひび割れや欠損、ヒンジ箇所(表紙と本体の結合部)に裂けが見られました。本紙や本体に傷みは無く、もとの雰囲気を保ちつつ本を開くことができるようにという、ご依頼でしたので、処置としては、表装革に生じたレッドロットに対する手当てを行い、背表紙を本体から一旦外し、背をこしらえ、新たに和紙でヒンジを設け、本体と背表紙を再接合しました。表装革の欠損箇所は革の色に合わせて染色した和紙で補填しました。

 

地図資料は、A1サイズ程の薄い和紙に墨で描かれた手書彩色図。数枚の和紙を継ぎ足して一枚に描き、渋引きされた和紙で裏打ちされていました。この地図は頻繁に使われたのか、周辺に破れや摩擦による穴が見られ、また、折り畳んだ状態で保管されていたため折れ皺や折りクセが強く残っていました。お客様のご希望は、地図を電子化し、資料の利用はデジタルデータで、現資料は今以上に傷まないように保管したいということでしたので、処置としては、フラットニングし、破損箇所を和紙とでんぷん糊で修補したのち、デジタル撮影をしました。その後、ロール・エンキャプシュレーションを行い、複数本まとめて保存箱に収納しました。

 

ご相談はお気軽にお寄せください。

 

 

【関連記事】
・スタッフのチカラ『学習院大学図書館様所蔵「華族会館寄贈図書」資料に対する保存修復処置事例』
・スタッフのチカラ『立教大学図書館様所蔵洋装貴重書に対する保存修復手当て』
・スタッフのチカラ『「表紙の外れた革装丁本は、どのように修理するのですか?」のご質問にお答えします。』
・今日の工房 2019年6月12日『ロール・エンキャプシュレーションのサンプルを作る。』
・今日の工房 2012年9月21日『ロール・エンキャプシュレーションによる大判地図の修復手当て』

 

続きを読む
ページの上部へ戻る