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2021年11月11日(木)アーカイバルボードで作品展示用の斜台を製作しました。
美術館・博物館の展示ケース内で使われる作品置台や展示台は、木製の下地材の上にクロスを貼ったものが多く、用いている材料から発生する微粒子や揮発性ガスが文化財を傷めることがわかっています。また、展示ケースは温湿度の安定や大気汚染物質等の流入を防ぐために高気密設計となっており、これはー方で、展示物に影響を与えるガスの残留と改善の難しさの要因にもなっています。
こうした汚染ガスは、枯らし換気等による軽減、展示ケースにも使用可能なガス吸着材・ガス吸着シートを使用した、対症療法的な対応が行われていますが、確実な効果が必ずしも担保されるものではありません。そのため、展示ケースの内装材、展示台の素材には、化学物質含有量の低い素材を選び、また十分な枯らしをおこなったうえで、施工、制作することが望ましいとされています。
今回製作した展示台に使用した材料は、資料に直接触れても影響の出ない素材でPhotographic Activity Tests(PAT):ISO18916:2007 写真保存用包材のための写真活性度試験に合格したものを使用しています。アーカイバルボードの断面が露出しない作りで正面から見た時の鑑賞の妨げにならない、斜面に対して直角の「かえし」を取り付け展示物に負担がかからないようにする、内部を補強した堅牢な作りで大きな展示台でも安定して展示物を載せられるなど、デザイン面でも構造面でも工夫しました。アーカイバルボードを使用しているためオフガスや汚染物質の影響はなく、また、展示する資料の大きさや形態に合わせて、斜台角度や高さを自由設計できる点もメリットの一つです。
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『今日の工房』
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・2009年09月10日(木)本の閲覧や展示のために使われる書見台
2021年10月29日(金)慶應義塾大学三田メディアセンター様所蔵「A.N.L. Munby旧蔵 書字の歴史に関する資料箱」を収納する保存容器を作成しました。
歴史的な資料を数多く所蔵している慶應義塾大学三田メディアセンター(慶應義塾図書館)では、その特性を生かし、多岐にわたるテーマでの展示が随時企画されています。今年4月には、(西洋)文字景―慶應義塾図書館所蔵西洋貴重書にみる書体と活字とのタイトルで、様々な時代の貴重な手書き写本や活版印刷本、特殊コレクションが展示されました。現在この展示会は終了していますが、KeMCo(慶應義塾ミュージアム・コモンズ)360 VIEWで「(西洋)文字景」のデジタル展示がご覧いただけます。
今回、三田メディアセンター様よりご依頼いただき、本展示会で展示された「A.N.L. Munby旧蔵 書字の歴史に関する資料箱」の保存容器を作成しました。
「A.N.L. Munby旧蔵 書字の歴史に関する資料箱」について Keio Object Hub
資料箱の蓋を開けると木製の引き出しが3つ積み重ねられており、各引き出しには様々な形態、素材でできた資料が仕切り板で区切られた部屋に納められていました。なかには額入りの手書き写本やガラス板で挟まれたパピルス文書も収納されていました。これらの引き出しや仕切り板は、経年劣化で所々に傷みがみられ緩衝材なども劣化が進み変質していました。そのため、資料を個別に収納するための仕切り付き保存箱と、資料箱本体を収納する箱を作成しました。額、ガラス板は蓋付きのシンクに収納しました。緩衝材には新薄葉紙Qlumin™くるみんと文化財保護用フォーム材のプラスタゾートを使用しています。
本事例の掲載にあたり、慶應義塾大学三田メディアセンタースペシャルコレクション担当の倉持隆様、竹内美樹様に多大なるご協力をいただきました。誠にありがとうございました。
▼慶應義塾大学三田メディアセンターのスペシャルコレクション担当では、職員と利用者に対して、閲覧前に手を洗い清潔な手で資料を扱うよう促しています。また、「貴重書を閲覧するにあたって」(PDF) では、取扱いに際し「資料は素手で取り扱い、手袋等は使用しないでください。また資料は閲覧机の上に置いたままご覧ください。」と明記しています。貴重で繊細な資料ほど、手から伝わる触感が材料の脆弱性を理解するために必要だからです。資料の適切な取扱いについて利用案内等に明記することは資料の破損・汚損の予防につながります。
【参考文献】
『スタッフのチカラ』
・2008年09月19日「貴重書は白手袋を着けて」という誤解 蜂谷伊代訳
・2011年04月05日 洋装貴重書の取扱い ブリティッシュ・コロンビア大学図書館貴重書・特別資料室の指針 高田かおる訳
2021年8月20日(金)長さ4m超の水引幕を平置き保管するための、大型保存箱
神社の祭礼の出し物として使われる「笠鉾」の胴体部に巻く水引幕を収納する保存箱の製作依頼を受けました。水引幕は豪華な刺繍が施された飾り付け用の幕で、広げると全長が4mを超える物もあります。幕の刺繍や布地の保護のため、なるべく折り畳まずに平置きで保管ができるよう幅1.1m×長さ4.3mの大型の保存箱を製作することになりました。
保存箱の身は持ち運びの際にたわみや歪みが起きないよう壁を6重に積層し補強をしています。また納品先での搬入通路を通るためには荷物の長さを3m程度に収める必要があり、保存箱の身を半分に折り畳んだ状態で輸送ができる箱の構造を考案しました。箱の身は収蔵庫内へ搬入後畳んだ状態から開いて箱の形に戻し、箱中央(折り目部分)の壁の切断箇所を固定するため、アルミ板の留め具を壁に埋め込みました。
蓋は取り外しを簡便にするため乗せ蓋式とし、全体を3分割にして、それぞれの蓋裏に四方桟を取り付けました。箱を積み重ねて保管するため、上からの荷重で蓋がたわまないように蓋の四方と中央にH型のアルミハカマを組み込み補強しました。水引幕を収納した箱は箱紐で結び蓋が不用意に外れないよう固定しました。
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『今日の工房』2018年12月26日(水)全長4メートルの大型保存箱を製作しました。
2021年7月19日(月)横浜英和学院様所蔵の卒業アルバムのドライクリーニング、保存容器への収納
横浜英和学院は1880(明治13)年にアメリカの女性宣教師H.G.ブリテンにより横浜山手の居留地に女学校として創立されました。1886(明治19)年には校名を「横浜英和女学校」と改めました。その後、生徒数の増加に伴い、1916(大正5)年に現在地の横浜市蒔田に移転しました。戦争の影響などでの幾度かの校名変更を経て、2014年(平成26年)の中学高等学校と青山学院大学との提携を機に、2016(平成28)年に校名が青山学院横浜英和中学高等学校となり、2018(平成30)年には中高男女共学化となりました。
▪学院の沿革:横浜英和学院ホームページより抜粋 https://www.yokohama-eiwa.ac.jp/
同学院では、横浜英和学院の歴史に関する文書、写真、記念品のほか、卒業生寄贈資料の卒業アルバムを、大切な歴史資料として収集・保存を行っています。今回、2020年の創立140周年記念事業の一環で、1910(明治43)年~2019年(令和元年)までの卒業アルバム約100冊の内、カバーのない約80冊分のドライクリーニングと保存容器への収納を行ないました。これらの卒業アルバムは、スチール製の引き戸付きキャビネットに収納されていましたが、アルバムの外装、特に小口に経年によるチリやほこりの堆積が見られました。
卒業アルバムは作られた時代によって様々な形態があります。1980年代以前の古い卒業アルバムの特徴として、外装に布クロスやビニールレザーが使われていたり、綴じ紐・金具、台紙の厚紙、プリント写真、手書き文書(インク、墨書き)の貼り込みがあるなど、さまざまな材料が複合してつくられていることが挙げられます。構造的に見ると、写真が台紙に貼られていたり、三角コーナーで留められていたりするので、書籍や冊子にくらべ「隙間」が多く、内部にまで細かなチリや埃が入りやすいといった特徴もあります。そのため、クリーニングする際のポイントとして、各ページののど、そして写真の縁や画像面もクリーニングすることをお勧めします。
クリーニング作業では、ブラシノズルを装着したHEPAフィルター付き掃除機とクリーニングクロスを使い、アルバム外装と本体内部のチリやほこりを除去しました。スチール棚は、消毒用エタノールを含ませたペーパータオルで拭き取って清掃しました。
酸性台紙に貼られた写真は、台紙から発生する酸性物質の影響で、画像面の銀鏡化、退色が生じるため、新薄葉紙Qlumin™くるみんで台紙サイズに合わせた間紙を作りました。ページごとに挟むことで酸性台紙の影響から画像面を保護します。
クリーニング処置を行い各頁に間紙を挟んだアルバムは、一点毎に採寸しタトウ式保存箱へ収納しました。保存箱の背に発行年度を印字したラベルを貼付し、キャビネットへ発行年度順に再配架しました。
本事例掲載にあたり、横浜英和学院理事長の伊藤美奈子様に多大なるご協力をいただきました。誠にありがとうございました。
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『スタッフのチカラ』
・2015年12月2日 資料に付着した汚れやカビのドライ・クリーニング
『今日の工房』
・2020年1月22日(水)オプションサービス「ラベル作製・貼付」のご紹介
・2019年6月19日(水)共立女子大学図書館様の貴重書1900点のカビ被害のクリーニングから保存容器収納まで。
・2021年5月17日(月)小石川植物園様所蔵の大型革装丁本のドライクリーニングと保存容器収納を行ないました。
・2021年6月28日(月)野外彫刻展作品をおさめた写真アルバムの修理
2021年6月18日(金)重量のある額縁に入った絵画を収納する保存箱を製作しました。
絵画作品の額縁は、大きな肖像画作品を飾るために用意された彫刻のような額縁で、総重量が40kgもあります。さらに、前面の保護ガラスの重さが加わり、桁違いの重量がありました。額縁のレリーフは、木地に石膏を塗り成形し金箔で装飾された古典技法で作られており、石膏が剥がれ、突き傷や擦れた跡が随所にみられました。
今回、収蔵庫スペースの都合から縦置きに保管する必要があり、箱の仕様設計にあたっては、取り扱い面と荷重に耐えられるだけの十分な強度の確保に配慮した工夫を保存箱に施しました。
保存箱の仕様は台差し箱をベースに、額を固定するL字スペーサーを四隅に取り付け、取り外しができるブロック状のスペーサーを側面に組み込みました。各スぺーサーの内側は補強が施されており、頑丈で堅牢なつくりです。スペーサーは作品を支える部材として、また、荷重に対して保存箱の反りやたわみなどの変形も抑える効果もあります。
絵画の裏面には展示用の金属ワイヤーが付いており所々が凹凸していたので、箱の潰れ・穴あきを防ぐため、内装に文化財保護用フォーム材のプラスタゾートを一面に施工しました。蓋の内側にも、額縁の表面に沿うように微調整されたプラタゾートを設置し、レリーフに負荷がかからないようにしました。
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2021年5月17日(月)小石川植物園様所蔵の大型革装丁本のドライクリーニングと保存容器収納を行ないました。
小石川植物園の名で親しまれている東京大学大学院理学系研究科附属植物園は、自然誌を中心とした植物学の研究・教育を目的とする東京大学の教育実習施設です。この植物園は日本の近代植物学発祥の地でもあり、現在も東アジアの植物研究の世界的センターとして機能しています。植物園本館には植物標本約70万点(植物標本は、東京大学総合研究博物館と一体に運営されており、全体で約170万点収蔵されています)、植物学関連図書約2万冊があり、内外からの多くの植物研究者に活用されています。園内には長い歴史を物語る数多くの由緒ある植物や遺構が今も残されており、国の史跡および名勝に指定されています。
▪植物園の概要:東京大学大学院理学系研究科附属植物園ホームページより抜粋 https://www.bg.s.u-tokyo.ac.jp/koishikawa/
今回、植物学関連図書約2万冊の内、劣化が進んだ植物標本図約120冊に対して、今後の取り扱いと保存状態を改善するための資料と書架のクリーニングと保存容器への収納作業を行いました。対象資料の多くが大型の革装丁本で、レッドロット(革が長い時間にわたり光や空気中の汚染物質に曝されることで赤茶けた粉状になる現象)が進み亀裂や剥落が著しい状態でした。この状態になった資料は、利用に支障をきたすだけではなく、本紙や書庫全体の汚染の原因となります。また、隣り合う資料との摩擦によって、レッドロットの状態になった資料自体がさらに傷んでしまいます。
クリーニング作業では、ブラシノズルを装着したHEPAフィルター付き掃除機とクリーニングクロスを使い、資料や周辺に飛び散り堆積したチリやほこりを除去しました。スチール棚に蓄積された汚れは、消毒用エタノールを含ませたペーパータオルで拭き取って清掃しました。
表装の革が劣化した資料はGasQやくるみんで外装を包み保護しました。これにより、取り扱いの際のレッドロットの粉による手の汚れや周囲の汚損も防ぎます。資料は一点ずつ採寸し、適切なサイズ・仕様の保存容器を作製しました。ある程度厚み・重さのある資料は組み立て式シェルボックスに、その他の資料はタトウ式保存箱に収納し、保存容器にはタイトルを印字したラベルを貼付して、これまでの配架方法を変えることなく、閲覧性を維持できるよう再配架しました。こうした資料への予防的保存措置によって、破損の拡大をおさえ、環境も改善され、良好に保存することができます。
本稿の掲載および写真の撮影・使用にあたっては東京大学大学院理学系研究科附属植物園様と東京大学理学図書館様の多大なるご協力を頂きました。誠にありがとうございました。
【関連商品】
・汚染ガス吸着シートGasQ®ガスキュウ
・新薄葉紙Qlumin™くるみん
・組み立て式シェルボックス
・タトウ式保存箱
・中性ラベル
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・『今日の工房』2019年6月19日(水)共立女子大学図書館様の貴重書1900点のカビ被害のクリーニングから保存容器収納まで。
・『今日の工房』2018年10月3日(水)傷みやすい資料は、保存箱に収納する前に“包む”ことで、より安全に保存し、取り扱うことができます。
2021年4月16日(金)棚板に高強度な樹脂製パネルを用いた、引き出し付き保存箱
過去のブログ記事で紹介した『今日の工房 2020年6月18日(木)大判の絵図を収納するマップケース型の専用保存箱』引き出し付きの保存箱に、棚板の強度を高める改良を加えました。
以前製作した引き出し付き保存箱は、棚板内にアルミ製の角パイプを組み込み、これをアーカイバルボードで覆うような構造でした。そのため一棚ごとの貼り合わせ工程が多く、箱の骨組みになる大事な箇所になるのですが、1箱を完成させるまでに大変時間がかかりました。今回製作した改良版は、箱の構造材と棚板に厚み約8㎜のポリプロピレン樹脂製パネルを使用し、内壁のパネルにアルミパイプを梁のように取り付け棚板を下から支える構造にしました。高強度化の要になるこの連結方法で耐荷重性能が格段に上がり加工時間も短縮され、強度面で金属製の棚にも引けを取らない頑丈さを持たせる事ができました。(画像では、撮影のためパネルとアルミパイプをテープで仮止めしています)。組み上げた棚板ユニットをアーカイバルボードで作成した保存箱の外装パーツに貼り合わせて仕上げます。この樹脂製パネルは中芯がハニカム構造で、高強度・超軽量、曲げ剛性もあり変形しにくいという特徴があります。一般用途では電気自動車の内装材や家具にも採用されています。
保存箱は移動式書架のスチール棚にぴったり収まるサイズで設計されています。また、書架のどちら側からも資料の取り出しができるように保存箱の両面に扉が付いています。3段の引き出しトレイ付きで収納効率もよく資料へのアクセスもし易くなりました。
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2021年4月1日(木)香雪美術館様のご依頼で刀装具(とうそうぐ)を収納する保存箱を製作しました。
香雪美術館は朝日新聞社の創業者・村山龍平が蒐集した日本、東洋の古美術コレクションなどを収蔵する美術館として昭和48年(1973)に開館しました。所蔵品は、仏教美術、書跡、絵画から茶道具、武具に至るまで幅広く、重要文化財19点、重要美術品33点を数えます。広大な敷地内にある旧村山家住宅は、和洋の建物を擁する明治、大正期の邸宅の面影を今に伝え、国指定重要文化財となっています。また、同美術館が開館45周年を記念し、新たな展示施設として2018年にオープンさせたのが中之島香雪美術館です。大阪屈指のビジネス街である中之島エリアの中之島フェスティバルタワー・ウエスト4階にある美術館では、村山コレクションが順次公開されています。
今回、刀装具(とうそうぐ)を収納する保存箱のご依頼をいただきました。およそ600点ある刀装具は昨年から調査が進められており、さまざまな形や種類の刀装具を分類・整理するための保存箱を製作しました。
保存箱は、鍔、目貫、笄(こうがい)などの各刀装具の寸法に応じて、一つの箱内で、分かりやすく収納できるよう、簡単に取外し組み替え可能な仕切りを設けました。刀装具を収納する各部屋には、資料番号と資料画像を印刷したラベルが貼られ、資料情報を一目で識別でき、出し入れ等などの管理が楽にできます。また、保存箱の外寸を揃えたことにより、保管する収蔵棚やキャビネットに無駄なく納まり、取り扱いがし易い状態になっています。
本稿の掲載ならびに写真の撮影・使用にあたっては香雪美術館様の多大なるご協力を頂きました。誠にありがとうございました。
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・『今日の工房』2020年12月4日(金)
郷土玩具(土人形・土鈴)を収納する仕切り付台差し箱の製作 めぐろ歴史資料館様の事例
・『今日の工房』2020年8月20日(木)
2021年3月19日(金)古い手書き資料の保存事例―製品の特徴を組み合わせて、最適な保存方法を提案する―
弊社では、お客様ごとに異なる固有の課題に合った資料の保存方法を提案するため、製品と製品を組み合わせて使用することがあります。ここでは、お問い合わせをいただいたお客様への対応から、具体的な実践を紹介します。
お預かりした資料は、古い手書きの原稿や文書で、紙の酸化・酸性化に伴う劣化が著しく、周辺部の破れ、捲れ、テープ跡、金属留具の錆びといった損傷がみられました。修復処置は、ドライ・クリーニング、損傷箇所の修補などを行った後、フラットニングを行い、取扱いに支障がない状態にしました。保存対応については、もともと使われていた酸性素材の封筒、フォルダを保存性の良い包材へ入れ替え、資料の取り扱い方法を改善するため、1枚毎に透明リフィルでファイリングし、管理ラベルを貼付したアーカイバル・バインダーに収納しました。保存整理・分類を終えた資料は、アーカイバル・バインダーごとファイルボックスにまとめ、一括管理できるようにしました。
今回ご依頼頂いた資料は、南アジアの国へ運び、保管・管理するそうで、資料の修復以外に、輸送、保管、取り扱いに関して、地域の実情を考慮しつつ現状で出来うる限り安全な保管環境を保存容器で実現したい、というご相談をいただきました。年間通じて温湿度変化が激しく、スモッグ等の公害による影響もあり、特に建物屋内の温湿度制御が難しいといった場所で、安定した状態を維持できる「安全な囲い」を保存包材で提供することが必要でした。
こうした固有の環境条件下で資料を保管・管理するにあたり、複数の製品を組み合わせることによってお応えしました。
アーカイバル・バインダーをスライド・チャック式ガスバリア袋へ収納し、吸湿材(Kodak社製モレキュラー・シーブ)、汚染ガス吸着シートGasQを一緒に封入しました。外気の極端な湿度変動を緩衝するとともに、害虫の侵入や空気中の有害物質をシャットアウト、資料自体から放出されるガスはガス吸着シートに吸着される仕組みです。
ガスバリア袋に収納したアーカイバル・バインダーをまとめて入れるファイルボックスは、不活性フィルムをコートした中性紙ボード「プルーフ」で作成しました。フィルムで被覆したボードは高い撥水性と防汚性をもち、万が一の水害が発生した場合でも、収納した大事な資料を水濡れから守り、埃や汚れも簡単にふき取れます。プルーフ製の保存箱は防湿性にもすぐれ、資料を保管するには理想的とは言い難い環境下でも、収納した資料を安定した状態で保存することができます。
各製品のご紹介
・アーカイバル・バインダー
・ファイルボックスR
・プルーフ(表面防水加工)
・汚染ガス吸着シートGasQ®ガスキュウ
・無酸素パックMoldenybe®モルデナイベ
・Kodak社製モレキュラー・シーブ
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2021年2月15日(月)山階鳥類研究所様のご依頼で棚はめ込み式保存箱を製作しました。
山階鳥類研究所様は鳥類学の拠点として基礎的な調査・研究を行う研究機関です。講演会や観察会を開催するなど、一般の方を対象とした普及啓発活動も行っています。研究の一環として標本や図書などの基礎資料の収集と整理を行っており、これらは研究者の利用に供されるほかデータベース化されウェブ上に公開されているものもあります。
現在、同研究所では山階芳麿氏や黒田長久氏をはじめ日本の鳥類学を支えた研究者の研究過程で集積した写真資料、ノート、書籍などの整理作業を進めており、そのうちの写真アルバムを収納する組み立て式棚はめ込み箱製作のご依頼をお受けしました。
組み立て式棚はめ込み箱は棚の収納スペースを最大限に生かすことを目的に開発された保存容器です。
容器の外面が棚の内側にぴったりと沿うように設計するため内寸を広く確保できます。資料が棚に配架された状態で左右2.5cm、天地1cm、奥行き0.5cmほどの余裕があれば元の並べ方を維持したまま保存容器に収納することが可能です。ヒネリ留め具で開閉する前面のフタは下方に大きく開くので、棚に配架されているときと同じ感覚で資料の出納を行えることも特長の一つです。また、棚にぴったりと収まった保存容器は資料を収納し重みが加わることで安定性が高まり、地震が発生した際の資料の落下リスクを大きく低減します。
本稿の掲載ならびに写真の撮影・使用にあたっては山階鳥類研究所様の多大なるご協力を頂きました。心よりお礼を申し上げます。
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・組み立て式棚はめ込み箱
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2021年2月3日(水)仏像の宝冠(ほうかん)、装身具を収納する保存容器
仏像の装身具を平置きで収納するための保存容器を製作しました。薄い銅板製の装身具には精巧な細工が施されており、5つのパーツが容器の中で接触し破損しない工夫が必要でした。そこで、パーツの輪郭線を縁取り実寸大にくり抜いたボードを積層し、装身具を個別に収納できるベースを台差し式保存箱の中に組み込みました。宝冠を収納する箇所には、宝冠の湾曲した空洞部分を支えるアーチ状の土台を取り付けました。
こうした複雑な形状の資料に合わせた保存容器を作成する場合、資料の輪郭を写し取った型紙をスキャンして取り込み、CADデータに変換してから製図します。この方法により、精度の高さが求められる難しい形状の加工図面も簡単に作成することができます。
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2021年1月22日(金)定型サイズの保存容器のご紹介
弊社のフルオーダー以外の保存容器には規格サイズの資料に適したものが多くあります。写真、フィルム系資料、レコードなどに代表される、ISOやJISの統一規格に基づいた資料は素材や形状が標準化されています。そのため、これらの資料にはサイズ、形状、保存に適した保存容器を定型品としてご用意しています。
下記の表は、資料の種類とそれに対応する定型サイズの保存容器の一覧です。比較的低価格でシンプルなデザインの保存容器が多いのですが、フルオーダーの保存容器と同様に、取り扱いの利便性、運搬時の安全性、効率的な収納を念頭に置いて設計されています。こうした定型の保存容器は、お見積り前に形状と価格が分かりますので、ご使用・ご予算のイメージがつきやすいというメリットもあります。
対象資料 | 保存容器 |
紙焼き写真、写真フィルム | ①アーカイバルバインダー+写真資料用リフィル |
紙焼き写真 | |
ガラス乾板 | |
映像フィルム | |
レコード | ⑤グラモボックス+中性紙レコードスリーブ |
1枚もの(地図、ポスターなど) | |
封筒、文書ファイル |
資料のサイズごとのおおよその比率を把握しており、厚さ重さも含めて定型サイズに収まる場合は、ぜひご利用ください。
なお収納したい資料の特徴に合わせて上記保存容器の寸法を変更することや、上記にない保存容器を設計してお作りすることも可能です。保存容器への収納を検討しているが、どの保存容器にすれば良いのかお困りのときはお気軽にご相談ください。
「今日の工房」 これまでの保存容器への収納事例はこちら
2020年12月4日(金)郷土玩具(土人形・土鈴)を収納する仕切り付台差し箱の製作 めぐろ歴史資料館様の事例
郷土玩具は日々の生活の中で伝承されてきた土地々々に特有の玩具です。現在でもだるまやこけし、張子、独楽などは身近な存在なのではないでしょうか。
玩具にはそれぞれに厄除け、お祝い、幸運祈願、更には地域風習の教材、教訓といった意味があります。そのため同じ動物をかたどった玩具でも土地柄が反映されて色彩や造形に違いがあったり、それと反対に離れた場所でも共通点があったりもします。このような性格を持つ郷土玩具は各地の文化や生活を知ることのできる貴重な資料であり、研究や収集の対象となっています。
めぐろ歴史資料館様所蔵の郷土玩具は同区内にお住まいだった菱田忠夫氏のコレクションを中心としています。上記玩具のほか土人形、土笛、土鈴、絵馬、御札、トランプ、かるた、マッチ箱、凧などを所蔵し、その数は1200点を超えます。
このうち菱田氏のお気に入りの土人形と土鈴は樹脂製のコンテナに収納していました。土人形(土鈴)の大きさに対してコンテナの容量が大きく、人形同士の接触防止のために、個々に箱に収めていたため、資料の出し入れがしづらい状態でした。
そこで上記の懸念点の解消を念頭に置いた保存容器製作のご依頼を頂きました。
箱内に仕切りを付け底面に緩衝材(プラスタゾート)を敷いたことで資料の出し入れを安全かつ容易に行えるようになりました。
また保管場所に合わせて大きさを統一し、保存容器自体の取り扱いやすさも上がりました。
保存箱の収納を終えて、担当の方々から「床の緩衝材で、土人形(土鈴)の出し入れに不安がなくなった」、「中仕切りがあることで閲覧性が向上した」、「担当者とやりとりを重ねたことで、必要な機能を盛り込んだ箱にすることができた」などの感想をいただきました。資料館の方々から、今回は所蔵資料の整理保存において、その緒に就いたところであり、継続して進めていきたいとの意気込みを頂きました。
なお本稿の掲載並びに写真の撮影・使用にあたり、めぐろ歴史資料館様の多大なるご協力を頂きました。誠にありがとうございました。
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・台差し箱・被せ箱
・仕切り
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・『今日の工房』2019年11月7日(木)東京造形大学附属美術館様の所蔵品、絵本作家小野かおるの立体作品の保存箱を製作しました。
・『今日の工房』2020年8月20日(木)たばこと塩の博物館様からのご依頼で「嗅ぎたばこ入れ」を収納する保存容器を製作しました。
2020年11月18日(水)陶器製のカップ作品を収納する保存容器を製作しました。
陶造形作家の村上仁美様よりご依頼を受け、カップアンドソーサーの作品を収納する保存容器を製作しました。作品を保存容器に収納した上でご購入されたお客様へ納品されるということで、収納作業は村上様立ち会いの元、作品を取り扱っているぎゃらりい秋華洞様にて行いました。
作品は「不思議の国のアリス」をモチーフにしたティーカップとソーサーが組みになっている陶製のオブジェです。立体的で可憐な装飾が繊細かつ複雑に施されており、些細な衝撃でも破損してしまう恐れがあるため、カップとソーサーはそれぞれ薄葉紙くるみんで丁寧に包装をしました。特に注意が必要な細工の細かい部分には、揉み込んで柔らかくさせたくるみんを緩衝材として当てています。包みを結ぶ紐にも細く裂いたくるみんを使用しています。
保存容器は被せ蓋式の箱の身を90°横に倒し、作品を横から出し入れできるように設計しました。箱の中は上下2部屋に仕切り、カップとソーサーを別々に収納する部屋を設けています。蓋を被せた箱は安全に持ち運びができるよう、箱紐で結びました。収納作業を終えた作品は、後日ぎゃらりい秋華洞様から購入者様へ無事納品されました。
2020年11月6日(金)汚染ガス吸着シート 「GasQ」のガス吸着効果を可視化した展示サンプルをご紹介します。
展示会や研修会のご来場者にご覧いただいている、汚染ガス吸着シート 「GasQ®」のガス吸着効果を示すサンプルをご紹介いたします。
資料の輸送や梱包に使われる茶段ボール。保存にはあまりよくないということは分かりながらも、材料を使い捨てで再梱包するという予算が無くそのまま保管用としても使用される場合があります。
こうした茶段ボールはパルプ製造の際に使用される硫化ソーダの影響で硫黄分を含有しており、段ボールに密閉された状態で数週間以上保管すると、硫化分が還元性の硫黄系ガス(硫化水素や二硫化炭素、硫化カルボニルなど)として発生していることが確認されます。このような、物質から放出されるガスはアウトガスと呼ばれており、カドミウム・錫・鉛・銅・水銀・銀など多くの金属と硫化物を作りやすく、物質を腐食させる大きな原因となります。特に銀は硫化水素ガスに触れると硫化(腐食)が進み茶褐色化しやがて黒化します。
これら2つの特徴を利用し、GasQのガス吸着効果の可視化を目的としたサンプルを製作いたしました。
[サンプルについて]
GasQの入っていないものをサンプル①、GasQの入っているものをサンプル②とします。
どちらも温度50℃~60℃、相対湿度80%~90%の環境で28日間加速劣化させた茶段ボールで銀箔を挟んでいます。その外側をガラスで挟み、周縁部にタイベックテープを貼って密封しました。
サンプル②には最前面に加えて銀箔の前後にもGasQが入っており、各部分2枚ずつ計6枚のGasQが封入されています。
密封から4か月経過時点でサンプル①の銀箔には黒化が見られますが、サンプル②の銀箔に色の変化はほとんど見られません。GasQが劣化した茶段ボールから発生する硫化水素ガスを吸着し、銀箔の腐食変化を予防していることが分かります。
紙は素材としてある程度の通気性を持ち、アーカイバル容器の材料であるアーカイバルボードも例外ではありません。そのため、微量なガスにも敏感に反応する金属資料や写真資料などを保存する場合はガスへの対策が必要です。GasQを封入することでアーカイバル容器に幅広いガスへの吸着能力を付与し、ガスに敏感な資料も安全に保存することができます。
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2020年10月23日(金)絨毯を保管する大型の保存箱を製作しました。
染織品や織物のように額装のない大きな作品を保管するときには、折れや皺ができないように中性紙の紙管を用いて、作品の表を外側にして筒に巻きつけ保管することがあります。特に絨毯やタペストリーなどは刺繡がほどこされている部分といない部分の境目に皺が生じる可能性があり、さらに紙管が折れ曲がりできる皺などで作品を傷つけないよう直径が大きい紙管を使い、保存箱は蓋があり他の箱が上に積み重ねられても十分耐えられる頑丈なものを選ぶ必要があります。作品を箱へ収めた後は、緩衝材を用いて内部の隙間を埋めていきます。これにより、箱の中で文化財が揺れるのを防ぐとともに、衝撃を吸収することができます。
今回保存箱を製作した絨毯は全部で20点あり、大きいものだと長さが4m、重さが35kgあります。
保存箱の形状は巻子用保存箱で、底面と天面を2重、側面は3重にアーカイバルボードを貼り込み補強しています。大きく重たい絨毯を収納する箱は、歪みが生じないように4重補強しています。絨毯を巻きつけた紙管を支える軸受も8㎜厚のボードを積層した通常より堅牢な構造です。絨毯が箱の底面に接しピンポイントで圧力がかかることがなく、また、紙管の口側を持ったまま軸受に置き、重たい絨毯も安全に出し入れできます。さらに、上から軸受を被せ、紙管を360度囲むことによって、箱の中で固定できるよう工夫されています。収納後は綿布団や薄葉紙をあて、全体を包み込むようにして保管します。
長さが4m、幅と高さが40㎝の保存箱は5人ががりで製作しました。大型の保存箱を製作する際は、接着剤を多く塗って補強し、硬化してしまう前に手の平でしっかりと圧着することで、より強い構造の保存箱になります。
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2020年10月7日(水)共立女子大学・共立女子短期大学図書館様所蔵の版画作品133点への保存処置 -既存台紙からの取り外し・マッティング・保存容器収納まで-
版画作品の来歴について
近代教育学の始祖・絵本の父と呼ばれるコメニウスの生誕400年を記念し、 1992年に開催された「国際蔵書票コンペティション」にて選ばれた52作家の版画作品、全133点。
版画作品の状態と保存処置方針について
版画作品は酸性紙の台紙に接着剤や粘着テープで貼りこみそのまま額装され段ボール箱に収納されていました。貴重書室に保管されていましたが、保存の観点から見た場合、適切ではない作品の保存形態であることが問題となりました。
古い台紙には酸性紙が使用されていることが多く、額縁の内部環境を酸性に傾けたり長期間接触していると作品の紙や色材に酸の影響がでる恐れがあります。また、台紙に固定するための接着剤やテープ類がしみの原因となることもあります。一部の作品は額縁内で剥がれ落ちており、表面が損傷する恐れもあることから、作品を酸性台紙から外しクリーニングなどの保存処置を行ったのち、1点ごとにブックマット[※1]へ装着しました。処置後の版画作品は、専用の保存箱へ収納し、保存性と取り扱い易さを考慮した形にしました。
[※1]ブックマットは版画作品などを額装にするときに使われているマウント方法です。窓抜きした表側のボード(ウィンドウマット)と作品を支える裏側のボード(台マット)を、本のように一辺をテープなどで接合する形式です。このようなマット装丁は作品本体へのアクセスも容易で、作品の固定方法によっては背面の観察もできます。ブックマット装で作品を長期に保存するためには、作品に悪影響を与えない素材を選択することが大切です。
主な保存処置は下記のとおりです。
1. 台紙からの取り外し
糊や粘着テープで台紙に貼り込まれた版画作品を取り外した。糊による接着の場合は、接着面の台紙を一層剥がし版画の裏面に残った台紙に僅かな湿りを与えて除去した。粘着テープによる接着の場合は、温めたスパチュラを差し込み粘着剤を緩めて除去した。版画の裏に貼られたキャプションは粘着テープの除去後、でんぷん糊で元の位置に貼り戻した。
2. ドライ・クリーニング
取り外した版画作品は、画面を傷つけないよう細心の注意を払いながら刷毛やクリーニングクロスを使い表面の塵や埃を除去した。その後、元の並び順や登録番号のまとまりごとにポリエステルフィルム製リフィルに入れ一時保管し、ブックマットへのマウント作業に備えた。
3. 採寸、ブックマットの作製とマウント作業
版画作品それぞれのサイズに合わせたブックマット[※2] を作製した(レモン画翠へ依頼)。ブックマットの窓部分は作品サイズに合わせて作製し、全体の外寸は額縁サイズに統一した。台紙マットへの固定はでんぷん糊と和紙を使いTヒンジ形式で行った。作品をめくれば裏に貼付したキャプション等の情報が確認できる。
[※2] ブックマットのボードは特種東海製紙株式会社製ピュアマットを使用。窓マット:特厚口(2.5㎜)/ 台マット :厚口(1.7㎜)
4. 保存容器の作製、収納
ブックマットを15点ずつ収める保存容器を作製した。版画作品と窓マットの間には新薄葉紙Qlumin™くるみんを挟み、各ブックマットの間には中性紙(ピュアガード)を間紙として挟んだ。こうした間紙は作品表面を保護し外からの湿気や酸性ガスを緩衝するので、作品の部分的な変色や劣化を防ぎ保存性が向上する。保存容器にはブックマットの出し入れを安全に行えるようにトレイを付けた。
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2020年9月3日(木)「特大のポスター作品を収納するタトウフォルダー」
縦1.8×横1.2メートルの超大判ポスター作品を、3枚まとめて保管するタトウフォルダーの製作依頼を受けました。
タトウフォルダーは、大判で1枚物の紙資料を挟み込んで収納するための薄型のアーカイバル容器です。大きく分けて2種類のパーツを組み合わせて製作します。外側のパーツは二つ折りに加工したアーカイバルボードを使用し、縁に取り付ける平紐を結んでとじる構造です。資料を収納する内側のパーツは、無酸・無アルカリの中性紙を使ったタトウ形状の十字型フォルダーで、4辺のフラップを立ち上げ包み込むように畳む構造です。資料が直接触れる面が平滑でより良い保存状態になるように配慮されています。
今回製作したタトウフォルダーは縦1.8×横1.2メートルの超大型サイズのため、使用する紙・ボードの原紙サイズの都合から、内外のパーツは2分割にしつなぎ合わせています。
作品が収納される中性紙のタトウは外側からボードに挟み込まれ、上下左右均等に付いた平紐を結び固定されているので、垂直に立てて持ち運んでも開く心配がなく、安全に保管・管理することができます。縦置きにも対応でき、厚みの外寸が15mm程度のため場所をとらず省スペースで保管できます。
【関連情報】
『今日の工房』2014年4月24日「A1サイズのタトウフォルダーを大量に製作するための、特設作業台」
2020年8月20日(木)たばこと塩の博物館様からのご依頼で「嗅ぎたばこ入れ」を収納する保存容器を製作しました。
「嗅ぎたばこ入れ」はヨーロッパで嗅ぎたばこが広く嗜まれ始めた17~18世紀ごろ、外出時の携帯や卓上での保管のために使われていました。当時の宮廷社会を中心に広まり、その流行は上流階級の人々のファッションとなったことに深い関係があります。貴金属製の本体にエナメル加工を施したものや宝石を散りばめたものなど、美麗な装飾を施した嗅ぎたばこ入れもありました。また、嗅ぎたばこ入れは中国にももたらされ、瓶や壺の形をした独特の鼻煙壺(びえんこ)となりました。単なる道具にとどまらないその優れた意匠や質感から工芸品的価値が高く、現在でも収集家は少なくありません。
*たばこの歴史と文化-嗅ぎたばこ- たばこと塩の博物館様ホームページ参照
https://www.tabashio.jp/collection/tobacco/t7/index.html
たばこと塩の博物館様所蔵の嗅ぎたばこ入れは、ある収集家から寄贈されたものが中心で、貴金属や動物の角などの様々な素材からできています。そのうち約400点は収集家自身がしつらえた仕切り付きの布張り箱に収納され、恒温恒湿の収蔵庫の棚に2段に重ねて保管されていましたが、この元箱には蓋が無く、粉塵や紫外線など外環境からの影響が懸念されました。
そこで、容器内の仕切りや棚に2段重ねできるサイズ、といった元の布張り箱の利点を踏襲しながら、「仕切りを嗅ぎたばこ入れのサイズに合わせて動かせる」、「より安定して2段に重ねられる」、「外環境からの影響を低減させる」といった機能を追加したアーカイバル容器をご依頼頂きました。
今回製作した保存容器には、内部に可動式の仕切り、底面に2段重ねを安定させる凸部、天面に開口部を覆う蓋を付けています。
容器の長辺側内壁には複数の切り込みを設け、任意の位置で仕切りを差し込むことができます。これにより嗅ぎたばこ入れのサイズに合わせて容器内を仕切ることができます。また、容器を2段に重ねる際、下段容器に本体の裏側に設けた凸部を嵌め合う構造で安定性が増すとともに構造上の補強となり歪みに強い作りです。この構造は全ての容器に共通しているため、従来の運用と同じく、どの容器の組み合わせでも2段に重ねることができます。
そして上段容器には平板状の蓋をのせ、粉塵や紫外線などの影響を防ぎます。蓋の裏側には容器裏側と同様、開口部に合わせて設計した凸部を貼り付け、容器の幅と奥行きを増やすことなく、本体容器にぴたっと嵌まる構造になっています。
なお、本稿の掲載ならびに写真の撮影・使用にあたり、たばこと塩の博物館様の多大なるご協力を頂きました。誠にありがとうございました。
【関連商品】
・アーカイバル容器オプション 仕切り
2020年7月31日(金)慎重な取り扱いが必要な資料にはフラップ付保存箱に「トレイ」を組み合わせて
傷んだ資料や構造的に繊細な資料は「トレイ」にのせてフラップ付保存箱へ収納することで、資料に直接手を触れずに安全に出し入れでき、取り扱いに起因する物理的な損傷を軽減できます。
「トレイ」の形状を決めるには、資料そのものの特徴(形・材質・寸法)、重量・状態(脆い、凹凸がある等)の他、保管条件、利用頻度なども考慮します。
割れやすいガラス瓶には文化財保護用フォーム材AZOTE® (プラスタゾート)を貼り合わせたトレイをおすすめしています。フォーム材で底部を固定でき安全に出し入れができます。
織物や染織品などの布資料には、アルカリに反応しやすいものもあるので、弱アルカリ性のボードに直接触れないように緩衝材を用いたり、ノンバッファー紙で包みトレイにのせます。
細かい突起物がある立体模型や装飾のある立体物には、移動時に箱の内側に当たらないよう縁付きのトレイを作成したり、振動や摩擦を防ぐため緩衝材を取り付けたりできます。重量のあるものにはトレイを補強し歪みやたわみが出ないよう堅牢な構造にもできます。
割れたガラス乾板や傷みのひどい染織品など、極力触れない方が良いものに対しては、シンク型のトレイをおすすめします。取り扱いが楽で保存箱に重ねて収納できます。
「トレイ」は複雑な形状の工芸品や陶磁器、立体物や博物系の資料、ガラス乾板写真など、様々な資料の適切な取り扱いを補助するツールとして有効です。資料の形や傷み具合、取り扱い方法の違いに応じたトレイの形状をご提案いたします。
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